4ルート目 設定妹

 ダイエットを決意し、それからというもの朝晩10Kmのランニングと食事制限によりメキメキと体重は減っていった。


 ほんとはこんな努力嫌だし、したくないのだがこのままではギャルゲー的世界へ転生した意味がまるでないわけだ。


 ここまでするのだから目指せハーレムルート。モテモテやりまくりのヒモ男を目指すのだ。養われたい。俺は養われたい!!


「かもん、ステータス」


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 LV:5

 名前:田中 太郎

 身長:162cm

 体重: 90Kg

 MP:0/5

 性格:不真面目 頭が悪い 気持ち悪い ピザデブ 残念な思考回路 遅れてきた思春期 高望み 自分勝手 お金好き 変態 スケベ ニート 童貞

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 このステータスの価値は好きな時に体重のチェックが出来るというところだろうか。お、身長伸びてる。


 最近、謎のMPは毎日消費されている。ファイアーボール一発として放ったことはないのだが上限は5。レベルも5まで上がっている。


 汗を拭き自室のシャワールームで汗を流す。しかし、ここまでストイックにやってようやく15Kgの減少だ。炭水化物が食べたい。思いっきり暴飲暴食したい。


「おーい田中。朝飯ここに置いとくからな」


 浴室の外から月山の声が聞こえてくる。食事管理をしているのは月山だ。


 普段食堂で朝、昼、晩と食事を摂っていたが、それだと他の人の食事が見えてダイエットに良くないと言われ、こうして部屋でご飯を食べている。

 協力してくれると言っていたが徹底的すぎてヤバイ。


 間食も許してくれないし、夜間食堂に潜り込んだときには軽くしばかれた。ルームメイトの愛が怖い。


 浴室から出て、朝食のトレイを見ると、サラダ、ササミ、味噌汁、納豆、申し訳程度の麦ご飯。


「月山、脂身が食べたい」


「ダメだな。これまでやってきたんだから最後までやり通せ」


 鬼。鬼がいる。厳しくされるなら可愛い幼馴染とか美人な先輩とかにされたい。何が悲しくてイケメンに調教されねばならんのだ。ハーレムルートにお前はいないんだよ月山ぁああああっ!!


 もう食べ飽きた朝食を黙々と咀嚼する。


「ちゃんとよく噛んで食べるんだぞ。早食いは健康にも悪いし、体重増加にも繋がるからな」


 ・・・おかんかな?



 ※※※



「アンタ・・・ちょっと痩せた?」


 昼休み。


 金髪碧眼のツインテロリが品定めするかのような目で見てくる。


 量産型の言葉だとしても自分の努力が認められるというのは存外に嬉しいものだった。そういえば転生する前の自分はいつからか努力なんてものとは無縁になっていた。


「ま、まあな!!これでも15Kg減量したんだぜ!!」


 これ見よがしに自慢するが九龍院 麗羅は微妙な顔をしている。


「ふぅん、ちょっと痩せたくらいで調子に乗らないことね。ダイエットは継続なんだから油断したらリバウンドするわよ」


 俺はそんな言葉を気にせず、ふらりと教室を出る。筋トレの為だ。これまで見守る会に時間を使っていたが、既に『久遠 幽花を見守る会』は脱会した。俺は過去の恋になど縛られないのだ。


 向かう先は別棟にある空き教室だ。人気もなく、過ごすにはもってこいだ。


 着いてすぐ腹筋、背筋、スクワットを開始する。「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」と目標の回数をこなしていくと、不意に出入り口が開く。


「兄上!こんなとこにおったか。全く、昼休みに時間をとってくれと言っておいたではないか」


 この子は俺の妹という田中たなか 莉々愛りりあである。年は1つ下。中等部は敷地内にあるので直接来たようだ。


 普段の俺であったならばうっひょぉおおおっと喜ぶところであったが、なんとまさかの〜のじゃとか、我は〜とかちょっと古めかしい言い回しをする。


 画面越しなら良かったのだが相対すると、痛い娘としか思えないのだからゲームによるフィルターとは凄まじいものである。


 元々の俺には妹なんていなかったし、こっちで目を覚ましてから妹がいることを知ったので、俺には設定にしか思えない。


「えー・・・だって、父さんと母さんと食事に行くって話しだろ?いいよ俺は」


「そうただをこねるものではないぞ兄上。母上も父上も会うのを楽しみにしておるのじゃぞ?」


 俺にとっては他人そのものである両親と何を好き好んで食事に行こうというのか。実はこのやり取りも始めてではない。


「もう観念するのじゃ。顔も合わせぬ親不孝者にはお小遣いをストップすると言っておったぞ?」


 ・・・強制イベントですね、わかります。


 力なく頷くと、満足したように笑みを浮かべる。


 ちなみにこの設定妹は銀髪に翡翠の瞳。全体的に顔のパーツは小さく小動物のような愛らしさがある美少女である。兄が黒髪なのになんだろうこの格差は。おれもプラチナブロンドになりたかったよ。


「よーし!兄上、授業が終わったら自分のクラスで待っておるのじゃぞ。逃げるなど許さないからのっ!?」


 ビシッと指を差すと、出入り口から去っていった。


「のじゃ娘・・・慣れればいけるか・・・?」


 そんな俺の呟きは誰にも届かなかった。

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