第2話プロローグ其の2

「わかりますよ、いきなり異世界に行ってくれって言われても『はい、わかりました』とはなりませんよねえ。でも問題ありません。異世界に行くのはあたしだけで、おじさんは異世界に必要はないんです」


 そうカクゲーがいってきた。でも、俺が異世界に召喚されないならいっしょにゲームはできないんじゃないか。そんな疑問を俺がいだくと、ヨコスクが続いて説明しだした。


「おじさまは、この部屋でいつもどおりゲームをしていればいいんです。わたくしがゲームの世界に召喚されて実際にゲームの世界で動きまわる。おじさまはその様子をこの部屋のテレビ画面で見ながら、おじさまのキャラクターをコントローラーで操作してゲームキャラクターのわたくしと協力プレイしていただくというわけですわ」


 女の子が召喚される異世界はゲーム世界で、それを俺がこの部屋のテレビでゲーム画面として見ることができるってことか。俺の部屋のゲーム画面と女の子が召喚されるゲーム世界が連動しているってことなのかな。


「安心してくださいね、おやじさん。わたしはゲーム世界に召喚されっぱなしというわけにはなりませんから。召喚されてせいぜい一時間くらいでこの部屋に戻ってきますよ。異世界召喚と言っても、そんな本格的なやつじゃありませんから。異世界でちょこちょこっと活躍しては戻って活躍しては戻っての繰り返しですから」


 シューターがそんな都合のいい話をしてくる。異世界とこの部屋を行ったり来たりねえ。


「それにね、おじちゃん。別にいますぐ一つの異世界に決めろって言うんじゃあないんだよ。昨日はあの異世界にしたから、今日はこの異世界にしようかなっていうふうに、その日の気分でどの異世界に行くか決めちゃっていいんだからね」


 スポコンが言うことだと、俺の体は一つだけなのに行くことができる異世界は複数あるみたいだ。体が持つかなあ。


「せやから、深く考えへんと軽い気持ちで決めちゃったらええんや。ああ。ゲームオーバーになってもこの部屋でプレイしてるだけのおっちゃんはもちろんやけど、うちらも何かペナルティがあるわけやないからな。ゲームオーバーになったら、異世界に召喚されたうちがこの部屋に戻って来るだけのことやさかい。別に命や体の心配は必要あらへんからな。何回でもやり直せるから安心していいで」


 マグナムがそんな追加の説明をした。失敗してもやり直せるなんていかにもゲーム的だな。


「一応聞くけど、なんで俺なの。それも一人だけなの。そりゃあ俺だってそれなりにゲームは得意だけど、あくまでそれなりだよ。もっとゲームがうまい人はいくらでもいるんだから、そんな人を各ジャンル取りそろえればいいんじゃないの。だいたい、これからどういう異世界に召喚されるか知っているみたいだけど、ずいぶん親切な異世界転生じゃないか」


 俺のそんな疑問に、女の子たちが一人一人答えだした。


「それはですね、おじさん。あたしたちは同じ高校のレトロゲーム同好会のメンバーなんですが、ある日『ゲーム世界に召喚されてみたいよねえ。全員が異世界での名乗りも考えたことですし』なんて話をしていたら、突然どこからともなく『いいよ』なんて天の声が聞こえてきまして……」


 カクゲーがそう言ってきた。女子高校性のリクエストに気軽に応じてくれる天の声ですか。


「でも、『わたくしたちだってこの現実世界にまったくの未練がないわけでもありませんし、ゲーム世界に召喚されたっきりこの現実世界に戻ってこれないと言うのはちょっと……』なんて言っていたら、天の声が『日帰りコースもあるよ』とおっしゃられまして」


 ヨコスクの『日帰りコース』という言葉を聞いて、俺は文句を言いたくなったがシューターがすぐさま説明を続けだした。


「でも、『日帰りコース』だと行ったり来たりしなくちゃなあないから、この世界とゲーム世界をリンクしておく必要があるらしいんです。だから、わたしが召喚されたゲーム世界をこの世界のテレビでゲーム画面として見ている係が必要なみたいなんです。それも、異世界に召喚されない人物が。一度も異世界に召喚されずにこの世界にずっといる人間じゃないと、リンク係として機能しないそうなんです。やっぱりわたしたちのなかから一人だけそんな仲間はずれを選ぶみたいなことはできないですから」


 俺みたいなおっさんを仲間はずれにすることになったんだな。女子高校性の仲良しグループらしい発想ですこと。俺はそう心の中でぼやいたが、スポコンがさらに俺の心をえぐってくる。


「で、天の声さんが『ちょうどいい人間がいる』って。『暇をもてあましてて、その有り余る時間で自分が子供のころに流行していたゲームをたくさんやりこんで大人になることを拒否している、いい年しているのに精神年齢が君たちと変わらないような中年男がいる』んだって。僕、天の声さんの言っている意味がよくわからないけど、それっておじちゃんのことなの」


 スポコンが、無知ゆえの暴言で俺の心を傷つけてくる。たしかにそのとおりだが……


「ほ、ほら、へたに名前が売れてる有名プレーヤーとかだといそがしくてうちらの都合に合わせられへんやん。うちらも学校があるし。せやから、おっちゃんみたいなのがうちらにぴったりなんや。そやさかい、ちょっとだけつきあってくれへんか」


 スポコンの言葉はいくらなんでもひどいと思ったのか、マグナムがそう俺をなぐさめてくれた。第一印象は中二病まっさかりの痛い女の子だと思ったが、こうしてみるとあんがいよく気のつく女の子かもしれない。


「それじゃあ、ちょっとだけなら」


 俺は女子高校性の五人組の話に乗ることにした。

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