第29話 なんとも幸先の悪いスタートとなったものだ
「あんた、すげぇな。
アデスさん、あれで冒険者ランクで言ったらCランクはあるんだぜ?」
門衛との勝負が終わり、門から出るための手続きをしていると、担当の若いにーちゃんがそう話しかけてきた。
……アデス? と思ったが、そうか、あのおっちゃんそんな名前なのか。
まぁ、すぐに忘れてしまいそうだが。
「Cランク?
あれでCというのは、低くないか?」
冒険者ギルドへ登録した際、簡単に説明を受けはしたが、シノアへの態度に腹が立ってあまりちゃんと聞いてはいなかった。
とりあえず、登録すぐは様子見期間として『Eランク』から、と言われていたが、問題なく仕事がこなせるようならすぐDランクへは上がれるようだし。
となると、その一つ上のCランクくらいなら、すぐにでも上がれそうなもんだが。
あの実力で駆け出しに毛が生えた程度、とも思えんのだが……。
「新人によくある勘違い、ってやつだな。
いいか?
EからDがすぐだからって、DからCも簡単に行けそう、って思うのはドシロートだ。
というかな、1番最初にぶつかる壁がCランクへの昇格なんだよ。
昔はそれなりに簡単に上げていたみたいなんだけどな。
その結果、どうなったと思う?」
「……なるほど。
自分は強いと調子に乗った連中が、さくさく死んでいったわけか」
「そういうことだ」
『駆け出し冒険者』を『新入社員』と読み替えると、途端によく聞く話になる。
見習いを終えて、仕事をし始めると思ったよりもできる自分が見えてくる。
実際は、周りに助けられていたり、そもそも与えられている仕事のレベルが低かったりするのだが、駆け出しのうちにはそれがわからない。
それなりに成果も出せるものだから、余計に調子にのる。
そうして一人前として、今度は自分で判断してやらなければいけない立場になった途端、なにもできなくなる。
指示を待っていても誰もしてくれないからだ。
日本で働いている分には、失敗してもなんとかなるし、とりあえずやらせてみるか、で昇進させることもなくはないが。
この世界でそれをやると、魔物に食われて、あえなくジ・エンド。
そう考えれば、あの門衛のおっちゃんの態度もわからなくはない、か(煽り耐性の低さはともかく)。
ヤツから見れば、俺たちは駆け出し以前だろうし。
しかも、普通は戦闘員としてカウントしないはずの奴隷がパーティメンバーだと言うんだから、死ににいくように見えたのだろう。
外に出る前に、少しでも状況が知れたのはよかったのかもしれないな。
いかんせんこの世界の経験値が足りなさすぎるのは否めないからな。
シノアの常識も、どうも少しずれているような気もするし……。
焦って変なミスをしてももったいない、少し慎重にいくとするか。
「よし、手続きはこれで終わりだ。
今後はタグをこの『宝珠』にかざせば出入りが可能になる」
受付の男が指差す方向を見ると、ちょうど巨大な門の脇の辺りに人間の頭くらいの大きさの黒い球状のものが置かれてあった。
「かざすだけでいいのか?」
「ああ。
そうすれば、門の外にある宝珠の前に転移されるようになっている」
「ほう、それはすごいな」
門を開けずに出入りができるというのは、防衛の面で非常に理にかなっていると言えよう。
「同時に転移できるのは5人までだから、もし同行者が増えた場合には気をつけるように」
「ああ、わかった」
平和な南側の門が開いていたのはそういう理由か。
あちらは、物資の輸送などで大人数のキャラバンも多かったしな。
「よし、行くぞシノア」
「はい、アキテル様!」
二人のタグを同時に宝珠にかざすと、一瞬目の前が暗くなり、立ちくらみに似たようなクラっとする感覚があった直後には、目の前の門は俺達の後ろに移動していた。
実際に移動したのは俺達だけどな。
「うぅ、アキテル様、ちょっと気持ち悪いです……」
……そして、俺の横には『転移酔い』を起こしたシノアが青い顔をして買ったばかりの『魔道士の杖』にもたれかかっていた。
うん、まぁ、シノアは軽いし、杖は丈夫だから折れはしないだろうが、なんとも幸先の悪いスタートとなったものだ。
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