その3
我ながら自分の人の好さにあきれたが、しかし引き受けた以上はやらなきゃならない。
まず俺は『親分』の元を訪れることにした。
『親分』・・・・知ってる人は知ってるだろう。
もと東京一円、いや、関東全体に大勢力を誇っていた(ある意味では今でも)大組織をほぼ独力で作り上げた、言わば『怖い人中の怖い人』というわけだ。
だが、今では完全に足を洗い、小さいがそれなりに儲かっている運送会社の経営者だ。
葛飾の木造二階建ての小さな家は、相変わらず清潔そのものだ。良く手入れされた生け垣、綺麗に掃き清められた庭。とても70を過ぎた老人の一人暮らしとは思えない。
『親分』は呼び鈴を鳴らすとすぐに出て来てくれた。
作務衣姿で、頭をタオルで覆っている。
『すまんな。今ちょっと部屋の中を掃除しとったもんだから』
人懐こそうな笑みを浮かべて、俺を中に入れてくれた。
外回りと同じで、室内も綺麗に整頓され、掃除が行き届いていた。
居間に通された俺が室内を見回していると、間もなく盆の上に常滑焼と思われる急須と湯飲み茶碗を丸盆に載せて戻って来た。
『生憎茶うけになるもんが何もねぇんだ。カラッ茶で我慢してくんな』
そう言って俺の前に、薫り高い煎茶を淹れて出してくれた。
『親分』は
『失礼』と断ってから、ロングピースをうまそうにふかし始めた。
『旦那から電話があった後で、俺なりに色々調べてみたんだがな』
そういって『親分』は、一本目を灰にすると、腕を組んで、
『たしかに「あの一家」はとっくに解散していた。親分て人がなかなかの人物でな。
俺はハンマー五代の恩人について聞いてみた。
『立派な奴だったよ。
『親分』は、二本目の煙草に火を点け、
『役にたたなくて申し訳ねぇ』と、すまなそうに頭を下げた。
『いや、そんなことはない。手がかりさえ貰えれば、後はこっちの仕事さ。』
俺はそういって、残りの茶をぐっと飲み干した。
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