ある神父の悩み

 私が勤める聖ホロマニュルム教会には懺悔室がある。

 特定の曜日、特定の時間だけに開かれる懺悔室。

 そこでは罪の意識に苛まされた迷える子羊が涙を流し神に許しを請うのです。

 

 

 チリンと申し訳無い程度に呼び鈴の音が鳴った。

 どうやら今日も迷える子羊が現れたようです。


 懺悔室は小さな個室の真ん中で隔たり、懺悔する者と許しを与える者と別れ行われます。

 私は白い布製の覆面を被り告者の対面に座ります。

 木製の衝立の向こう側には教会から数えて三つ隣で酪農を営むファルマンさんの所のご長男が座っていた。

 確か名前はタウロンさん。

 俯き加減の彼の様子から何となくだが罪の意識が覗える。

 彼は一体どのような罪を犯したのだろうか?


「誓いの言葉を」

「ちがいの言葉を」

「この場において告戒された内容は秘する事、主に誓います」

「この場において告戒し、赦しを秘する事、ぢかいます」


 懺悔にも作法があり、お互いがこの場での内容全てを秘とする事を誓い合わなければならないのです。


「全ての罪を主は許されます…………本日はどうされましたか?」


「お、おら、やっやてまねーーー!!!」


 感極まった様でいきなりタウロンさんはその両目から大粒の涙を流し始めました。


「う゛う゛う゛…………」


「泣いていては分りませんよ」


 罪を話すように私は促す。

 しかしのっけから此処まで感極まるとはよほどの罪を負ってしまった様子。

 私も軽い気持ちではいけません。

 気を引き締めてタウロンさんの次の言葉を待った。


「はのこ、乳ばしぼらど気持ちしさんだサ鳴ぐんだ。だがーはのこがきもちいいどいいべこ乳がしぼれらんだ。だかきやもっど気持ちよぐしてやろうどおきやおもったんだ」


「そうですか」


 正直何言ってるかわかんないが、冷静に合の手を入れ次を促す。


「だかきやあそこばのでのでしたきやきもちよぐのらだべどおもったんだ。そしたきやはのこそれが癖サのっちまって乳ばしぼら前サあそこばこすりつ痒いてぐらんだ」


「それでどうされたのですか?」


「あんまりすりしってぐらもんだかきやわもわんつかぐきやいだばいれてやてもいがのど思て入れてやったんだ。結構良い具合サ締まってたもんだかきや夢中サのっちゃって。ちょうどそこサよめがやてきて、おきやどはのこが繋がっていらのばみきやれちまったんだーーー」


「ふむ。嫁さんが…………」


「よめはものすごい冷て目でおきやのごどみたんだ。それかきやよめは一言も話してぐれのぐて。おきやもうどしたきやいが分きやのぐて~のう?」


「何とも罪深い」


 私の声を聴いたタウロンさんはがっくりと肩を落とした。


「良く聞いて下さい。アナタは罪を告白されました。きっとその後悔の涙は主に届いたことでしょう。アナタの罪は赦されました。但しその罪をアナタがどう償うかは貴方次第です」


「分りますたぁー」


 そう言うとタウロンさんは少しだけ来た時より軽やかに帰っていきました。



 次の懺悔の日の事でした。

 チリンと軽くベルがなりました。

 何時もの様に白い布製の覆面を被ると私は懺悔室へと入って行きます。

 私が椅子に座ると木製の衝立の向こうには教会から数えて三軒隣の酪農を営むファーマンさんの所の長男のお嫁さんが来ました。

 確か名前はユミンさん。

 俯き加減の彼の様子から何となくだが罪の意識が覗える。

 彼女は一体どのような罪を犯したのだろうか?


「誓いの言葉を」

「誓いの言葉を」

「この場において告戒された内容は秘する事、主に誓います」

「この場において告戒し、赦しを秘する事、誓います」


 懺悔にも作法があり、お互いがこの場での内容全てを秘とする事を誓い合わなければならないのです。


「全ての罪を主は許されます…………本日はどうされましたか?」


「うちのダディが カウのはなこと交わってたのをみちゃったのよー」


 結構軽い口調で話しているが中々に衝撃的な告白だ。

 旦那が牛と交わる。

 結構なパワーワードだな、うん。


「ネクストそれでねー、なんかダーティーだから声も聴きたくなくてイットからずっとスルーしてるのよ~」


「…………それで?」


「じゃぁまたカウのはなこと交わってるのよ~。腰とかバンバンスィングしちゃってさ~、Ah~~~Oh~~~とか言っちゃって、REALフィーリングバッドよ!」


 そうだったのか。

 この間のタウロンさんの話しは獣姦だったのか。

 あいつナマリ半端ねーから、何言ってるかわかんねーんだよね~。

 それにしてもタウロン半端ねー。

 普通どう考えても牛とヤラないだ。

 嫁さんも居るんだし。

 牛が「うほ、イイ男」とか言って誘ったのかな?

 

 ちょっと赦しちゃ駄目な奴だったな~。

 どうしたもんか。


「もう絶対赦さないわ!」


 そりゃ怒るわ~。

 旦那が牛とヤッてたら。


「心を穏やかに」


 出来る分け無いよね。

 あ~これどう持って行こう。

 悩むわ~。

 やべ懺悔してー。

 なまり酷すぎて適当に聞き流して罪拗らせちゃったって。


「神様…………ダディを赦せないミーを赦してくれますか?きっとミー、このままだとキルしちゃう」


 そうだよね。

 それも有りだよね。

 牛殺しときゃ万事解決だよね。

 また次の牛に行く前にタウロンさんも反省するだろう。


「良く聞いて下さい。アナタは罪を告白されました。きっとその声は主に届いたことでしょう。アナタの罪は赦されました。但しその罪をアナタがどう償うかは貴方次第です」

 

 




 また次の懺悔の日。

 チリンとベルが鳴りました。

 何時もの様に白い布製の覆面を被ると私は懺悔室へと入って行きます。

 私が椅子に座ると木製の衝立の向こうには教会から数えて三軒隣の酪農を営むファーマンさんの所の長男のお嫁さんが来ていました。

 名前はユミンさん。

 俯き加減の彼女の様子から何となくだが罪の意識が覗える。

 彼女は一体どのような罪を犯したのだろうか?


「誓いの言葉を」

「誓いの言葉を」

「この場において告戒された内容は秘する事、主に誓います」

「この場において告戒し、赦しを秘する事、誓います」


 懺悔にも作法が――――(以下略)


「全ての罪を主は許されます…………本日はどうされましたか?」


 カウやっちゃったんだろうなー。

 俯き加減のユミンさん。

 大粒の涙をその瞳に溜め彼女は告戒しました。


「ダディ…………キルしちゃいました」


リアリーーーー!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る