その5

 待つほどのこともなく、縞模様の丼に入ったカツ丼が運ばれてきた。


 蓋を開ける。


 カツが五きれ、卵でとじてあり、グリーンピースも載っている。

 小皿には沢庵が4切れ、これも定番、更に赤だしまでついているとは豪勢である。


 オーソドックスなこの匂いと景色は、何故か心をほっとさせるな。


 俺は柄にもなく割り箸をとる前に手を合わせて『頂きます』と呟いた。


 そして、さていざ食事にかかろうかとした時、入口が派手な音を立てて開き、男が中に入って来た。


 人相風体共に、如何いかにも


という顔立ちの三人組だ。


『おう、ビールだしてくんな。それから何かつまみをな』


 男のうち、背の高い黒い背広を着た男が、低い声で言った。


『生憎うちの店は5時を過ぎないとビールは出さないことになってんのよ』


 小母ちゃんがアルミのヤカンをぶら下げ、お盆に湯呑を三つ乗せて出てくると、素っ気ない口調で言った。


『いいじゃねぇか、ケチなことをいわずにさ』


『ダメなものはダメなのよ。』


『おう!ババぁ!兄貴の言葉に逆らうのかよ!』


残りの二人の派手なシャツを着た男が腕まくりをして同時に叫んだ。


 その声を聞きつけて、奥から作務衣姿に前掛けを掛けたおっさんが出てきた。


『ニイさん方、悪いけど、ウチのやり方が気に入らねぇんなら、他所の店に行ってくんな』


 おっさんは身長はそれほどなかったが、迫力だけはあった。


『おう、ジジイ、この方を誰だと思ってんだ!』

 

『知らねぇな』


『何だとう?!』


 俺はその間も黙々と箸を動かしていたが、箸を一端止め、


『すまないが小母ちゃん、お茶を一杯貰えないかな?』といい、それから男たちの方を見ると、


『おい、ここは食堂だぜ。メシを喰いに来たなら黙って言うとおりにしなよ。それが客の守るべき「仁義」ってもんだろ?』


『おい!横から口を出すな!痛い目に遭いてぇのか?』


『痛い目?どんな目だね?』


『野郎!』


 若いチンピラが土間を蹴って俺に飛び掛かってきたが、その瞬間、立ちあがった俺は湯飲みの茶を奴の顔にひっかけ、腕を捻じり上げた。


『おいおい・・・・やるなら外でやろうぜ。ここじゃ大将に迷惑だ』


『よし分かった!逃げるんじゃねぇぜ!』


 連中は気負った調子でそういうと、俺の後に従って表に出た・・・・



 約5分と30秒後、俺は再び元の椅子に座って、カツ丼の残りを平らげ、赤だしを飲み干していた。


『ああ、美味かった。ご馳走様、こんな美味いカツ丼を喰ったのは久しぶりだな。幾ら?』俺はそういうと、小母ちゃんの言うとおりの額を財布から出してテーブルの上に置いた。


 え?


 さっきの連中はどうしたって?


 さっき言った通り、5分30秒でカタをつけたよ。


『あんた・・・・一体なにもんだね?』


 おっさんと小母ちゃんは、二人して俺の顔をぽかんと見つめながら言った。







 


 












 

 


 





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