その6

 俺は釣りを受け取ると、ライセンスとバッジを見せた。


『探偵さん、だったのかい?』


 俺は頷いて、依頼人から預かって来た写真を見せた。


『・・・・折角だが、こんな男は知らねぇな・・・・』老人はそっけない口調でそう言い、写真を突き返した。


『それより、あんた、何の要件でこの町に来たのか知らねぇが、さっさと帰った方が身のためだぜ。ここは今物騒なんだ。あの連中だってそのうち仕返しに来るだろう』


『なるほど、そういうことか。でも、俺は探偵だ。やるべき仕事をやってからでないと帰れない。』


『あんた・・・・そんなこと言わないで、折角遠くから来てくれたんだから・・・・』


 小母ちゃん、いや、正確にはこの店の主の妻が、脇から助け舟を出してくれ、いつの間にか一冊のスクラップブックを手に持っていた。


『・・・・勝手にしろ』親父はそれだけ言うと、奥に引っ込んだ。


『すみませんねぇ。こんな人で』

 

 彼の女房は頭を下げながら、俺にそのスクラップブックを渡してくれた。


 そこには、そう、ここまで来れば、何だか分かるだろう。


 ハンマー五代の記録が、写真入りからそうでないものまで、丁寧にスクラップされていたのである。


『これだけじゃないんですよ。二階の部屋・・・・あたし達、そこに住んでるんですけどね。この倍以上のスクラップやらビデオやら・・・・あの人、五代さんがボクサーになってからずっと・・・・』


 そう、この屋の主人は紛れもなく五代が世話になった『あの人』だったのだ。


『その筋』から足を洗い、一度は会社を経営していたのだが、お定まりの浮沈を繰り返して、今ではここでこんな小さな食堂をやっているというわけだ。


『帰ったら、五代さんにそう言ってください。あの人はまだ元気でやってるからって、あの人不器用なもんだから、立派になった五代さんに迷惑をかけちゃいけないって、』


『おい!もうそこまでにしとけ!』


 奥から怒鳴り声がした、その時だ。


 ガラスが爆ぜる音と共に、何かが撃ち込まれた。


 俺は女将さんの頭を押さえると、身を低くして拳銃を抜いた。


『出てきやがれ、畜生!』


 表から怒鳴り声が聞こえる。


 やっぱりさっきの連中が仕返しに来たのだ。


 俺は拳銃を構え、身を低く保ったまま、出口に向かって行った。


 すると、後ろから誰かが俺の肩を押さえた。


 振り返ると、そこにはおっさんが立っていた。


 手ぬぐいのハチマキはそのままだが、ダボシャツに赤い腹巻、作業ズボンに地下足袋、肩からは弾帯に無数の散弾、それに散弾銃をぶら下げているという、まるでひと昔、いやふた昔は前の東映映画みたいなスタイルに着替えていた。


『兄さん、悪いがここは俺の街だ。あんたを巻き込む訳にはいかねぇ』


『俺は売られたケンカは買うタチでね』


 俺は拳銃を構え、にやりと笑って見せた。


 




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