第3章 異世界で初めて受けた依頼が楽でおいしいなんて、裏があるとしか思えない

第26話 今日は朝からなんだか慌ただしかった

 翌日の昼下がり。

 俺とシノアは街の北側にある大きな門の前にいた。

 昨日入ってきたのは南側だったので、ちょうどその反対側にあたるのだが……

「でかいな……」

「すごく、大きいです……」

 南門とは比べ物にならないくらいに大きな門がそびえ立っていた。

 なぜ同じく外に出るだけなのに、こうも大きさが違うのかと言えば、外の環境が全く違うらしい。


 俺たちがたどり着いた街の名前は『スタリス』という。

 南側にはだだっ広い平原が広がるが、北側には山と森が連なっている。

 ちょうど、街の外周をぐるっと回ると、途中から急に険しい山道になるとのことだ。

 実際、北側まで歩いてくるとその様子がよく見て取れた。

 斜面に沿って家が並び、ところどころ畑と思わしきものもあった。

 南向きで日当たりがよさそうだし、よく育ちそうだ。


 だが、その斜面に沿った町並みも途中から背の高い外壁に囲まれて途切れていた。

 南側のものとは明らかに高さが違う、大きく頑丈そうな壁が。

 それはそのまま北門までずーっと続く。

 山や森には、平原と比べると大型の魔物がいる場合が多いらしく、そのための措置なのだそうだ。

 そのため、南側と比べて大きく頑丈な壁や門が必要になるのだとか。

 昔は街の大きさも今ほどではなく、少しずつ北側を開拓する中で築かれていったらしい。

 とはいえ、壁を蹴破って入ってくるような超巨大で超強力なものまではいないようだが(さすがにそんな所には人は住めないだろうからな)。


 痴女女神が言うには――


『あんたが今いる場所は大丈夫よ?

 それなりに魔物も出るけど、その辺の村人でも十分に対処できるレベルのものばっかりよ』


とのことだしな。

 まぁ、あいつの言うことはどうにも信用できないが。

 『その辺の村人』が、戦闘力5のおっちゃんだとは限らないからな……。



 今日は朝からなんだか慌ただしかった。

 トロルの灰を売り、それを元手にシノアの服や装備の調達。

 その足で冒険者ギルドとやらへの登録を行った。

 冒険者ギルドとはその名の通り冒険者たちの管理組織だ。

 ここへ登録しておけば、街への出入りが楽になるし、色々なクエスト(主に魔物退治が多いようだが)をすることで報酬が受け取れる。

 奴隷商人の残していたお金はいつか尽きてしまう以上、何かしら稼ぐ手段は必要だからな。

 魔王討伐をするためにも戦闘経験を積んでおく必要があるし、一石二鳥というやつだ。

 前衛の俺と、魔法使いのシノアとの二人パーティ。

 人数はともかく、バランスは悪くはないんじゃないだろうか。

 奴隷シノアを冒険者登録しようとしたら、すごく変な顔をされたが……。

 ほんと、この奴隷制度システムだけはなんとかならんもんか。


 そんなこんなで、登録に意外と時間を食ってしまった。

 一旦オヤジの所へ戻って飯を食ってから、ようやくここへ至った時にはだいぶ日は傾きかけていた。


 しかしこの街、思っていた以上に広くて、やたらと歩き回る羽目になったな。

 車、とまでは言わないが、自転車くらいは欲しくなるな。

 宿から北門まで歩いて1時間以上かかるとのことだったので、さすがに巡回バス……ならぬ巡回馬車に乗ってきたが。


 で、だ。

 今ここにいるのには、当然理由がある。

 オヤジからの依頼だ。




「悪いんだが、北側の『魔の森』に出る魔物を退治してもらいたいんだ」

「魔物? それは、自分ではやれないのか?

 オヤジも転移者だろう?」

「あー、それなんだが。

 俺のスキルは生産系でな、戦闘には向かねーんだわ」

「……魔王討伐するために送り込まれたんだよな?」

「そうなんだがな……スキルとの適正がどうしてもこっちよりだったらしくてな」

(あの痴女女神がいつまでも成果を上げられなかったのって、こういうことしてたからじゃないのか??)

「ふむ。

 だが、俺もこっちに来たばかりだし、戦闘経験が豊富なわけでもない。

 あまり強い魔物だったら対応はできないぞ?」

「ああ、それなら大丈夫だ。

 比較的よくいるタイプの魔物で、強さもゴブリンと大差ないくらいだ。

 数は多いが、集団行動をするタイプではないので、見つけ次第倒してくれればいい。

 定期的に駆除依頼はしてはいるんだが、しばらくするとどこからともなく湧き出てくるんでね。

 思ってた以上に腕は立つみたいだし、お前さんなら難なくやれるさ。

 ま、楽でおいしい仕事、とでも思ってくれや」


と、いうわけだ。

 報酬は宿の宿泊費1週間分タダにすること、と、可能な範囲で俺の要望に沿った『何か』を作ってくれる、ってこと。

 生産系スキル、とやらの詳細については聞かなかった(聞く気もなかった)が、結構無茶なものでも対応可能だという。

 実際、やろうと思えばエレベーターも(オーバーテクノロジーすぎるため作る予定はないが)作れないことはないらしい。

 もともと『何かを作る』ことが得意だったというが、それに特化したスキルというのはたしかにチートではあるか。

 見た目はマッチョなおっさんなんだけどな。

 料理や編み物もうまいもんだぜ? とか言われても、その姿はなかなか想像しにくいな……。


「さて、こうして門を見上げていてもしょうがない。

 時間も時間だし、ひとまず今日の所は様子見ということで軽く回ってみるとしよう」

「はいっ!」


 しかし。

 楽でおいしい仕事、ねぇ……。

 そんなうまい話があるわけがない。

 俺がトロルを倒せる力がある、と聞く前から俺にこの仕事をやらせようとしていたし。

 どう考えても裏がある。


 ん?

 そういえば、あの痴女女神、


『一部、凶悪でレベルの高いヤツがいるから』


と言っていたな……。

 いや、さすがにそれはないか。

 そんな凶悪なやつが出るのであれば、実力もわからない俺に依頼するわけがない。

 まぁいい。

 慎重になりすぎても身動きできなくなるが、いつでも逃げられるように注意だけはしておこう。

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