“赤い人形遣い“ 闇討締
「ボクも早くカッコイイ二つ名が欲しいなぁ」
「坊っちゃまの通り名は格好良いじゃありませんか」
「でもほら、兄様たちには特殊な読み方があるじゃないか」
闇討家次男、
通称、“赤い人形遣い“はお抱えの職人と一緒に糸を紡ぎながら呟いた。
確かに妹のランドセルに比べれば断然自分の方がカッコイイだろう。
殺に言えば全力の喧嘩になるであろう正直な気持ちを口には出さず、目の前の糸に集中した。
自分の武器は自分で作れるようにならなくては。そう言われてからずっと、締は彼女に糸紡ぎを教わっている。
彼女の紡ぎ出す糸は繊細で、しかし強靭で、美しい。
締の前に流された完璧な糸を目にすると、自分が紡いだ糸の未熟さが浮き彫りになる。
締は両手両足を投げ出して、彼女に言った。
「やっぱりボクの糸はまだまだだなぁ」
「前回よりも上達しておられますよ」
「あと十年やっても追い付けなさそうだけど」
「ほほほ、十年で追い付ければ坊っちゃまは天才ですよ」
この糸は、彼女がその一生の半分以上を掛けて編み出した最高の物だ。
それを中学生である締が完璧に紡ぐことは不可能なのである。
しかし十年、確かに十年で、この糸を紡げるようになるだろう。そして恐らくそれ以上の糸を編み出すだろう。そう思わせる程の才能を、締は持っていた。
目の前の妙齢の女性がそんなことを考えているとは露知らず、締は彼女の紡いだ糸を手に取って嬉しそうに眺めている。
「今日これ使ってきていい?」
「勿論」
「ありがとう、綺麗に染めてくるね」
「えぇ、楽しみにしていますよ」
「じゃあ行ってきます、
駆け出して行く締はまだ肉体も成熟していない、あどけない少年の姿で。
まだ純粋な力比べでは勝てない相手もいるだろう。
しかし小柄な肉体は隠密行動に於いて有利な点でもあった。
締は見張りの目を盗んで排気口から
音を立てずに人を殺すことは一番得意なことだ。
締は誰にも気付かれることなく任務を遂行し、そして満足気に屋敷を後にした。
雇い主からの返事がないことを不審に思った護衛が寝室の扉を開けたならば、そこには操り人形のように天井から吊るされた男が居るだろう。
腕や足、頭は通常では有り得ない向きに曲がり、身体中に巻き付いた糸は赤く染まっている。
“赤い人形遣い“だ!
諦めの混じったそんな声が、夜の闇に溶けて消えた。
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血撚の紡ぐ糸は血を吸い上げ、深紅に染まる。
昔は血撚が自ら使っていたその糸を、引退を期に闇討家の次男に譲ったのはもう何年前の話だろうか。
自分以上に楽しそうに糸を染める締に、自分の持てる全ての技術を譲ろうと決めたのはもう何年前の話だろうか。
締の働きをある程度の距離を取って見守っていた血撚は、もう少しで自分の役目が完全に終わることに、気付かないフリをした。
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