第6話プレゼン(スポーツ)

「ねえ、どうせシューティングゲームなんてずっと変わりばえがしないゲーム画面なんだからさ、もう僕のスポーツゲームのプレゼンにしてもいいかな」


 スポコンの言い草に、シューターが顔を真っ赤にして反論し出した。


「い、言うにことかいて、ずっと変わりばえがしないとはなんだ。シューティングゲームとはな、それはそれは奥深いんだぞ。バラエティにとんだ各マップデザイン。キャラクター性あふれる数々のボス。それを、それを……」

「だってー、ちんちくりんな自機が画面の下のほうでちょろちょろしてるだけなんだもん。やっぱり、僕は自分のキャラクターはもっとダイナミックに動いて欲しいんだもん」

「スポコンさんはシューティングゲームのなんたるかをちっともわかってやしない。シューティングゲームの魅力とはな……」


 ちゅどーん


 シューターが『ドッペルアタック』の説明でなくシューティングゲーム全般について語り出そうとしたら、シューターの操作する自機がやられてしまった。スポコンの横やりに気を散らしてしまったようだ。シューターがあわてて俺に弁解しだす。


「ち、違うんだ、おやじさん。『ドッペルアタック』の面白さはこれだけではとても伝わるようなものじゃなくて……」

「やられちゃったんだからちょうどいいじゃん。僕と交代してよ、シューターちゃん」

「なんだと、もとはと言えばスポコンさんが余計な口出しをしてきたから……」


 このままではシューターとスポコンのケンカが始まりかねないので、俺が仲裁に入る。


「シューター、『ドッペルアタック』だっけ? すっごくおもしろそうだね。これからどんなステージがあるのかとか、どんなボスが出てくるのかとか楽しみだよ。楽しみだから、シューターが見せてくれるんじゃなくて、俺が自分でプレイしてたしかめてみたいな、なんて。だから、今回はこのくらいにして、俺のお楽しみを取っておいてくれるとありがたいんだけど」

「そうか、そうだよな、おやじさん。紹介で全部見せちゃったらあとの楽しみがなくなるもんな。そういうことだから、スポコン、わたしのプレゼンはこれで終わりでいいぞ」


 俺になぐさめられてきげんをなおしたシューターを、なんだか面白くなさそうな顔で見ながらスポコンが自分のディスクとシューターのディスクを入れ替えて初代プレステのスイッチをオンにする。


「それじゃあ、僕のスポーツゲームの説明だよ。まずは……」

「待ってちょうだい、スポコン。スポーツゲームの世界に召喚されると言うのはアンフェアだとあたしは思うのだけど、そう思いませんか、おじさん」


 少しの間だけ不満げな様子を見せたスポコンだったが、自分のゲームのアピールタイムになるととたんにうれしそうな顔になった。自分のゲームを紹介するのが楽しくて楽しくてたまらないと言った感じだ。だが、そこにカクゲーが割り込んできた。


「やめてよ、カクゲーちゃん。だいたい、アンフェアってどう言うことなの」

「わたくしもカクゲーさんの意見に賛成ですわ。スポーツゲームとおっしゃられると、範囲が広すぎる気がしますわ。ねえ、おじさま」

「僕も同感だな。昨日は野球で今日はサッカー、明日はゴルフなんてのは、くくりがおおざっぱすぎる。おやじさんはどう思う」

「そやなあ。『ゲームは全部eスポーツ。だからアールピージーもシミュレーションもみんなスポーツ』なんて言われたらうちかなわんわ。せやろ、おっちゃん」


 カクゲーの言葉にスポコンは反抗するが、ヨコスク、シューター、マグナムもカクゲーの意見に賛成し出した。他の四人によってたかってふくろだたきにされて、スポコンはすっかりしょげかえってしまった。


「だって、僕、スポーツゲームが大好きなんだもん。野球ゲームもサッカーゲームもゴルフゲームも大好きなんだもん」


 このままではいけないと思い、俺は急いでスポコンをなだめにかかる。


「ち、ちなみに、スポコンはなんのスポーツのゲームを俺にアピールするつもりだったの」

「テニス』

 

 ぼそりと返事をするスポコンに、俺はせいいっぱい盛り上がって見せるのだった。


「いいなあ、テニスゲーム。俺、スポーツゲームでテニスゲームが一番好き。それに俺、ゲームはやりこむタイプだから、スポーツゲームに召喚されるとしたら、ずっとテニスゲームがいいな。それに、もしクリアしちゃっても、俺、周回プレイするの好きだしさ。だから、一人のゲームだけクリアしたからって、その一人に新しくゲームを用意してもらおうなんて思ってないよ。するなら、最初に五人が用意してくれたゲームをやり続けるさ。だから、スポーツゲームに種類がいっぱいあるってことは有利不利には関係ないよ」


 そう言いながら、俺はスポコン以外の四人に目で合図を送る。その意図を察してくれたようで、四人もうまいこと言ってくれるのだった。


「格闘ゲームにだって、ポリゴンものとか時代劇物とかあるしね、おじさんの言う通りです」

「ベルトスクロールアクションと言いましても範囲は広いですしね。わたくし、謝罪いたしますわ。

「シューティングゲームと言っても、自機が戦闘機とは限らないしな。僕が悪かったよ」

「それにしても、おっちゃん。やりこむ派なんや。そいつは感激やなあ。せっかくうちらが考え抜いた設定のゲームなんやから、ちょろっとやってポイなんてさみしいもんな」


 カクゲー、ヨコスク、シューター、マグナムの四人に言われて、スポコンも気を取り直したようだ。


「うん、みんな、ありがとう。じゃあ、マグナムちゃん、プレゼンしていいよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る