ワンサイド・ガール 本編2

悪魔と男の子と黒いモヤ (?月)

「ん…?ここは…?」

どうやらしばらく眠っていたようだ。その間、何かすごいことがあった気がする。


『おっはよー★四季ちゃん!目覚めた?』

「うるさいよ…」

『お口チャック★しゅー…』

天井にはいつの間にか何か得体のしれない人が浮いていて、文字通り口にチャックをしたふりをしている。…誰?


「ねえ、あなたはいったい誰?」

『……』

「お口チャックはもういいから!」

ちょっと、面倒くさい。


『むう、…ま、よくぞ聞いてくれました!僕は君に宿る、不幸を振りまく悪魔、ジャック・オ・レンタン!レンタンって呼んでほしいな!』

「不幸を振りまく…悪魔?」

『そうだよ★僕がいるだけで不幸になるのだ!』

えっへん、と胸を張るレンタン。

前言撤回。めちゃくちゃ面倒くさい。

それに、うさんくさい。


「なによ、それ…」

『この能力、おそらく僕しか持ってないんじゃないかなー…。なぁんてね!』


そんなことを話していたら、いきなりバン!と入口らしき扉が開いた。

「さっきから聞いてれば、その悪魔と喋ってばっかり!脱出しようとしないの!?馬鹿なの!?」

金髪の、毛先がくるくるしている男の子が入ってきた。


『盗み聞きしてたの!?きゃーーーっ!』

「誰!?私に何の用!?」

そういうと男の子ははあ、とため息をついてから、

「…あんまり乗り気じゃないけどね、今日から君はエンチャント協会の一員なんだ。僕の姉さんになってもらうよ?あと拒否権はないから。それと…前みたいな普通の生活には戻れないよ」

『うわぁ…なんていうか、超生意気だねー★』

「それと…僕の名前はロナン=カズマ。エンチャント協会の中の一人だよ」

ロナン君はレンタンを無視して話し始めた。


「元の生活には戻れない…?」

「そ。ずっとこの洋館にいてもらうから。あぁ、逃げようとしても無駄だよ?窓や出口は全部塞いである。し、出たところで逃げ場もないから」

『そんな…じゃあ、四季ちゃんのパパママは?』

「親族の記憶は消してしまったよ。な?ジーン?」

『………(コクリ)』

そういうとロナン君の後ろに黒いもやに包まれた人の幽霊のようなものが、そっと現れた。その口あたりには、糸が縫い付けてある。


「記憶を消した!?ひどい…あなた、一体…」

「僕は…ってこんなところで立ち話するより、とりあえず着替えてもらおうか、姉さん?」

不敵な笑みを浮かべながら【姉さん】と呼ぶロナン君。



「あ…そうだね。服、変えないとね。お風呂にも入りたいなぁ…」

「風呂か…。じゃ、ジーン、服いくつか持ってきて」

パチン、とロナン君が指を鳴らすと次の瞬間…。

『…………(持ってきたよ)』

さっきの黒いもやが服を抱えて持ってきた。

「紹介するよ、こいつはジーン・ドルイド。僕のパートナー兼ゴースト。悪い奴ではないから安心していいよ。さ、ジーン」

すると持ってきた服を静かにおろしてくれた。

「風呂は、ここ出て左奥だから。好きなの持って行っていいよ。…あ、決して脱出とか変なまねはしないでね。それじゃ」

そういうとロナン君とジーンさんは去って行った。


「…なんていうか…」

『…うん』

「逃げ道が…無くなっちゃったなあ…」

『わかる。逃げようとしても、どこへも行けないもんね』

「それに私…何か大事なことを忘れて…うっ」

ザッーと頭の中に残るノイズ。何か大切な人を、彼を――――――。



『とりあえず、お風呂入っちゃえば?さっぱりするよ?』

「…そ、そうだね。んーと…」

さっき持ってきてくれた服から合いそうなものを探してみる。

「って、どれもドレスじゃない!あぁ、さっき普通の服持ってきてって言えば…」

『ドレスでもいいじゃん!ほら、これとか似合うかもよ?』

レンタンが持ってきたのは、赤いバラが刺繍ししゅうされたロリータだった。

「多分似合わないと思うけど…着てみるよ。じゃあ、行こっか」

しぶしぶ頷くと、立ち上がって唯一部屋にあるドアを開けた。




『おーぷんっ!』

そこから広がる景色は一面のレッドカーペットと窓から広がる…

「森!?」

『ワオ、フォレスト!』

森だった。鬱蒼うっそうしげる森。

なんでこんな所にいるんだろう…と疑問は尽きないがとりあえずお風呂に向かうことにした。

「えーと…ここから左奥だよね…」

『さっそくいこーう!』

「あ、レンタンはお留守番、だよ?」

当たり前のようについて来ようとするので止めた。

『えっ…なんでなんでなんで!?どうして?』

「男の子は女子のお風呂覗かないでしょ!」

『僕が男の子じゃない可能性もあるよ?』

「いや、絶対ないから覗かないで」

すたすたとその場を後にした。

『ちぇー、少しくらいいーじゃん…。…さて、気を取り直して!僕も脱出を試みるか~!』

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