第27話 あんたは骨が色っぽい
白石は感心したようにうなずいた。山中の部屋の天井からあふれるジャズが、しだいに白石の緊張をほぐしてゆく。
この部屋は、居心地がいい。
白石はのんびりとつぶやいた。
「ズボン1本売って10万円。それで月に合計1千万の売り上げか。たいしたもんだな」
ウデが良いんだ、と言って、山中はにやりと笑った。
「まあ、正直言えば他のハイブランドに行ったほうが金は入るんだが、おれはドリーが気に入っている。とうぶん動く気はねえな」
好きにやらせてもらっているから、と山中は言って、部屋の隅からドリー・Dのロゴが入ったショッパーを持ってきた。
「さて、働いてもらおうか」
★★★
白石が、山中の部屋に来てやることは簡単だ。
まず山中の作った食事を食べる。次に、山中の広いワンルームの部屋の中でベッドエリアに移動して、そこの真っ白な壁の前に立つ。
山中がドリー・Dの店から持ってきた服を着て、写真を撮られる。以上だ。
山中が持ち帰るアイテムはいろいろあるが、ほとんどがパンツだった。
細身のデザインもあるし、ワイド幅もある。素材も、シルクのようにとろりとしたものやツイードのように粗い生地もあり、リネンのようにしゃっきり・くったりしたものもあった。
白石には服の素材はよくわからないが、いずれも着心地が良く、形がきれいなことはすぐに分かった。
そしてドリー・Dのパンツは、ただ見ているよりも、白石が履いて動いたほうがきれいなラインになるということも、驚きだった。
白石がそう言うと、山中はふんぞりかえって答えた。
「ドリーはあんまりデザイン画を重視しないんだ。それよりも、ざっくりと作った服をモデルに着せて、そこからどんどん手直しをしていく。
だから出来上がった服は動きやすいうえに、動いたときのラインがきれいに出る」
今夜のパンツはデニムだ。
ごくごくシンプルなデニムパンツに下着姿の白石が足を入れると、山中が機械的な手つきでパンツを引き上げ、ウエストのボタンは開けたままで、ジッパーを半分引き上げた。そして、今夜はシャツも脱ぐように言う。
「脱ぐ?」
白石が警戒するように言うと、山中はしごく真面目な顔つきで
「脱いで、こっちを着ろ」
と指示した。白石が見ると、山中が分厚いシルクのシャツを持っている。細いリブが入ったシルクシャツは、暗いグリーン色だった。
「早く着がえねえと、寒いぞ」
山中はそう言いながら、自分は白石の足元にしゃがみ、パンツをざっくりとロールアップして白石のくるぶしの骨を出した。そして一歩さがって全体を確認し、また、足元にしゃがむ。
「片足ずつあげてくれ。靴下も脱ぐんだ」
「はあ」
と、白石はもう山中のなすがままだ。
足を上げると、山中が片足ずつそっと靴下を脱がせて、横に置いたブーツを裸足のままはかせた。
サイドジッパーを上げないままブーツをはくと、白石のくるぶしの骨がブーツの隙間からのぞく。山中は神経質に、ブーツのジッパーのあき具合を直している。
それからシルクシャツの右手のほうは白石の肩に引っ掛けるように着せて、左手は袖まで手を出させた。
そしてシャツの裾を、やはり腰骨が露出するように調整してから、襟元に手をかけた。
「鎖骨、腰骨、くるぶし。あんたは骨が色っぽい」
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