第22話 その予感は見事に的中する

「本当に、銅貨7枚、なのか、これ……」

「ん? なんだ?

 着くなり値切りとは、なかなか“したたか”なにーちゃんだな」

「あ、いや、そうじゃなくてだな」

「仕方ねぇ、じゃあ二人で10枚でどうだ?」

「……はぁ!?

 それ本気か!?」

「なんだよ、まだ不服か?

 さすがにこれ以上は下げられねーぞ?」

「いや! いい!

 大丈夫だ! それで頼む」


 果たして、串焼き屋のおっちゃんに連れられてきた宿は、俺が想定していたものよりも遥かにキレイだった。

 というか、中世ヨーロッパ風の街並みの中に、おもむろに俺の知ってるにほんのビジネスホテル風の建物が出てきた時にはびっくりした。

 さすがに自動ドアはなかったものの、入って正面に大理石風のカウンターを見た時には思わず噴き出してしまった。

 ロビーにはちょっとしたテーブルと椅子がおいてあり、これは……


「まさか異世界ここまで来て東○インを見ることになるなんてなぁ……」

「トーヨ……?? なんです?」

「なんでもない、気にするな」

「はぁ……」


 とはいえ、右の扉の先はオープンスタイルの酒場といった風の食堂だし、1枚隔てた向こうは東○インとは全然違うか。

 それにしても、ガラスや大理石風のカウンターなど、思ったよりは文明レベルは高いようだな。

 さすがに電気が通っている感じはないが……ん? いや、ならあの蛍光灯のようなものはどうやって光っているんだ?

 火を使っているわけでもなさそうだが。

「なぁ、シノア、あのライトって何で光ってるんだ?」

「ライト……? なんでもなにも魔石ですよ?」

「魔石……ふむ」

 言葉の響きからして、魔法の石、的な何かか。

「あー……えっとですね」

 少し考えていると、シノアが身を寄せてきて、

「一応、『知らない』と言うのはまずいかと思うので」

と、前置きをしてからささやく。


「魔石というのは、予め【式】を刻むことで、【魔導効果】を発する石のことです。

 この世界では赤ちゃんでも知ってるレベルの常識です」

「なるほど」

 また知らない言葉ができたが……知らないということは、すなわち転移者であることを喧伝していることになる、か。

 見慣れないものがあった時の反応には気をつける必要がありそうだな。


 【式】に【魔導効果】か。

 いわゆる魔法と言われるもののある世界だしな。

 余裕があれば、スキルとして作れると面白そうだが。


「おら、にーちゃん鍵だ」

 そうしてしばらくカウンターで待っていると、串焼き屋のおっちゃん、改め、宿屋のオヤジが鍵を放ってくる。

「オヤジ、もう一つは?」

「もう一つ??

 お前さんたち、一緒じゃないのか?

 主従だろ?」

「ああ、それはそうだが」

 待てよ、この世界では主人と奴隷は同じ部屋なのが常識、ってことか?

 となると、受け入れておいたほうがよさそうだ。


 それにしても、この鍵。

 付いているアクリルのような細長い棒は、部屋の入口にある穴に挿せば電気がつくやつに見えるが……な、わけないか。

「その棒状の魔石を入口脇に差し込めば明かりと空調が使えるようになるからな。

 難しいことは何もないから、行けばわかる」

「あ、ああ、使ったことがあるからわかる」

 ……ほんとにそうなのかよ!

 俺にとってはわかりやすくていいが、本当に東○インにいるような気がしてくる。

 まるで悪い夢でもみているかのようだ。

「え? アキテルさま?」

「あとあれだ、部屋は7階だから、そこのエレベーターで行くといい。

 扉脇の魔石に手を触れれば動くぞ」

「ああ、わかった」

 驚いたな、エレベーターまであるのか。

 どうやら魔石を使った機械文明が築かれてているようだな。

 複雑な機械の代わりに、魔石の【式】によって動く、という所だろう。

 これは、想定される文明レベルをもう少し高めに見積もってもよさそうだな。


「あの……」

「どうした、シノア?」

 そんなことを考えていると、急にシノアが服の裾を引っ張る

「えれ、なんとか、ってなんですか?」

 ……ん?

「エレベーター、のはずだが、知らないのか?」

「ええ、見たことも聞いたことも……」


 ……なんとなく、だが。

 とても嫌な予感がした。


「なぁ、にーちゃんさ」

 そして、その予感は見事に的中する。

「あんた、転移者だろ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る