“薬師“ 闇討害
自分以外の家族は全員天才だ。
彼、
もしそれを闇討家以外の者が聞いたなら、それは絶対に違うと言うだろう。
そう、彼もまた、天才だった。
害は基本的には肉弾戦を行わない。
害は闇討というよりは暗殺。
特に毒殺を得意としていた。
闇討家の屋敷にある彼の自室は世界中から集めたありとあらゆる薬物で埋め尽くされている。
そして害が自ら配合し、生み出した新種の毒物が常に数十種、棚に並んでいる。
毒物だけではない。痺れ薬、惚れ薬、強壮剤から何から全て。
害の服には小さなポケットが大量に付いており、そこに常に数百種類の薬品が仕込まれているのだった。
しかし、人々が害を恐れるのは多種多様な薬品を駆使することに対してだけではなかった。
害が薬を使う際に見せる、歯茎まで剥き出しにした満面の笑顔を恐れているのだった。
自身の調合した薬品が
しかし害は、自分が
ただ自らに課せられた任務を淡々とこなしているに過ぎないと思っている。
だから今日も彼は悩むのだ。
やろうと思えば誰にでも出来る──決して誰にでも出来る訳では勿論ない──ことをするだけの、凡人の自分が闇討家の時期当主であっていいのかと。
どんな得物でも難なく使いこなし、特注のランドセルで目標を殲滅する闇討家最年少の殺の方が、父が初めは害に付けようとしていた殺の名を受けた妹の方が、むしろ自分よりよほど実力者だと。そう思ってしまうのだった。
だが、害に殺の名が付かなかったのは、母が殺は女の子の名前に決まってるでしょ!と頑として譲らなかったからである。
父が母に勝てる筈もなく、長男と長女、二人──結果として今は三人──で闇討家を支えてほしいと、殺に対を成す害の名が付いたのだった。
そして、確かに単純な戦闘能力で言えば害よりも殺の方が上かもしれなかったが、殺にはあまりにも常識がなかった。
誰に聞いたとしても、当主に相応しいのは害だと答えるだろう。
しかしそのことを害が自覚するのは、まだまだ先の話なのであった。
「にーさま、またしわが!」
「眉間のシワは消えなくなるらしいですよ」
「……む、すまん」
「ほらほらー! 笑って笑って!」
「殺、兄様の笑顔はこわいからシワさえ消えればそれでいいよ」
「そっかぁ」
「…………む」
フラスコ片手に研究に勤しむ害を揶揄う兄妹たち。
兄妹でなければ決して害にそのような扱いは出来ないだろうやり取り。
そんな微笑ましい三兄弟を、両親は穏やかな笑顔で見守るのだった。
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