三銃士
文化祭当日。
制服を着て鞄を持つ。
「おはようございます。秋仁先輩」
「……だから、なんで家知ってるの」
「まだ秘密です」
風香が待ち構えていた。
「怪我はどうですか」
「もう大丈夫。それより僕学校行っていいのか。何か処分とか聞いてない?」
「とりあえず文化祭の後みたいです。謹慎にはなってないですし、追い返されたりはしないですよ」
一日休んだら体の方は何とかなった。問題は僕の処遇についてだったが、今日のところは気にしなくていいらしい。それでも学校の人達に会うのは緊張するが、一昨日、風香に聞いた話だとサボるわけにはいかない。
二人で学校までの道を歩く。
「具体的に会長は何をするつもりなんだ?」
「分かりません。私は葵さんから誘われたんですけど断ったので、詳しいことは聞いていないんです」
前途多難だった。会長が文化祭当日に何かをするつもりだという話は聞いたが、何も分からないんじゃ手の出しようがない。
「とりあえず生徒会室に行くか」
「そうですね。直接会えればそれでいいですし、いないなら手がかりを探しましょう」
ひとまず方針は決まった。それとは別で、ずっと気になっていたことがあったので聞いてみることにした。
「今更だけど、なんで風香は会長の方につかなかったんだ?」
風香はわざとらしく大きなため息をつく。そんなに不思議なことを言っただろうか。まだ一ヶ月程度の付き合いの先輩より、中学時代からの付き合いの先輩の方が大事だと思うが。
「分からないなら分からないでもいいです。ただ、今回の会長のやり方は好きじゃないっていうのもあります」
風香は僕を貶める作戦に怒っているようだ。最近分かってきたが、風香は真面目なようで、意外と悪ふざけが好きで、でもやっぱり性根は真面目だ。ふざけたがるのは会長の影響もあるかもしれないが。
文化祭が始まる前に学校について生徒会室に入る。中には誰もいなかった。開始時に会長から開会挨拶があるので、その準備で出払っているのかもしれない。
「どこを探しますか」
僕は真っすぐ会長の席に向かう。風香がこちらについたことで、会長は僕がここに来ることも予期していたはずだ。ここまで会長の思惑通りなら、きっと分かりやすく何かを残している。
机の上には例の意見箱だけが置かれている。その中に手を入れてみる。
「これだ」
意見箱から紙を取り出す。一枚ではなく何枚も重なっていて、クリップで留められている。
「なんですかこれ」
紙には『会長より愛を込めて』と書かれている。以前の肝試しで使っていたフレーズだ。実は気に入っていたらしい。
「ヒントかな」
二枚目、三枚目と紙をめくっていく。だが一枚目以外は白紙のようだ。
「これ、端のところ。何か書いてありますよ」
風香が紙の左下の辺りを指差す。小さな絵が描いてあった。何かの建物だろうか。
次のページをめくると、同じ建物が少しズームしたように描かれている。全く意味が分からない。
次々とページをめくると、少しずつ変化があるように見える。
「そういうことか」
やっとこの絵の意味に気づいて、一度めくった紙を戻す。それからパラパラとテンポ良く紙をめくっていく。
「パラパラ漫画って、柳さん無駄に頑張ったな……」
「葵さんこういうの結構凝るタイプですから……」
パラパラ漫画の出来の良さに驚きと呆れを感じながら最後まで見た。
要約すると、あの建物は体育館で、その中で何かステージ発表が行われている最中に、突如天井から何かが落ちてくる。はっきりと誰かが怪我をするような描写はないが、この絵の通りになれば大パニックになるだろう。
「これって、ステージ発表のどのタイミングでしょうか」
「この絵だけだと分からないな。それに、分かっても僕達だけで止められるようなことじゃないだろ」
一応ここまでは大した騒ぎにならずに来られたが、一昨日大騒ぎを起こした張本人が大勢の前で注意喚起したって、それこそ大パニックだ。
会長もそれは分かっていて、その上で僕達にヒントを与えている。それなら、もっと何かあるはずだ。
紙の束を改めて確認する。パラパラ漫画を一つずつよく見直し、最後のページまで進む。
「先輩、この裏、何か書いてますよ」
風香に言われて、束をひっくり返して一番後ろの紙の裏を見る。
学校の校舎の絵が一つと、何かのスイッチのような絵が三つ。それに加えて『三銃士』という言葉が書かれている。
「三銃士は、十七時からの演劇部のステージ発表です」
「でも、絵は体育館じゃなくて校舎なんだな」
どういう意味だろう。ヒントが雑すぎないか。三銃士で時間は分かったが、止める手立てが分からない。
「三銃士……。三人? 銃?」
風香がブツブツ呟きながら考え込む。
「三人……。風香、勇吾と柳さんは会長の味方なんだよな」
「葵さんはそうです。森下先輩には確認していませんが、秋仁先輩に何も言ってこないなら、たぶんそうです」
三銃士と三つのスイッチ。
「一人ずつこのスイッチを持っている。十七時までに三人を探して止めろってことじゃないか」
落下のためのスイッチか止めるためのスイッチかは分からないが、とにかくこのスイッチを奪ってみろ。そういうメッセージだ。
「でも、生徒会の仕事は今三人でやってるはずですから、校内を回ればすぐ見つかるんじゃないですか」
「文化祭が始まってしまえば生徒会は大してやることないよ。それに人混みの中に居られたら僕が行くわけにいかないでしょ」
体育館じゃなくても、僕が人混みの中に行ったらそれだけでパニックだし、風香一人じゃ煙に巻かれて終わる可能性もある。
「じゃあどうするんですか」
「十七時には出店はだいたい終わる時間だし、体育館以外は人が少なくなる。それから探すしかない。問題は三人がバラバラに、出来るだけ遠くに別れている場合」
たぶんこの考えは間違っていないけど。
「二人じゃ時間が足りない。誰かを見つけたとしても、すぐにスイッチを渡してくれるとは限らないし」
せめてもう一人いれば。二対三より三対三の方がいい。それに僕は会長のところに行くべきだと思うし、会長が行きそうな場所は思いつく。
でも残りの二人は地道に足で探すことになる。
「もう一人いればいいんですね」
「そうだけど、僕の味方して会長達を敵に回すような人いないだろ」
今や良い意味の有名人と悪い意味の有名人だ。こちらに着くような生徒がいるとは思えない。
だが風香は自信ありげにスマホを取り出す。
「私に任せてください」
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