第8話裏工作・其の1
「そ、それはその。どれにしろと言われても……」
そんなふうに俺はどのゲーム世界をプレイするか決めかねていた。すると、カクゲーがなりふりかまわず俺に自分の格闘ゲームをさせようとしてくる。
「おじさん。もし、おじさんがあたしの格闘ゲームをプレイしてくれるんだったら、すっごい特典があるんですよ。おじさん、ひょっとしたらこんなこと考えているんじゃあありませんか。『俺にゲームをプレイしろって言ったって、ゲームのプレイばっかしているわけにはいかないじゃないか。生きていくにはいろいろ必要なものがあるんだ』なんて。そんな心配をする必要はないのです」
そう言うと、カクゲーが制服のスカートからサイフを取り出してお札を何枚か取り出した。
「おじさん。あたしはおじさんにあたしのためにゲームをプレイしてもらいたいと言っているんですよ。当然、あたしにはそれに対する対価を用意しています」
そのようにカクゲーが俺に現金を差し出そうとするのを見て、ヨコスクが声をはりあげる。
「なんてはしたないことをなさるんですか、カクゲーさん。そんな現金でおじさまのよこっつらをひっぱたくようなことをなさるなんて、恥を知りなさい」
いかにもなお嬢さまと言った雰囲気のヨコスクなので、こう言った金にものを言わす行動が一番似合いそうだなと思ったのだが、そんなことはなかったみたいだ。そう思っていたら、ヨコスクが制服から封筒を取り出して俺にこう言った。
「おじさま。これはわたくしの気持ちと申しますか……ゲームをプレイするのにも電気代とかかかりますし。わたくしたちもおじさまに部屋におじゃまさせていただくわけですから、必要経費としてこんなものを準備させていただきましたわ」
そんなヨコスクに、カクゲーはあきれた様子でこう言った。
「それじゃあ結局やってることはあたしと同じじゃないのよ、ヨコスクさん」
そのカクゲーの言葉に、ヨコスクはきっぱりと反論した。
「なにをおっしゃるんですか、カクゲーさん。わたくしは、現金をかくさずにそのままおじさまに差し出すのがはしたないと申したんですわ。お金を渡す時は、このように封筒などにいれてはっきりそうとはわからないようにさしだすのがエチケットと言うものです」
そんなカクゲーとヨコスクのやりとりを聞いていたシューターが、聞いていられないといった様子で声を張り上げた。
「やめてよ、二人とも。そんな、おやじさんにお金を渡して自分に有利になるよう仕向けるなんて、ゲームに対する侮辱もいいところだよ」
ふうん。シューターは自分のゲームの評価を金で買うような事はしたくないのか。けっこう潔癖というか、純粋なところがあるんだな。俺がそう思っていると、シューターが続けてこう言った。
「それで、おやじさん。おやじさんが今やっているゲームで、レアガチャとかがネットオークションで高値で取引されているようなゲームってないかな。わたしには、おやじさんがそのレアガチャを手に入れられるようになる能力があるんだけど」
シューターの言ったセリフに、カクゲーとヨコスクが口をとがらせる。
「なによ、それ。結局おじさんがお金を手に入れることには変わらないじゃない」
「そうですわ。『ゲームに対する侮辱』とかなんとか言って、やっていることはわたくしたちと同じではありませんか」
カクゲーとヨコスクは当然と言えば当然と言える反応をシューターにするが、シューターは気にもとめない。
「何を言う、二人とも。二人は現金を直接おやじさんに手渡ししているが、わたしはあくまでおやじさんにゲームのデータを提供しているだけだ。いっしょにしてもらっては困る。おやじさんにわたしのゲームをしてもらう報酬にゲームデータを提供することに、なんの問題があるんだ」
シューターがカクゲーとヨコスクの二人にそんな主張をしていると、スポコンがこんなことを言い出した。
「ねえ、三人とも。現金とかネットオークションとか面倒なことは辞めようよ。僕たちはおっちゃんと違って今どきの女の子なんだから、もっと手っ取り早い方法があるじゃない」
そのスポコンの言いかたに、カクゲー、ヨコスク、シューターの三人があわてふためいた。
「て、手っ取り早い方法って。スポコンさん、あなた、まさか……」
「ス、スポコンさん。いくらなんでもそれは……」
「だ、だめだよ。スポコン、さすがにそこまでするのは……」
そんなカクゲー、ヨコスク、シューターのあわてぶりを横目に見つつ、スポコンが俺にスマホを差し出してくる。
「ほら、おじちゃん。おじちゃんもスマホぐらい持ってるでしょう。僕のスマホからおじちゃんのスマホにいくらか振り込むから。おじちゃん、どんなアプリ入れてるの、ちょっと見せてよ。ああ、このアプリなら僕も入れてるから大丈夫だ。ほら、三人とも。現金とかネットオークションとかしなくたって、スマホ同士でやりあえばすむ話じゃない」
スポコンの話に、カクゲー、ヨコスク、シューターは顔を赤らめて黙ってしまった。で、シューターがけらけら笑って話し出した。
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