2-2

「私が世界中にあるコネクションに働きかけても、集まったのは噂程度の物だった。だから情報に根拠も確証もない」

 カヌスはそう語り始めた。

「その噂によれば、計画自体は前の大戦以前より始まっていたらしい」

「計画?」

「そう。計画」

 スーはジョンが少しずれたサマーチェアの端に座っていた。

「当時の先進国のうち、金のある国――――じゃないのも参加していたけど、技術者を集めて研究を始めたようだね」

「どこが主導なんだ」

 ジョンは落ち着いて聞く。

「それはわからない。今のモスクワ連合――ロシアって言う奴もいるし、当時のアメリカって言う奴もいる。そもそもどのくらい国が参加しているのかも不正確だ」

「そうか」

 ジョンが口元に手を当てて落ち着いた目をするとカヌスは説明を続ける。

「計画は当時の中国奥地で進めていたらしい。話によると日本からも何人か技術者が参加していたとか」

「日本…………」

 個人的に思い入れのある国の名前に思わず反応する。

「で、その方法だけど」

 カヌスは一度言葉を切った。

「私も詳しいことはわからない。専門外だからね」

「じゃあ」

「まあ落ち着け」

 指を一本立てると「君たちにもわかりやすく説明しよう」と言う。

「簡単に言えば、遺伝子操作だ。そして生まれた赤子の中から平均以上のステータスの子の遺伝子を利用する。最初の方はそれを繰り返していたらしい」

「いらなくなった子供は?」

「さあね。その点も含めて中国でやるのは都合がよかったのかもしれない」

 その一言にジョンは「ああ」としか言えなかった。納得するには十分な理由だ。

「そして生まれた子供たちが二足で歩けるようになったら訓練を始め、数年で兵器にするらしい」

「それで誰よりも強い兵士になるのか?」

 ジョンは単純な疑問を口にする。

「都市伝説はここからだ」

 カヌスはとても楽しそうだ。

「彼等が子供を作れるようになると同じことを繰り返す。」

 運動能力も知能指数も、ある程度の割合は遺伝で決まるという研究がある。それを確実にする過程を人間で行ったということなのだろう。

 そして、幼少期からプロの兵士に成れるよう教育する。

「世界で活躍するようなアスリートは、幼少の頃からその道で生きられるよう育てられているらしいね」

 一通り説明を終えたカヌスは腹の上で手を組むと深く背もたれに身を沈めた。

 ジョンは無言のままだ。

 スーは興味があるのかないのか、いつも通りの表情だ。

「……………………いやありえない」

「言っただろ。噂だって」

 ジョンはスーを見る。

「どうなんだ」

 スーは人差し指を顎に当てて答える。

「ん~私に子供はいないけど、姉妹はたくさんいるよ」

「そうか……カヌス、その――最終目的みたいなのはあったのか?」

 カヌスはサングラスを外して二人を見た。

「あったらしい」

「それは…………」

「完璧な人間を作ること。脳構造も、遺伝子も、肉体から精神に至るまで」

「成功したのか?」

「わからない。聞いたことある?」

 カヌスはスーを見るがスーにはそもそも完璧な人間というものがわからないらしい。

「でも、皆とっても強いし。とっても頭いいよ」

 スーはそれだけ言った。

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