果報は寝て待て
翌日。授業が終わって生徒会室に入る。
昨日の班分け後の方針と成果をお互いに伝え合うことになっている。
「お疲れ様でーす」
「だから遅いって」
今日も勇吾に注意される。いつも通り他のメンバーは揃っていた。
「じゃあ全員揃ったし、状況報告よろしくー」
会長のゆるい号令で会議が始まる。
報告は会長ではなく勇吾からだった。こういうとき、会長は全体をまとめるために司会進行を努める。
「とりあえず俺らは聞き込みしたけど、成果はゼロ」
「え、終わり?」
あまりの簡潔さに突っ込みを入れる。
「聞き込みって、まさか手当たり次第適当にじゃないよな」
「いや、一応方針としては文化祭の出し物申請があった中で企画者とか、男女混合グループとか。この時期ってことを考えると文化祭絡みだろうってことで」
「でも来週には球技大会もあるだろ。そっちは捨てていいのか?」
「それは俺も言ったんだけど」
と言って勇吾は会長を見る。
「だって、球技大会は生徒会ノータッチだし。それなら私たちに言っても仕方ないって思うんじゃない」
球技大会は来週金曜の午後、半日で行なわれる。実行委員は有志で集まった生徒達だ。基本全員参加だが、実行委員になれば競技に出なくてもいいことになっているので、運動は苦手だがクラスの足を引っ張りたくない、というネガティブなのか前向きなのかよく分からない面々で構成されている。
「まあそんな感じで聞き込みしていったんだけど、全く成果なし」
「そっちはどう? 何か分かった?」
会長が僕に振ってくる。正直まだあまり話したくはないんだけど。まだ風香に与えたミッションの結果も聞けていない。風香もこの場でどこまで話していいか分からない様子で、アイコンタクトでこちらに助けを求めている。
「こっちも今のところ成果なしです」
「えー、それだけ?」
「具体的には何やったんだ?」
会長と勇吾が不満そうに言う。だからこの二人はあまり組ませたくないんだ。
柳さんでは止められないし、止めようともしない。
「それはまだ言えない。でも明日には何かしら成果出る予定なんで、とりあえず明日まで待ってもらえますか」
「明日? どういうこと?」
だから言えないんだって。僕では会長の好奇心を抑えることができない。ここは後輩に助けを求めるべきか。
「風香――」
「え?」
「は?」
しまった。
「え、今風香って呼んだよね」
「呼びましたね。彼氏面してましたね」
「いや、違う。呼んでない。呼んでないよな」
「呼びましたよ。秋仁先輩」
風香が止めをさす。
「風香まで! 何で!? 乱れてる、乱れてるよ、生徒会!」
会長が半狂乱になって騒ぐ。
「なに、本当にどうした? 付き合ってんの?」
「違うって。ただ呼び方変えようってだけだよ。なんならお前もそうしろよ」
「それはダメです」
風香が断る。今そんなこと言ったら余計ややこしくなるだろうが。
まだギャーギャー騒いでいる二人を放置して、最後の砦に助けを求める。
「柳さん」
「うん?」
柳さんが顔を上げる。今の今まで周りの喧騒に目もくれず、ノートに何かを描いていた。
「……それは?」
「猫」
ノートに大きく猫を描いていた。それも可愛い感じではなく、リアルなタッチのやつ。
「なぜ、いま、ねこ」
「描いてると落ち着くから」
この状況で一人だけ落ち着かないでくれ。
「落ち着いたなら、あの二人なんとかしてくれない? もう手に負えないんだけど」
えー、と小さく不満を漏らして立ち上がる。頼んでみたものの、柳さんになんとかできるのだろうか。
「咲良」
柳さんが会長の肩を叩く。会長が振り返る。それに気づいて勇吾も一旦落ち着く。
「これ、どう?」
さっき書いていた猫の絵を会長に見せる。
「あ、かわいい!」
「え、これ柳さんが書いたの? すげえ」
二人の興味が絵の方に向く。まさか本当にあの場を治められるとは思わなかった。さっきは失礼なことを考えてごめんなさい、と心の中で謝る。
その時、風香が僕の袖を引く。
「今のうちに行きますよ」
引っ張られたまま生徒会室を後にする。
なんか今日は振り回されてばかりだ。
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