第3話プレゼン(格闘)

「それじゃあ、おじさんが最初にどのゲームをやるかを決めましょう。となると、それぞれのゲームのアピールタイムをしなきゃね。というわけで、あたしがまずアピールをしますからね」


 俺が女子高校生五人組の依頼を受け入れたとたんに、カクゲーがそう宣言した。すると、他の四人がいっせいにブーイングしだす。


「そんなのずるいですわ。わたくしだっておじさまにいの一番にわたくしのベルトスクロールアクションゲームをアピールしたいのに」

「ひきょうだ。一方的に決めるだなんて。わたしだっておやじさんにシューティングゲームを最初にアピールする権利がある」

「フェアープレイでいこうよ。ぼくだっておじちゃんにスポーツゲームをトップバッターでアピールしてみたいんだから」

「どないな権利があってそんなまねができるんや。うちかておっちゃんにガンアクションゲームをアピールしたいんや」


 ヨコスク、シューター、スポコン、マグナムがそうやって順番にカクゲーに文句を言うが、カクゲーはちっとも気にしていない。


「うるさいわね。こういうのは言い出しっぺが最初にやるものなの。おじさん、プレステありますか。プレイステート、初代のやつ」

「あ、ああ」


 他の四人の不満を無視して俺に初代プレステがあるかどうか尋ねてくるカクゲーだ。そうか、もう初代プレステがレトロゲームなんて呼ばれる時代になったのか。初代プレステが次世代機なんて呼ばれていたころが俺の小学生時代だったんだよな。そんなことを思いながら、俺は部屋の隅っこにほったらかしにされていた初代プレステを引っ張り出した。


「やっぱりありましたか。天の声が選んだ人物だけのことはありますね。それでは、あたしの格闘ゲームのプレゼンを始めますよ」


 部屋に初代プレステだあるだけで俺のことをほめたカクゲーは、俺が引っ張り出した初代プレステになにかえたいの知れないディスクをセットして電源をオンにした。


 ドゥーおーん


 そんな昔よく聞いた初代プレステの起動音が流れると、見慣れないタイトル画面がテレビに表示された。タイトルはペアファイターズというらしい。


「ちょっと待ってくださいね、おじさん。しばらくすると、デモ画面になりますから」


 カクゲーがそう言ったとたんに、他の四人からヤジが飛ぶ。


「なんですの、わたくしだけでなくおじさまにも、ただなんのへんてつもないタイトル画面をぼさっと見ていろっていうの。そんなものがプレゼンと言えまして」

「もうちょっとオープニングに刺激を持たせられないのかい。こんなプレゼンではわたしはあくびがでてしまうよ。そうだよねえ、おやじさん」

「僕たいくつだよー。おじちゃんもたいくつだよねー」

「なんやねん、この無駄な時間は。うちはいつまでこうしとったらええんや。そう思わへんか、おっちゃん」


 ヨコスク、シューター、スポコン、マグナムが口ぐちに文句を言いだすと、カクゲーが大声で言い返した。


「うるさいわね、格闘ゲームと言うのはこういうものなんです。タイトル画面をのんびり見つつ、どんなゲームなんだろうなあとわくわくしつつデモ戦闘画面になるのをじっと待っているのがいいんじゃあないですか。そうですわよね、おじさん」

「そうだなあ。格闘ゲームじゃなくても、隠しムービーが流れる場合もあるし、俺もファーストプレイの時はとりあえずしばらく何もせずに放置しておく派だったな」

「そうですよね、おじさん。さすが、わかってるじゃないですか」


 俺が同意したので、カクゲーは気を良くした。だが、他の四人は悔しそうにしている。このままではまずいなと思っていたら、戦闘画面に切り替わった。


「あ、ほら。デモムービーになったよ。カクゲー、プレゼンしてよ」


 俺がそう言うと、カクゲーはいそいそと説明し始めた。


「はい、おじさん。わかりました。ええと、この『ペアファイターズ』はですね、タッグ戦のシステムとなっています。VSシリーズみたいなものと思ってください。」


 カクゲーが言うように、戦闘デモでは画面上部に体力ゲージが左右にそれぞれ二本ずつあり、計四本の体力ゲージにそれぞれキャラクターのグラフィックがついている。戦っているのは、一人対一人の計二人だから、タッグパートナーどうしで試合中に何度も入れ替わるんだろうなと思っていたら、カクゲーが申し訳なさそうに付け加えてきた。


「ですが、召喚される格闘ゲーム世界の都合で、試合中に好きなタイミングでタッグパートナーと交代はできません。一人目の体力ゲージがなくなったら二人目と交代です。で、二人目の体力ゲージがなくなったら負けとなります。格闘ゲームの世界に召喚されてもあたしはあたしのままですから、ほいほい画面に映っている部分と映っていない部分を行ったり来たりできないんです」


 そんなカクゲーの申し訳なさにつけ込んで、他の四人がまた野次り出した。


「なんということですの。それじゃあVSシリーズじゃないじゃない。どちらかと言うと、二人だけのKOFシリーズのシステムとわたくしは考えますわ。ねえ、おじさま」

「なにが格闘ゲームの世界に都合だよ。わたしの見るところ、初代プレステの性能の都合だね。そう思うでしょ、おやじさん」

「ほいほい行ったり来たりできないって、そんなんで格闘ゲームの世界に召喚されて戦えるの。カクゲーって見た目はともかくけっこう運動オンチだよね」

「なんやしょっぱいこと言っとるなあ。プレゼンなんだから、もっと景気のいいこと言うてえな」


 ヨコスク、シューター、スポコン、マグナムの文句のあらしを聞いて、俺はカクゲーに助け舟を出すことにした。


「それはともかく、この『ペアファイターズ』ってゲームを俺は見たことないんだけど、どこの会社が作ったの」

「それは……」


 俺の質問に答えようとするカクゲーを制して、今度はヨコスクが話し出した。

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