校舎裏の会談

「十五夜の夜、学校にいたって本当?」

「あかんかったか?」

 質問に質問で返されるのは好きじゃない。

「なんで私にも黙ってそんなことするの。秋仁君に誰かいた、なんて言われてすっごい怖かったんだからね」

 私が怒っても、相手は大して気にしていない。

「ちょっと様子を見てみたかったんや。生徒会でのあいつの立ち位置みたいなもんをな。そんなことより、なんで校舎裏なん。いつの時代の不良やねん」

「だって、人に見られると面倒じゃない。何もなくたって目立つんだから」

 生徒会長と剣道部主将。この学校のツートップだと言われることもある。正直私はこの男を敵に回して勝てるとは思わないけど。秋仁君はよくこんなのの相手を何度も出来るものだ。

 とにかく、私達二人は何もなくても一緒にいるだけで目立つのだ。校舎の中で内緒話できる場所なんかない。


「そういえば、また秋仁君と勝負したんでしょう?」

「おう、ついさっきな。久々に気持ちよく勝たせてもろたわ」

 ぱっと笑顔になる。普段のうさんくささ、試合の時の真面目な顔、今のような屈託のない笑顔、この三つのギャップにやられる女子も多いらしい。私は大丈夫だけど。

「秋仁君に怪我させてないでしょうね」

「過保護やなあ。自分、あいつのオカンか」

「うるさい」

 ああもう、本当に苦手だ。基本的に私は周りを振り回す方だ。自覚はある。でもこの男は私が何を言っても飄々と躱す。ペースが掴めない。

「怪我なんかさせてへん。これでええか。ほんなら本題どうぞ」

 促されて、本題を思い出す。わざわざ校舎裏まできたのは雑談のためじゃない。


「そろそろ本番なわけだけど。準備は出来てるの? 今日は予想外の展開だったと思うけど」

 本来、しばらく秋仁君との接触は避けてもらう予定だった。これから控えている仕事のために秋仁君の警戒から外させる、そういう手筈だったのだ。

「まあ問題ないやろ。準備言うても俺自身は大したことせえへんし。前衛部隊はもう声かけてあるしな」

「それならいいけど。タイミングはそっちに任せるから、よろしくね」

 そう言うと、珍しく少し黙った。この後何を言われるか、なんとなく分かってしまった。

「ほんまにやるんか。俺が言うんもおかしいけど、こんなことせんでもええんとちゃうか」

「大丈夫。そっちには迷惑かけない。手伝ってくれる他の人も、処罰はされないようにする」

「そういうことやないんやけどな。まあええわ。俺は好きに楽しませてもらうだけや」

 ほな、と去って行く。

 私はその後ろ姿を見送らず、空を見上げる。

 もうすぐで全て終わる。そうしたら秋仁君とはもう会えないかもしれない。

「あーあ。なんか会いたくなっちゃったな」

 最近は班分けも別々にしていたし、次は一緒にしよう。

 文化祭の準備期間は学校内の見回りもあるし、二人で見回りデートしよう。


「よし! あと少し、頑張ろう!」

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