第24話 少なくとも俺はそれは信じた
「その様子だと、やはりお前さんは何も知らされてない、ってことか」
「単なる奴隷契約の魔法だ、としか聞いていないな」
「ふむ……」
そう言うなり何かを考え込むように黙るオヤジ。
横ではシノアが相変わらず落ち着かない様子でこっちを見ている。
しばらくそうして沈黙が流れていった。
「嬢ちゃん。
なぜだ?」
「…………」
オヤジの質問に、シノアは答えない。
「この世界の知識のなさから見て、おそらくにーちゃんはまだこちらに来て間もないのだろう?
となれば、だ。
お前さんらが出会ってから、そんなに時間は経っていないのではないか?」
シノアからの回答が得られなさそうだとみてか、話の矛先をこちらへ変える。
「ああそうだ。
オレは昨日こちらへ来たばかりだよ」
一発で転移者であるとバレたくらいだ、いまさらこのくらいの情報を出し惜しみする必要はないだろう。
「昨日!?
それで一体どうして、奴隷を連れて歩くことになんてなったんだよ!?」
「それはだな――」
オヤジの問いかけに、昨日の経緯をかいつまんで話す。
もちろん、スキルについては伏せたままだ。
その間も、シノアは一言も口を開くことはなかった。
「はぁ!? トロルを倒した!?
なんつーメチャクチャな……あんなの、ある程度のレベルのパーティでやっと倒すようなもんだぞ?! それをソロで、って……」
「そう言われてもな。
倒したんだからしょうがないだろう。
ほら、これが『トロルの灰』だ」
懐から革袋を取り出す。
「……確かにこいつぁ本物だ……にーちゃん、よっぽどのスキルを持ってるんだな……」
「悪いが
「わかってるよ。
こっちも聞く気はない。
で、その騒ぎの中で奴隷商が死に、嬢ちゃんが解放されたってわけか」
「そうだ」
実際には、『死の偽装』など色々あったが、その点は伏せておく。
「それで、野良奴隷回避のために、街に入る前に奴隷契約をした、って所か」
「ああ。
だが、どうやらその奴隷契約は違うものだったようだがな」
横目でシノアを見やると、その視線に気づいてかビクッと肩を震わせる。
「おーけー、理由はわからんが事情はわかった。
ひとまずにーちゃんはその怖い顔をやめてやれ。
嬢ちゃんが怯えてる」
「だが、シノアは何も知らない俺を騙したのだ。
それは許されるものではない」
「……にーちゃんよ、甘いこと言ってんじゃねぇよ。
確かに色々事情はあったんだろうがな、それを信じたのはお前さんだ。
お前さんはこの世界に何をしに来た?
観光か? 違うだろう?
万が一この嬢ちゃんが魔王軍の手先だったら、今頃はもうこの世にはいなかったんじゃねーのか?」
「…………」
「この嬢ちゃんが言っていたことに、何かしら真実を感じたんだろう?
だから信じた。
違うか?」
「……そう、だな。
シノアを責めるのはお門違いだな、すまん」
「い、いえ!
アキテル様が謝ることはありません!!!
全て私が勝手に!!!!」
勢いよく立ち上がったシノアの後ろで、がたん、と大きな音を立てて椅子が倒れる。
目に涙を浮かべ、いまだ震えながらも、まっすぐにこっちを見ている。
シノアの真意はわからないとはいえ、俺を害そうという意思がないことはわかっていたはずだし、少なくとも俺はそれは信じた。
守る、と決めたはずだ。
それで騙されたのであれば、間違いなく俺が悪い。
その時はそうだな……また痴女女神になんとかしてもらうとしよう……あー、でも、俺がダメだったらあいつトイレ掃除係になるんだったな……役に立たねぇ。
「よし、切り替えよう。
うだうだやっててもひっくり返らないなら、状況の整理だ。
シノア、怒らんから、何もかも洗いざらい話せ。
でなければ、お前との旅はここで終わりだ」
「……はい、わかりました」
見つめ返すシノアの目からは、怯えの色は消えていた。
「っと、先に言っておくぞ。
謝罪はナシだ、時間の無駄だからな。
何が起こったのか、何をしようとしたのか。
それを話せ、いいな?」
「はい。
ふふっ」
「あっはっは、にーちゃん、やっぱお前いいわ」
……なんだ?
シノアにしろオヤジにしろ、いきなり笑い出したぞ?
「何かおかしなこと言ったか?」
「いいえ、アキテル様はアキテル様だな、と思っただけです」
「なんだそりゃ」
「そのままの意味です」
横で大仰にうなずいているオヤジも見えるが、何故か気にしたら負け泣気がしたので流しておく。
「まぁいい。
ほら、いいから話せ、進まん」
「はーい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます