第9話裏工作・其の2
「なるほどなあ、スポコン。たしかにスマホで取引っちゅうのは便利やなあ。いちいち現金持ち歩く必要もないし、ネットオークションちゅうもん間にはさむ必要もない」
「でしょ、マグナムちゃん。これならおじちゃんは僕のゲームを選んでくれるに決まってるよね」
「せやけど、話はそう簡単やないんやなあ」
マグナムが自分の言ったことをほめてくれたので、スポコンはうれしそうに顔をほころばせた。しかし、マグナムの次の言葉で否定されたので、スポコンがうろたえてマグナムを問い詰め始めた。
「えっ、どういうことなの、マグナムちゃん。スマホじゃダメなの」
「ええか、スポコン。落ち着いて聞くんやで」
マグナムにそう言われてスポコンがかしこまった表情になった。
「スポコン、おっちゃんはおっちゃんなんや。うちらとは違う。うちらと考え方が同じやと思っちゃいかんのや」
「どういうこと、マグナムちゃん。もっとわかりやすく説明してよ」
「つまりな、おっちゃんはもう年やさかい。スマホ取引なんてピンと来ないんや。おっちゃんの年になったら、もうそうそう簡単に新しいものは受けいられへんのや」
マグナムの言うことはきついが、ただしいことだ。スマホ取引なんて、ためしにやってみたがどうもお金をどうこうしている実感がわかない。スポコンが俺のスマホに何かして、『はい、おじちゃん。お金だよ』なんて言われてもお金をもらった気分になるだろうか。
そう俺がマグナムの言う通りだなあなんて表情をしていると、スポコンががっかりしたような顔をしている。
「あ、いや。スポコンの気持ちはうれしいよ。だから、そんな顔しないで、ほら」
俺がスポコンをなぐさめていると、マグナムが俺にこっそり近づいて何かを差し出してくる。
「で、おっちゃん。話は変わるけど、突然おしかけてえらい迷惑かけてしもうたな。これ、とりあえずのお近づきのしるしや。ただのお菓子やさかい、遠慮のうもらってえや」
そう言いながら、マグナムが俺に菓子折りをぎゅうぎゅう押しつけてくる。お近づきのしるしのただのお菓子……俺が思ったことをマグナム以外の四人も思ったようで、いっせいにマグナムを非難し始めた。
「なにがただのお菓子ですか、マグナムさん。どうせやまぶき色のお菓子なんでしょう」
「いえ、カクゲーさん。さすがに大判小判がザックザクとは考えにくいですわ。わたくしの想像では、上げ底でお金が隠してあるのではないかと」
「いや、ヨコスク。お菓子の包み紙がお札と言うパターンもありえるのではないか」
「みんな、発想が古いよ。おじちゃんにはスマホ取引なんて新しすぎるなんて言っておいて、自分だけちゃっかりQRコードか何かでおじちゃんのスマホにお金が振り込まれるようにしてるんだ」
カクゲー、ヨコスク、シューター、スポコンの四人に責め立てられはするものの、マグナムは落ち着いている。
「みんな、そないに興奮せんといてや。別にお金なんて仕込んどらへんから。おっちゃん、ちょいとこのお菓子、返してもらうで。ほら、みんな、見てえや」
マグナムがそう言って自分が持ってきた菓子折りの箱を開けた。中のお菓子はなんの変哲も無いおまんじゅうだ。
「とりあえず、このまんじゅうでも食うて落ち着きいや、みんな。ほら、おっちゃんも食えへんか」
そうマグナムにうながされて、俺も含めたマグナム以外の五人がおまんじゅうを口にした。なかなかおいしい。
「これは……あたしとしては悪くありません」
「わたくしの舌を満足させるとは」
「わたし、こんなもので買収されないからね。だからもう一つ」
「甘ーい。僕このおまんじゅう大好き」
そう言いながらおいしそうにおまんじゅうをほおばる俺たちを見ながら、マグナムがクスクス笑っている。
「ほれ、箱も上げ底になんてなっとらへんで」
そう言って、おまんじゅうの箱を振ってみせるマグナムだったが、急に俺に向かって話してくる。
「それで、おっちゃんに聞きたいんやが。おっちゃん、しばらく予定ないんやろ。せやったらしばらく夕方はうちらに付き合ってくれへんか。月曜はカクゲーの、火曜はヨコスクの、水曜はシューターの、木曜はスポコンの、金曜はうちのゲームをしてほしいんや。土日は……とりあえず今は保留っちゅうことで。みんなもそれでええか」
「あたしはおじさんがあたしたち五人のゲームをやってくれるんだったらそれで……」
「わたくしも異存ありませんわ。だから、おじさま、お願いできますか」
「おやじさん、わたしたち五人のゲームをプレイしてほしいんだけど……」
「おじちゃん、僕たち全員のゲームなんて面倒かな」
そんなふうにマグナム、カクゲー、ヨコスク、シューター、スポコンも五人にたたみかけられて、俺はついうなづいてしまった。
「わ、わかったよ」
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