生徒会の日常

 生徒会室に入るとすでに僕以外のメンバーは揃っていた。

「遅いぞ、秋仁」

 と声をかけてきたのは森下勇吾もりしたゆうご。同級生で、生徒会では書記を務めている。

 その隣にいるのは柳葵やなぎあおい。同じく同級生の女の子で会計と庶務を兼任している。柳さんは普段からあまり喋らず、今も感情が読み取れない表情でこちらを見ている。

「すいません。会長」

 勇吾ではなく、奥にいる会長に向けて謝る。

 会長の隣には見知らぬ女子が一人いるが、これから説明があるだろうから、とりあえず席に着く。


 生徒会室にはなぜか校長室にあるような立派な机があり、生徒会長用として使われている。

 その他の役員は普通の教室にあるような机を四つくっつけて使っている。入って左手前が柳さん、左奥が勇吾、右奥が僕の席だ。僕の隣は現在空席だった。

 現在、生徒会はこの四人で活動している。

「いいよいいよ。さて、全員揃ったところで本題に入るよー」

 生徒会長、町田咲良まちださくら先輩の号令がかかる。咲良先輩はこの生徒会唯一の三年生で、去年の役員選挙で会長に就任した。そして会長から名指しで集められたのが僕と柳さん。僕が道連れに巻き込んだのが勇吾だ。


「はい、みんな気になってると思うから、まずはこちらの美少女を紹介するよ」

 美少女、と言われて会長の隣にいた女の子が照れ臭そうに俯く。会長は気にせず紹介を始めた。

花井風香はないふうかさん、一年生。これから生徒会の、何だろ、仮入部的な感じで一緒に活動していきます。それでは一言どうぞー」

 促されて、花井さんが一歩進み出る。

「花井風香です。咲良さんと葵さんとは同じ中学で、私はマネージャーでしたけどバスケ部の先輩後輩でした。その縁で咲良さんに誘っていただいて、生徒会で一緒に活動させていただきます。よろしくお願いします」

 一礼して挨拶を終える。とても高校一年とは思えない礼儀正しさだった。余程中学時代に先輩から厳しくされたのかと思って会長を見る。会長は僕の視線で心を見透かしたらしく、

「なんか失礼なこと考えてるでしょ」

 と睨まれる。

 それならばと柳さんを見ると、

「風香は昔からこうだった」

 と珍しく言葉を発するくらいには憤慨していた。勇吾は顔を伏せて声を出さずに笑っている。僕一人悪者みたいじゃないか。

「とりあえず座らせてあげましょうよ。席はここでいいんですか」

 なんとか話題を変えようと僕の隣の空席を指す。

「そうだよ。一応言っとくけど、私は座ってていいって言ったんだからね! 無理に立たせてたんじゃないからね!」

 会長が自分を擁護しながら花井さんを席に着かせる。


 挨拶も雑談も落ち着いたところで、やっと真面目な生徒会モードに切り替わる。

「それで、生徒会って普段どういう仕事をするんですか」

 今日初めて生徒会室に来た花井さんが会長に尋ねる。

「これよ!」

 会長は大きな声とともに大きな箱をドン、と机に置く。どこからともなく突然大きな箱を取り出した会長を花井さんが少し引いた目で見ている。もしかしてこの二人、相性良くないのでは。

 驚いている後輩のために勇吾が説明を始める。

「あれは意見箱って言って、普段は職員室の隣の教室の前に置いてるんだ。直接ここに相談しにくる人もいるけど、言い辛いこととか匿名希望とか、そういう人のために」

「めったに入ってないけど」

「あったらあったで厄介事ばっかりだしな」

 柳さんと僕も一言ずつ付け足す。

「そんなこと言わないの。なんと今日も入ってたよ」

 会長は箱から一枚の紙を取り出し、高々と掲げる。この人はこれがやりたいがために、一度取り出して中身を確認してからまた箱に戻しているのだ。

「じゃあ読むよー」

 会長は咳払いして読み上げる。


『十五夜の晩、天川高校の最も大切なものを奪いにきます』


 短い文章を読み終わり、沈黙が訪れる。

 五秒ほど沈黙が続き、仕方なく僕が口火を切る。

「会長、これ……」

 会長は開き直ったように笑顔で言った。

「予告状、きちゃった」

 会長がてへっと笑って、再び沈黙が訪れた。

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