再会

 見回りと称して一人で文化祭を回った。本当は五人が良かったと思う気持ちもある。

 でも自分で決めて、自分で始めたことだから、文句は言えない。

 それより葵と森下君にも悪いことをしてしまった。途中までは二人で過ごしたようだけど、今回の計画のために今は別行動をさせている。


 十六時五〇分。生徒会室に戻ってきた。自分の席について机を見る。意見箱の中に入れておいた紙の束が出ている。

 秋仁君はこのメッセージに気づいたみたいだ。内容は理解できただろうか。きっと分かってくれるだろう。風香は余計なことを言っていないといいけど。あの子はたぶん私の気持ちを正しく全て理解できている。


 十六時五八分。

 足をプラプラ揺らしてひたすら待つ。彼は私を探してくれているだろうか。ここにいるとわかるだろうか。

 自分で仕掛けておきながら不安になる。

 来るなら早く来てほしい。

 思いが通じたのか、突然扉が開く。

 嬉しさのあまり笑顔になりそうになったので気を引き締める。だめだ。私は酷いことをして、さらに酷いことをしているのだから。もっと悪役っぽく、余裕の表情で待ち構えていなければ。

 表情を作り直して前を向く。

 作り直した表情は一瞬で崩れた。


「きゃーーーーー!!!」

 そこにいたのは一人の天狗だった。


「二回目なのに、良い反応ですね」

 天狗がお面を外す。正しく私の待ち人、秋仁君だった。

「なんでまたそんなの着けてくるの!?」

「いや、先に一回使ったネタ出してきたのは会長じゃないですか」

 秋仁君は机の上の紙束を指差す。たしかに一枚目のメッセージは使いまわしだけども。

「そういえば、あの肝試しの時にいたのは弓原先輩ですよね。あれも会長の仕込みですか」

「違うよ。あれは弓原君が勝手にやったこと」

 先日話をするまで、そのことだけは本当に私も知らなかった。


 そんなことよりも、彼はなぜこんなに落ち着いているのだろう。いつの間にか普通に自分の席に座ってるし。

「怒ってないの?」

「どれのことですか」

 どれ、というか全部だ。何もかも私が悪くて、秋仁君に嫌われても当たり前なくらいに最低なことをしているのに、数日前までの、いつも通りの彼のままだった。

「そんなにゆっくりしてていいの? このヒントは伝わった?」

 何を考えているか分からないので、とりあえず話題を変えてみる。

「大丈夫です。天狗は三人組なので」

「でも葵はこっち側だから、今は二人でしょう」

 以前の天狗は二人しか残っていない。かといって、この学校に新たな天狗になるような生徒はいないはずだ。そのために一昨日の騒動を起こしたのだから。

「真面目な方の天狗が仲間を呼んだので、また三人組です。残りの二人はそれぞれ勇吾と柳さんのところに向かってます」

「でも居場所は分かってないんでしょう」

 秋仁君が不敵に笑う。

「大丈夫です。うちの天狗は優秀ですから」

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