~ある男の記録1~

 ミア(Mia)という名前は南極の空に浮かぶダイアモンド・クロスという星群を作る星の中で最も明るいミアプラキドゥス(Miaplacidus)から来ていて、その星の名の由来はアラビア語の「水」とラテン語の「静かな」を意味する言葉を組み合わせてできている。

 この話は妻が常日頃から話していた自慢話だ。

 彼女は誰よりも星を愛していた。ひょっとしたら私よりも愛していたかもしれない。

 そして、彼女が星や自分の名前と同じくらいに愛していた者がいる。

 それは私たちの娘だ。

 もちろん私も彼女と同じくらい娘を愛しているつもりだった。

 しかし任務ばかりでなかなか国に帰れない私を娘が愛していたかは怪しいところだ。

 ミアが私の仕事に理解のある人物で、私の悩みにも真摯に向き合ってくれたことだけが救いだと言えるだろう。

 毎晩送られてくる娘のビデオレターだけが戦場で荒んだ私の心を癒してくれた。

 そしてミアが聞かせてくれる天体の話が不安な夜を忘れさせてくれた。

 しかし東欧並びに中東の状況は予断を許さない状態が続いていた。

 それと共に、ミアも家を空けることが増えていたような気がする。

 だがそれは、今思えばごくごく当たり前の、必然的な流れだったのだ。

 私が任務を終えて家に帰れば、深夜になってからミアが帰ってくる。

 寝付いた娘の顔を見つめる彼女の顔は、みるみる疲労の色が濃くなっていた。

 イギリス国立宇宙センターとはそう言うところなのかと聞いても、ミアは仕事について話したがらなかった。宇宙についての話はあんなに好きだったのに。

 そして、娘が二本の足でふらふらと歩けるようになった頃ぐらいだろうか。

 私のもとに一通の新設部隊推薦状が届いたのだ。

 私の所属していた特殊空挺部隊と海兵隊の特殊舟艇部隊から優秀な人員を引き抜き新たに部隊を新設するというものだった。

 私には、隊長が私を推薦した理由がわからなかった。

 それこそ、一端の山岳兵である私が隊長より優秀な理由など見つからなかったし、新設される部隊でまともにやっていけるとは到底思えなかった。

 しかし隊長は、部隊の隊長であることを離れるわけにはいかないと私に説き、推薦状はその部隊の責任者から直々に贈られたものだと言った。

 ミアや娘の事を考えると将来的にも、この部隊に入ることに対するメリットは大きいと言うことは私にもわかったし、何より選ばれたことそのものに対する名誉が当時は純粋に嬉しかった。

 しかし、それは同時に私が生きて帰れる可能性が極端に低くなるということを示してもいた。

 ミアは私の意見を尊重してくれた。

 だから私も、ミアがこれ以上無理をしない。私が家にいない間に私分の愛を娘に向けてくれることを条件にその部隊に入ることを決めたのだ。

 今思えば、それは自分勝手な思い上がりだったのかもしれない。

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