エピローグ
「早く早く。行くよー」
文化祭の翌週。
僕と会長は生徒会室へ向かっていた。
今までは別々で向かっていたが、最近は放課後になるとわざわざ僕のクラスまで迎えにくる。
「おう、お二人さん。なんや、丸く収まったみたいやな」
途中、弓原先輩と会った。先輩は特に悪びれる様子もなく、今まで通りに接している。
「弓原先輩。あの、この前僕が怪我させてしまった部員の人達は……」
あの時、何人かの剣道部員を殴ったり蹴ったりしてしまった。その時は頭に血が昇って気にしていなかったが、倒れた人達は無事なのだろうか。
「あ、気づいとらんの? 誰も怪我なんかしてへんで」
「いや、でも」
血を流してた人もいたはずだけど。
「あの時の血な、全部血糊や。殴られたらすぐ血糊使って倒れとけ、言うといたからな。ほんまに血流してたんは自分だけや」
と僕を指差して笑う。
「えー……」
そんなことまでしてたのか。
「ちゃらちゃら遊んどったいじめっ子と一緒にすんなや。あいつらかて、俺と同じ練習メニューこなしてる剣道部員やぞ。お前のパンチくらいで伸びとったら俺が許さんわ。そんなことより、もう暇やろ? この後どうや」
また何か勝負をしようと持ち掛けられる。だが、僕が返事をするより早く、
「だめ! もう危ないことはさせないからね!」
と会長に止められる。この二人、以前は協力して僕を陥れたが、あまり相性は良くないらしい。
「すいません。そういうことなので……」
「なんや、もう尻に敷かれとるんか。大変やなあ」
また笑われる。先輩も会長の前では誘えないと察したようで、ほな、と言って去っていった。
「遅いです」
生徒会室に着くと、いきなり風香に怒られる。勇吾と柳さんはすでに来ていた。いつもなら勇吾が遅いぞ、と言って仕事に入るところだが、不機嫌な風香の前ではそんないつも通りは出来なかった。
「ごめんって。ちょっと弓原先輩と会って話してたんだよ」
席に着いて一応謝るが、
「もう、こっちは大変なんですからね……」
と余計に怒られる。これはまずい流れだ。
会長は何も分かっていないようで、
「まあまあ。文化祭も終わって、仕事も減ったし、大丈夫でしょう」
と言って僕の隣に座る。
そこで風香の怒りが爆発した。
「だからって、生徒会が一年の会長一人ってどうなってるんですか!!」
会長席に座る風香に、僕たちは一斉に頭を下げた。
文化祭直前の騒動。さらに予算の不正使用による打ち上げ花火。その罰として、僕らは先生方にこっぴどく叱られた。さらに、
「こんな奴らに生徒会を任せられん!」
という至極真っ当な意見が出たことで、表向きは今回の件に関係していない風香を残して、上級生四人が生徒会除名処分となった。
こうして、風香は一年生にして生徒会長となり、前代未聞の一人生徒会を運営している。
「だから、こうして手伝いにきてるじゃないか」
さすがに一年生一人で仕事をこなすことは出来ないということで、僕達はあくまで手伝いとして生徒会の仕事に関わることとなった。要するに仕事はするが、生徒会としての内申点はもらえない、という本当のボランティアだ。
「それでも、生徒会役員でないといけない部分が多すぎます!」
生徒会役員、特に会長は、一応様々な決定権とかがあったりするので、代わりが効かない。
「まあたしかに、細々した作業は手伝うにしても、正式な役員がせめてもう一人は要るよな」
勇吾が仕事をしながら言う。その隣では柳さんが今まで通り絵を描いている。もしかして今までも仕事してるふりしてずっと絵を描いてたのか。
「一人は誘っているところです。そろそろ来てくれるはずなんですが」
風香がそう言うのとほぼ同時にノックの音が響く。
「失礼します……」
現れたのは桐谷さんだった。
「祥子、こっち」
と柳さんがどこからか椅子を出し、自分の席の隣に置く。
桐谷さんが椅子に座って、チラリと僕を見て微笑む。僕もなんとなく笑い返す。隣で会長、ではなく、咲良さんが目だけで異常な圧をかけてくる。
勇吾はそれを見て笑いをこらえている。風香も笑いそうになっているが、会長としての責任感でなんとか耐える。
「じゃあ、全員揃ったということで……」
気を取り直して、風香が会長として全員をまとめる。その傍らにはあの意見箱。
「え、まさか」
僕の言葉に、風香は困ったように笑いながら意見箱から一枚の紙を取り出す。
「生徒会のお仕事を始めましょう」
こうして役員四人と見習い一人の日常は終わり、役員一人、見習い一人、手伝い四人という非日常が始まったのだった。
生徒会の非日常 暗藤 来河 @999-666
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