最初の花火
「もういいでしょ。私が悪かったから」
「その話じゃありません」
秋仁君が私の腕を掴んだまま話を続けようとする。もう聞きたくないけど、離してくれそうにないので、諦める。
「……分かった。とりあえず、一回座ろう」
私はへなへなと扉に持たれて床に座る。秋仁君も分かりました、と横に並んで座った。近い近い。腕掴まれただけでドキドキしてたのに、肩が触れるくらい近くに座らないでよ。心臓飛び出そう。
「それで、何の話なの?」
三回深呼吸してなんとか心臓を落ち着かせた。秋仁君は何も感じないのかな。基本無表情だからよく分からない。一回咳払いして、私の目をまっすぐ見て口を開いた。
「僕は会長が好きです」
さっきまで騒いでいた心臓が一瞬で限界を迎えて止まった。そのくらいの衝撃だった。何を。何で。
「えーーーーーー!!!!!」
やっと体が感情に追いついて声が出る。天狗を見た時より大きな声だった。
秋仁君は私の声に驚いて跳び上がった。
「ちょ、ちょっと、声でかいですよ。びっくりした……」
「だ、だって、え? なんで? わ、私?」
「一回落ち着きましょう。はい、深呼吸」
促されるまま深呼吸する。だめだ、全然落ち着かない。だって、いつも振り回してばかりで、迷惑かけて、あれだけ酷いことをしたのに。なんで私なんかを。
「返事、聞かせてもらえますか」
すごく嬉しいけど、でも。
「だめだよ……。私は、秋仁君に酷いことしたのに……。なんであんなことされて、好きだなんて言えるの」
「それは今は忘れてください」
忘れられないって。普通恨まれてもおかしくないのに。
「今回の件、なんでやったのか。言わないつもりだったけど、聞いてもらっていい?」
「え、はい」
返事ではなかったことに落胆したようだが了承してくれた。先にこれを話しておかないとフェアじゃない。
「私は、秋仁君のことが好き。でも私じゃ釣り合わないと思ったの。生徒会に入って、秋仁君の良いところに皆が気づいて。秋仁君は気づいてなかったかもしれないけど、君はけっこう人気者なんだよ」
彼は否定しようとして口を開いたが、黙って話を聞いてくれる。最後まで聞いてくれるようなので、話を続ける。
「だから、私は秋仁君の人気を無くそうとしたの。皆に秋仁君の良さを知ってもらって、楽しい学校生活を送ってもらおうと思って生徒会に誘ったのに、私はそれを壊そうとしたの。他の人に好かれないで。私だけのものにしたい。それが、私があんなことをした理由です……」
自分で言ってて悲しくなった。申し訳なさとか、自分の情けなさとか、いろんな感情が渦巻く。
「だから、私なんかを好きになっちゃだめだよ。もっと良い人を見つけて、ちゃんと幸せにならないと」
なんとか最後まで話せた。涙が溢れてるけど、言いたいことは言えたから良しとする。
秋仁君は黙っている。私がここまで酷い女だと知ってどう思ってるんだろう。幻滅したかな。
「僕の話も聞いてもらえますか」
彼はそう言ってハンカチを差し出した。少し迷ったけど、受け取って涙を拭く。
「僕はそんなに良い人間じゃないです。それに、前にも言いましたけど、去年生徒会に誘ってもらって救われたんです。僕はその頃から会長のことが好きでした。別にいいんです、何をされても。会長がやりたいようにしたのなら、それでいいんです」
せっかく拭いたのに、また涙が零れた。
「だから、僕と付き合ってください」
嬉しくて涙が止まらない。言葉が出ないので、行動に移すことにした。
立ち上がって、手を差し出す。彼が私の手を握る。生徒会室から廊下に出る。
窓からは体育館が見えた。
私はポケットからあるものを取り出す。
「会長、それは」
例のスイッチだった。私の持っているものだけは本物だ。躊躇なくそれを押した。
「ちょ、会長!」
秋仁君が慌てて体育館を見る。同時に、大きな音が聞こえた。
ドーーーン!
体育館の上空に、綺麗な花火が上がった。
「爆発するって思った?」
驚く彼に尋ねる。そういう絵を描いていたのだから、聞くまでもないことだけど。
「はあ……。いつの間にこんなの用意したんですか……」
「本当はここまでは考えてなかったんだけどね。弓道部の申請、あったでしょ? あの予算を使って、ちょっとね」
あの申請自体は私の仕掛けじゃなかったけど、ふと思いついたので利用させてもらった。予算の不正使用ってことで、後で怒られるんだろうなあ。
「でも、良かったです。もう一緒に花火見たりなんかできないかと思ってたから」
私もそうだ。合宿のときの花火が最後かな、なんて思ってた。二人並んでまた花火が見れるとは思っていなかった。そういえば、あの時は最後の花火だ、なんてポロっと言ってしまったような気がする。
「付き合って、最初の花火だね」
花火を見ていた彼が私を見る。嬉しそうに、照れたように笑うから、私も釣られて笑った。
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