第28話 思ったより時間を食ってしまった

 山賊……もとい、門衛のおっちゃんと向かい合い、刀を正眼で構える。

 念の為、盾代わりの籠手も装備する。

 もちろんこれもアダマンタイト製だ。

 おっちゃんがどれだけ業物を持っていたとしても、アダマンタイトの硬度を切り裂くほどではないだろう。

 しかし、籠手で防御するという戦い方は未経験なので、スキルで対応する。


 今回の依頼のために作っていたスキルは3つ。

 元々は、魔物と戦うときのために作っていたものではあるが、早速役に立ちそうだ。

 本番の前に実戦で試せるのは、ある意味ラッキーだな。

 特に、『籠手防御』と『見切り』の2つはぶっつけ本番のつもりだったからな。

 効果は、読んで字のごとく『籠手での防御』と『攻撃を見切る』ものだ。

 嬉しい誤算だったのは、見切りスキルの熟練度が作った時から15あったことだ。

 どうやら、現世での武道の経験が反映されたものらしい。

 発動後、自分で終了させるまで継続してSPが消費され続けるのは痛いが、長期戦にならなければ問題ない。

 それに、相手の技量にもよるが、1分あたりSP1消費なので、自動回復がなくなる、と考えれば管理はしやすい。


 そしてもう一つ、『見切り』と『アラーム』を同時に使うことで『心眼』という『合体スキル』が発動するらしい。

 また説明書に載っていない言葉が出てきたよ、と思ったものだが、今更あの痴女に期待しても無駄なので、メリットだけ享受することにした。

 アラームが常時発動型パッシブスキルなので、見切りスキルを発動時に『心眼』に切り替えるかどうかを決めればいいようだ。

 単に『見切り』を使うだけよりは消費SPが大きくなるので、使い所の見極めは必要になるだろう。

 更に、心眼+籠手防御で『籠手による自動防御オートガード』という合体スキルにも派生するそうだが……さすがに、毎分SP100消費、というので今の俺には使えそうもなかった。

 いつか使える日が来るかもしれないので、覚えておくとしよう。


「準備はいいか?」

「ああ、いつでもどこでもお好きなように」

「……こんの!

 イキってんじゃね―ぞ、クソガキがぁ!」


 だから、煽り耐性低すぎだっての。

 おおよそ5mくらいの距離をとって相対していたが、思っていた以上の力強い踏み込みにより一気に迫りくる。


 スキル『見切り』発動!


 発動と同時に、「合体スキル『心眼』を発動しますか?」との声がどこからともなく聞こえてくる。

 なんとなーく、あの女神の声に似ているような気がしないでもないんだが……まぁいい。

 答えは『YES』だ!

 短期決戦で決める!


 すると、突然目の前の門衛の動きがスローに見えてきた。

 いや、スローとはまた違う。

 構えや筋肉の動きなどがよくわかるようになり、目線などからおおよその次の動作が予測できるようになった。

 脳内がクリアに澄みわたり、予測から自分がどう動けばいいかまでの思考が滑らかに繋がる。


 およそ5歩ほどの踏み込みで目の前に迫りくるスキンヘッドのおっちゃんというのは、なんとも気持ちのいいものではないな。

 なんて考えている場合ではないが、心眼スキルのおかげか戦闘そのものに影響はない。


 左上段から切り下ろされるシミター。

 スピードと体重の乗った非常に強力な打ち込みだ。

 それを、ほんの僅か体を右に動かすことで躱す。

 空を切ったシミターだが、そのまま地面まで落ちることなく、体の捻りだけで無理やり突きへと変化させる。

 躱されるとは思っていなかっただろう、ほんの一瞬だけぎょっとした雰囲気があったものの、すぐさま切り替える所はさすが戦い慣れているといったところか。


 ガイィィン!!!


