3-9
そこは暗い木造家屋の中。唯一の白い電灯が奥まった位置でチリチリとした光が寒々しい室内をさらに冷やしていた。
カビと湿気だらけで今にも崩れそうな廊下に焦りを抑えきれていない足とが響き、目的の人物の肩を掴もうとして、その手は引っ込んだ。
「全軍で列車への攻撃を仕掛けるのですか?」
「そう、言ったはずだが」
廊下の先で座っていた男は机の上に開かれた日記を読んでいた。
「もう一度考え直してください」
「何度も考え直したさ」
「では何故っ?!こんな自殺紛いの計画を!部下を巻き込むのですか?!」
「自殺、か」
日記を読んでいた、隊長と呼ばれていた男はゆっくりと振り返った。
右腕を背もたれに預け部下を見上げると、その椅子は廊下と同じ音を立てた。
「彼等が望み、私が決定したのだ。何か問題があるかね」
「今はまだ冷静さを欠いているだけです。貴方が呼びかけ、また導いて上げればかつての様に立ち上がれます」
部下は信じるように、すがりつくように強く言った。
「我々にはもう後がない。失うものも守るべきものも、信念も捨て鉢も既に失われているのだ」
「ですが――」
「だから彼等は復讐を望んだ。守る者も失うものも無い人間は、凶暴だ。だから私が先導する必要がある」
部下は一瞬躊躇ったが、しかしはっきりと言い切った。
「あなたの復讐のために、利用しているだけなのではないでしょうか」
隊長は手元に閉じた日記を優しく撫で、目を瞑った。
「そうかもな。本来私に指導力なんてものはない。彼女の力にあやかっていただけだ、私も」
「そんなことは――」
あの少女がこの隊長につき従っていた詳しい理由はわからない。
しかし、彼の指導力という要素は確実にあると部下は考えていた。
だが今、彼にその気配は感じられない。
それを否定しても、かつての彼が帰ってくるとは思えなかった。
いつの間に、彼にとってあの少女がそれだけの存在になっていたのだろう。
「……集合に遅れるなよ。遅れたら、置いて行くぞ」
隊長は部下の横をすり抜けて外へ向かった。
机に残された一冊の汚れた日記。
少しその拍子と隊長が去った廊下の先を交互に見てから、部下は椅子に座った。
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