第4話プレゼン(アクション)

「そこからはわたくしが説明いたしますわ」

「なんですか、邪魔しないでくださいよ、ヨコスクさん」


 自分のプレゼンを中断されて、カクゲーは不満を言うがヨコスクがぴしゃりと反論した。


「いいえ、カクゲーさん。『ペアファイターズ』をおじさまが見たことがない理由を説明することは、わたくしたち五人がどうゲーム世界に召喚されるかを説明することになりますわ。それをカクゲーさんに独り占めさせるわけには行きません。カクゲーさんは説明役の先鋒という大役をなさったんですから、もうそのくらいにしておくべきですわ。そうですわよね、おじさま」

「そ、そうだね。ほら、カクゲーさん。やっぱり、五人もいるんだからさ、一人で全部説明しちゃうのはまずいよ。だから、ここはヨコスクさんにゆずってくれないかな」

「おじさんがそう言うのなら……」


 ヨコスクの言いぶんも一理あると思い、俺がカクゲーにとりあえず『ペアファイターズ』の説明を中断するようたのんだらカクゲーは納得してくれた。そんなカクゲーの様子を見ると、ヨコスクは満足そうに初代プレステにセットされていた『ペアファイターズ』のディスクを自分のものと取り替えはじめた。ヨコスクが召喚されると言うゲームも初代プレステのものらしいが、それに不平をたれる他の三人である。


「カクゲーが説明を独り占めすべきでないということに異論はないが、その次が何でヨコスクになるんだ。わたしだって早く僕のシューティングゲームをアピールしたいのに。ねえ、何とか言ってよ、おやじさん」

「僕のスポーツゲームだって、おじちゃんがやったら絶対はまるから。ねえ、おじちゃん。僕のスポーツゲームもやってみてよ」

「なんかこのままだとうちのアピールの順番がどんじりになりそうや。こんなの不公平と違うか、おっちゃん」


 シューター、スポコン、マグナムの三人が順々に文句を言ってきたので、俺がなだめてまわる。


「わかってるよ、ちゃんと五人全員のアピールを聞くからあせらないでくれ。それに順番が後のほうだからって悪いとは限らないよ。ほら、舞台発表の前座とトリ的な……」

「そうやな、おっちゃんええこと言うやん。うちがトリ……悪くあらへんわ」


 俺の説得にマグナムが気を良くしているところへ、いつのまにか自分のゲームの起動を終えたヨコスクが話し始める。


「聞こえてますわよ、おじさま。人を前座扱いとは、ずいぶんなものの言いようですね。まあ、今回はその仲裁のうまさに免じて勘弁してあげましょう。それで、おじさま。このタイトル画面見覚えありますか」


 そうヨコスクに言われて、俺はテレビに映っているタイトル画面を見た。そこには『タッグナイト』と言うタイトルが表示されていた。だが、そんなタイトルのゲームは、プレイしたどころか聞いたこともない。そんな俺のピンときていない様子を見ながら、ヨコスクが満足そうに説明を続けはじめた。


「そうでしょうとも、おじさま。このゲームは、わたくしが召喚されるスペシャルな異世界のゲームなんですから。この世に二つとして同じものがないゲームなんですのよ」


 二つとしてない……そんなものをどうして女子高校生が持っているんだろう。俺の不思議そうな表情を見て取ったヨコスクがにやにやしながら説明を続けてくる。


「ほら、カクゲーさんが天の声がどうのこうのと言ってらしましたわよね。その天の声が『おじさまにゲームをやってもらえ』と言ったら、わたくしたちの目の前にディスクがあらわれましたの。わたくしたち五人分の。ちなみに全部初代プレステのディスクですわ。きっとハードによる不公平をなくすための天の声の配慮なんでしょうね」

「一応俺の部屋にはたいていのゲームハードがそろっているけど……」

「いいえ、おじさま。初代プレステじゃないとダメなんですの。困ってしまうんですの」


 俺は『初代プレステ以外のハードもあるよ』と女子高校生たちに選択肢を出したつもりだったが、ヨコスクはきっぱり『初代プレステ以外はいけません』なんて断ってきた。天の声さんは初代プレステ用のソフトしか作れないんだろうか。


「わたくしたち五人は、いつもいつもレトロゲーム同好会として、召喚されるならどんなゲーム異世界が良いか話し合っておりましたの。それこそ、世界設定からゲームシステムにキャラクター、難易度にいたるまでそれはもう、細かいところまで全部。そんなふうに練りに練ったゲームなんですもの。おじさまに見覚えがあってもらっては困ります」


 ヨコスクがえへんと胸を張った。


「そんなゲーム世界に、天の声がわたくしたちを召喚してくれるとおっしゃってくれましたの。夢みたいな話ですわ。その中でもわたくしの『タッグナイト』のゲーム世界が最高だとかくしんしております。それでは、この『タッグナイト』の世界がいかに魅力的かをプレゼンさせていただきますね、おじさま」

「そろそろ時間切れなんじゃないかな、ヨコスク」


 話の調子が乗ってきて、今にもいかに自分の召喚されるゲーム世界が素晴らしいものかを力説しようとしたヨコスクの話に割って入ったのはシューターだった。


「なにが時間切れなんですの、シューターさん。これからわたくしの『タッグナイト』の説明に入るところでしたのに」


 そんなふうに不満の感情をあらわにするヨコスクだった。だが、シューターはたんたんとヨコスクのプレゼンを中断した理由を説明するのだった。

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