 とはいえ、そう簡単に攻撃をくらってやるわけにもいかない。

 シミターの切っ先に左の籠手を打ち付け軌道を変える。

 ついでに無理やり突きに変化したことで体勢が崩れた足元を払ってみるが、わざと体を投げ出し地面を転がることで避けられてしまった。

 ふむ、思った以上に強い。

 そして、あの体幹の安定性……簡単には崩せそうにないな。


 再び距離をおいて向かい合う。

 先程よりは近い、だが一歩の踏み込みでは攻撃が当たらない、そんな距離。


「なかなかやるじゃないか

 まさか突きまで躱されるとはな」

「だから言っただろ」

 先程よりは隙のない構えに変わっている。

 少しは認めてもらえたようだ。

「これで俺たちが門の外に出ることを認めてくれるというわけには」

「いかんな。

 条件は『勝ったら』だろう?

 まさか、いまので勝ったとか言うつもりじゃないだろうな?」

「言わねーよ」


 油断なく向かい合ったまま、言葉を交わす。

 さっきのようにいきなり切りかかって来ない所を見ると、先程の攻防が与えたインパクトはそれなりあったようだ。

 っと、そうだ。


「あー、すまん。一つだけどうしても聞いておかないといけないことがあるんだが」

「あぁん?

 なんだってんだ、勝負の最中に」

「いや、おっちゃんが持ってるその武器な。

 超高い業物、とかじゃないよな?

 万が一に壊れても大丈夫だよな?」

「……何が言いてえのかわからんが、支給のよくある安物だよ。

 負けた時の言い訳にはならんぞ?」

「それを聞いて安心した。

 なんせ……」

「ん? なんだ?」

「……いや、なんでもない」


 俺のアダマンタイト刀の切れ味が良すぎて、下手したらオシャカになってしまうかもしれんからな。

 弁償しろなんて言われても困る。

 ……なんて言おうもんなら、またブチ切れられそうだからやめておいた。

 ん? 別にいいのか。

 まぁ、いいか。

 どっちにしたって変わらん。

 『心眼』で消費され続けるSPもバカにならないし、サクッと終わらせてしまおう。


「では今度は、こちらから行くぞ」

「どっからでもかかってき――」


キィィィィィィン!!


「え?」

 言葉が終わる前に動いた。

 一瞬こちらが目線を上に切ると、おっちゃんもつられて俺から視線が逸れる。

 瞬間、死角に入るよう体を落とし、スキル『縮地』を発動し一気に踏み込む。

 作っていた3つ目のスキル。

 昨日シノアと何度か試してみたが、視線誘導と組み合わせることでまるでワープでもしたかのように見えるとのことだった。

 使わずに済むかと思っていたが……まぁこれも実践訓練ということでいいだろう。

 隠しておかなければいけないものでもないしな。


「勝負あり、だ」

 途中からスパッとキレたシミターを手に。

 先程からの構えと全く同じままの体勢で。

 首元に突きつけられた刀を、呆然と見つめる門衛。

「まだ、文句あるか?」

「……いや、いい」

 その言葉に、刀を鞘へ戻す。

 ふぅ、思ったより時間を食ってしまった。


―――――――――――――――――――――――――――――――

作成済みスキル


スキル『籠手防御』熟練度0 消費SP1

:物理攻撃に対して籠手で防御を行う。

 熟練度が上がるに合わせて、攻撃を受け流したり反射したりできるようになる。


スキル『見切り』熟練度15 発動時消費SP10~、継続消費SP1~/分

:物理攻撃の軌道や威力を読み、回避することができる。

 常時発動型パッシブスキルではないが、発動終了まで継続して効果が持続する。

 相手の技量と、自信の技量との差で消費SPが増加する。


スキル『見切り』熟練度0 発動時消費SP20~

:特殊な歩法により、短い距離を一瞬で詰めることができる。

 熟練度の上昇により、その距離を伸ばすことが可能。


合体スキル『心眼』熟練度0 継続消費SP10~/分

:『アラーム』と『見切り』を同時に発動することで使うことができる。

 相手の細かい動き、周りの空気、魔力の流れ、など、あらゆる情報から状況を処理し、予測することができる。また、その予測に合わせて適切な身体制御が可能になる。

 相手の技量と、自信の技量との差で消費SPが増加する。


合体スキル『籠手による自動防御オートガード』熟練度0 継続消費SP100~/分

:『心眼』と『籠手防御』を同時に発動することで使うことができる。

 自分を中心に半径1m以内に入ってくる攻撃を籠手を用いて自動でガードすることができる。その動きは、他の動作に優先されるが、関節の可動域を超えることはない。



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