2ルート目 黒髪パッツン美少女
放課後。
身支度を整え、部室へと向かう。ここはギャルゲーらしく普通は存在しない架空の部活へ入部し可愛い子達とキャッキャウフフしたいところではあるが俺の入った部活は、
『
ギャルゲーの主人公的に一人のキャラに入れ込むのはちょっと・・・とも思ったが、その思いも払拭されるレベルで可愛い。1つ年上の2年生である。
こちらの世界では珍しい黒髪黒目。背中まで伸びるロングの髪と切り揃えられたパッツンの前髪。白く雪のように美しい肌。言葉少なく、あまり喋っているところは見たことない。それぞれの要素が相まって儚げな雰囲気を纏っているのだ。
守りたい、その笑顔(見たことないけど)。ピザデブ鋭意取り組ませていただきます!!
活動目的はひたすらに久遠 幽花を遠目から見守ったり接触する異性があればそれを阻むのが目的である。完全に迷惑な奴らである。
それでも入ったのは見守る会の連中を出し抜くためだ。
ぶはははっ、愚か者共め。俺の人生のヒロインは久遠 幽花ちゃんに決めたのだ。その為にはなんだってする!
そして今、久遠 幽花は現在地から10m先、一人の女子生徒と談笑している。何を喋っているかまでは聞き取れないが、ああ、なんだか風に運ばれていい匂いがしてくるような気がする。
もうすぐ見回り交代の時間。このタイミングが唯一、見守る会を出し抜けるのだ。
「太郎くん、そろそろ交代の時間でゲス。行くでゲスよ」
モブ山くんは俺の袖を引っ張る。
「ああ、わかっているとも。でもトイレに寄っていくから先に戻っていてくれ」
そう言うと、快く受け入れてくれるモブ山くん。実にチョロい。
茂みから彼女を見ると、ようやく談笑を終えてひと段落といったところだ。片方の女子は校内へと姿を消した。
しかし、ギャルゲーの主人公的には偶然的必然によってヒロインとの邂逅を果たすわけだが、俺の場合は必然をいかに偶然に見せかけるかどうかが肝になるわけだけど・・・
「あ、あの・・・」
彼女は誰かに呼びかけるようにこちらを見ている。
全くどいつだ、下手な尾行しやがって。俺までバレたらどうすんだよ。左右と後方を見る。うん、誰もいないな。
「あの、そこの茂みの人」
「・・・」
なんだかバッチリ目が合っているような気がする。
「えっと、さっきから視線が凄くて。その、困ります」
「・・・」
これ、俺だな。俺だわ。間違いなく。
絡み合ってるもの。彼女の視線と俺の視線が絡み合って目と目でお話し出来そうだもの。
「こ、こんにちは!俺は、1ーAの田中 太郎って言います!ぷひゅぅぅ・・・」
ちっくしょ、不安定な姿勢をとってたせいで変な声でたわ。
意を決して茂みからピザデブが飛び出るとギョッとする久遠 幽花ちゃん。驚く姿もベリーキュート。
「久遠 幽花です。何か用ですか・・・?」
律儀に名乗ってくれる久遠 幽花ちゃん。困ったように形の良い眉を八の字にしてちょっと後ずさる。
俺とてこんな邂逅は望んじゃいない。もっとこう、思い返したらあんなことあったね、と笑い合えるような思い出がほしかったのだが、これでは不審者との邂逅である。一生の思い出だろう。勿論、最低な意味で。
こうなってしまった以上、俺にはこれしかない。
「あ、あんたのことなんて全然気にしてなんかないんだからねっ!」
ピザデブ最高のツンデレモードである。
ここで、好きだの、友達になりたいだの言っても通らないだろうし、何を言っても茂みから覗いていた事実は消えないわけだ。
それなら、全力でごまかす。これに限る。むしろ笑いに持っていくことで、「ふふっ、なんだか面白い人ね」で丸く収まるパターンだ。
「・・・」
「・・・」
何故だか、時が止まったかのように静かだ。
「あの、こういうのやめて下さい」
ほ、ほう・・・?
「最近、本当に多くて迷惑なんです」
ほ、ほ、ほぉう・・・?
「そ、それに私、体の大きい人って苦手で・・・」
「お、俺はあれですよ?横にはでかいですけど、縦はそこまででもないですよ?160cmしかないし!」
「・・・」
彼女は顔俯いてその表情は見えない。
「そ、そうだ!君を陰で見てるようなやつらには俺からちゃんと釘を刺しておくよ!」
「・・・」
さっきから何も言ってくれないんだけど。
「私は、貴方が苦手なんです!というか嫌いです!なんだかヌメっとした視線が気持ち悪いし、お肉でパンパンのお腹とか脂ぎった顔とか、なぜかいつも汗かいてたり、すれ違うと変な臭いがして嫌いなんですぅううううううっ!!」
それは叫びだった。バッと顔をあげたかと思えば美少女とは思えない形相で思いの丈をぶちまけるその様子に若干、高まりもしたが同時に頭が冷えてクラクラする。
そういえば、彼女をヒロインにと決めてから、いかに彼女の視界に入れるかを試行錯誤し、訳もなくすれ違ったりしていたなあ。バレていたのか。はははっ。
ピザデブ終了のお知らせである。
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