真面目な話をしましょう
生徒会室で僕と会長のスマホが鳴る。僕の方は風香からの連絡だった。
「そっちは風香から? 私の方は葵と森下君からだったよ」
「じゃあ、こっちの予想通りの展開ですかね」
「そうだね。葵はなんか嬉しそうだし、森下君はすごい疲れてるみたい」
柳さんと桐谷さんでそもそも会話が成立するのか不安だったが、仲良くなれたのか。風香がどうしてもこの組み合わせにしたいと言うから任せたけど、上手くいって良かった。勇吾が何をされたのかが気になるけど。
「それじゃあ、こっちも真面目な話をしましょう」
「何でこんなことをしたんだ、みたいな話? 風香からは何か聞いてるの?」
「だいたいは聞いてます」
動機は教えてもらえなかったが、何をどこまで仕組んでいたのかは聞いている。
「まずは味方を集めるところから。柳さんは最初から会長側だったとして、勇吾を味方につけることを考えた」
「うん。普通にやったら森下君は秋仁君の方についちゃうからね。神田君に内緒で説得したの」
「それがあの肝試しの時ですね」
「親睦を深めるための合宿、だよ」
たしかにそういう名目だった。柳さんや風香と僕を同じ班にして親睦を深めさせようという意味だと思っていた。実際、そういう意図もあったんだろうけど、本当の目的はもう一班の方だったのだ。
僕に聞かれないところで勇吾を説得する時間が必要だった。僕だけじゃなく、他の無関係な生徒に聞かれるわけにもいかない。あの頃はまだ僕も副会長としての信頼があったので、誰かから話を聞いてしまう可能性もある。
だから会長は他の生徒がいない、完全に二人きりの時間を作って勇吾を説得した。
「一応、風香も味方にしようとしたんだけどね。フラれちゃった」
「人望……」
「うるさい」
風香は柳さんから計画を聞いて、味方にならないかと誘われたが、断った。言い方は悪いが、要約するとやり方が気に入らない、とのことだ。
「あの子も一直線だからねー」
「まあ真面目ですよね」
「そうじゃないんだけど……」
何か違ったらしい。まあ今はそこを掘り下げる必要はない。
「それで弓原先輩まで味方につけて、一昨日の件ですね」
弓原先輩を味方にした細かい経緯は分からない。風香も知らないそうなので、割と最近のことなのかもしれない。
「弓原君を味方にするのはけっこう簡単だったよ。秋仁君と本気の勝負ができるよーって、それだけ」
「それだけですか……」
単純すぎる。でもその光景は目に浮かぶようだった。
「さすがに私の計画を聞いたらちょっと引いてたけど、ちゃんとやってくれた」
「それが一昨日のことですか。騒ぎを起こして僕を挑発する」
「そうだよ。だからあの日は私はここに籠もってて、秋仁君以外はすぐ向かえないところに配置した。校舎の中を見回ってた秋仁君が一番に呼ばれるように」
そんなことまで考えていたのか。たしかにあの分担にしていなかったら、生徒会を呼べ、と言われて僕が一番に行くとは限らない。
かといって、神田秋仁を呼べ、と言われても素直に行きたくはない。そうなったらまず勇吾辺りを様子見に行かせる。
「結果、僕は一年前のように大暴れしてしまったわけですが、それも予定通りですか」
「……うん、予定通り」
会長はそこまで言って、申し訳なさそうにする。
「秋仁君の味方がいなくなるように、『やっぱりあいつは怖い奴だ、関わらないようにしよう』って思われるように、私が仕組んだこと」
そんなことを考えるほどに会長に嫌われているとは思わなかった。
しばらく何も言わずに黙る。会長も何も言わないので、沈黙が訪れる。
それでも、まだ聞くべきことや言うべきことがあるので、仕方なく話を進める。
「僕が知っているのはこのくらいです。そもそもなぜこんなことしたのか。それだけは風香も教えてくれませんでしたから」
「あの子も本当に律儀ね」
自嘲気味に笑う。秘密というのは会長に頼まれたからだったみたいだ。
「教えてくれますか」
「嫌だ」
「えー……」
断られた。普通、こういう場面なら犯人が動機を自ら話す流れじゃないのか。
「本当は言うつもりだったんだけど、言わない方が良いような気がしてきた。大丈夫、大したことじゃないから。もう、この件はこれで終わりだよ」
言わない方が良い、と言われてもこっちは不完全燃焼なのだけど。でも会長はもう全く話す気がないようで、席を立つ。
そのまま歩きだして生徒会室を出ようとする。
「待ってください。まだ僕には言いたいことがあります」
「私は聞きたくない。ちゃんと事情は説明して、秋仁君が生徒会に戻れるようにするから。私は責任取って生徒会長を辞任するから、あとは風香と仲良くやっていって」
なんでそこで風香が出てくる。まだ終わってない。
会長の腕を掴んで引き留める。
「もう一つ、真面目な話があるんです」
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