第19話 残念ながら本物じゃない

 どうだ!?


 間違いなくスキルは発動した。

 だが、見た目には何も起こった気配はない。


「あ、あの、アキテル様?」

 きまずい……。

 なんとなくお腹の紋章に触れながら(もちろん服の上からだぞ?)スキル発動をしたせいで、ただお腹に触っているだけの人になってしまった……。

「…………う、えっと、特に何もない、か?」

「はい……」


 ううむ、おかしいな。

 スキルの内容も問題ないし、契約魔法解除の条件もちゃんと満たしているはずなんだが。

 それと、未だに偽装スキルが発動し続けているのが気になる。

 『1度のみ』と限定しているにも関わらず、その『1度』がいつまでも終わらない。


「あの、アキテル様?

 さすがにそうお腹を凝視されると恥ずかしいです」

「あ、ああ、すまない。

 ちょっと考え事を……」

 一瞬、先程の光景はだいろが目に浮かんだが、頭から振り払う。

「って、シノア?

 なんか、『紋章それ』光ってないか?」

「え? ほんとで――あつっ!!」

 月は雲に隠れ、焚き火以外に光源のない中。

 それでもじっと見ていなければ気づけないほどの淡い光。


 だが、気づいてからは早かった。

 小さな光は、どんどん強くなったかと思うと、服を突き抜けて中空に紋章を浮かび上がらせる。

「うぐっ!」

「シノア!!!」

 浮かび上がった紋章は回転を始める。

 最初はゆっくりだったものがいつしか高速回転となり、シノアの口から苦悶の叫びが漏れ出る。

 熱い、と言っていたか……光とともに熱まで出てるってことか!?

 どうしたらいい!?

 手持ちのスキルではどうしようもないが、作り直すにしてもどんなスキルがいいのかすらわからない。


「だい……じょうぶ……です……」

 絞り出すようなシノアの声に我に返る。

 身体を抱きかかえ、手を握る。

 熱い……!

 

 ……『死』を確かめるステップが長すぎるのか!?

 早く終われ!!

 ただ祈ることしかできない自分に腹が立つ。

 くそっ!


 俺の手を握り返すシノアの力が強まる。

 光はすでに目も開けていられないくらいに強くなり、ふ、と、何事もなかったように消えた。


「…………」

 ゆっくりと伺うように目を開ける。

 抱きかかえたシノアの体からは力が抜け、ぐったりしている。

 ただ、苦しそうな息は少し落ち着いたように思える。


 ……そうだ! 紋章!

 布をめくりあげ、お腹を確認する。

 キレイに消えている!

 そっと触れてみると、熱もない。

 傷は……うん、見当たらない。

「……やった、うまくいった!」

「あ、あの……」

 無事を確かめていた俺の手に、シノアの手が重なる。

「シノア! 気がついたか!

 気分は大丈夫か!? 痛みは!?」

「あ、はい、えと、もう痛みはない、です……」

 なんだ? さっきまで顔色が悪かったと思ったら、急に赤くなってきたぞ?

「どうした?」

「その……アキテルさまがお望みであれば私は……」


 ふと我に返って今の状況を理解する。

 赤らんだ顔、潤んだ瞳とめくりあげられてあらわとなったお腹、そして下着……。

「おわっっっ!!!!

 す、すまん!!!!」

 慌てて飛び退く。

 どこからどう見ても、美少女を襲おうとしているようにしか見えない……。

「待て、シノア、オチツケ!」

 どうしてじりじりと寄ってくる?

 目を閉じるな! 唇を寄せてくるな!?

「ち、ちがう、そういうつもりじゃない!」

「……ふふ、冗談です」

 慌てる俺に対し、いたずら顔でにっこりと微笑むシノア。

「そ、そうか、冗談か」

「本気でもいいですけど」

「冗談でいい……」

「ちぇ」

 完全にもてあそばれている気分だ。

 まぁ、これだけ動ければ体は大丈夫だろう。


 しかし。

 これでこの子は自由だ。

 なんとなく流れで助ける形になったが、うまくいってよかった。

 あとは明日の朝になったらトロルの灰を確認して、街まで連れていけばミッションコンプリートだ。


 翌朝、朝日が目に入り目が覚める。

 時計がないので正確な時間はわからないが、ほぼ日の出の時間くらいと考えるとまだかなり早い時間なのだろう。

 横を見るとシノアは俺の手を掴んだままぐっすり寝ている。

 一通り駆逐したとはいえ、いつまた何かに襲われないとも限らないからな。

 簡易のテントが狭いこともあって、できるだけ近くで寝るようにしたのだ。

 手を握られているのは、目を閉じると色々な記憶が蘇ってしまうので手を握っていてほしい、と言われただけであり、決してナニかをしたわけではない!

 ……誰に言い訳してるんだ、俺は……。


 さて、と。

 仕掛けておいた『アラーム』スキルを解除する。

 目覚まし用、ではなく、周囲警戒用に作ったもので、テントの周囲1mに害意を持ったものが近づいた時に強制的に目覚めさせてくれるものだ。

 熟練度をあげていけば戦闘などでも役立ちそうだ。

 落ち着いたら、使い続けるスキルと残る文字を整理したほうがよさそうだな。



「あの、アキテルさま。

 ひとつ、お願いがあるのですが」

 朝の食事を終え、火の始末やらトロルの灰の回収(それなりの値段で売れるらしい)やらをしていると、シノアが改まって話を切り出してきた。

「ん? なんだ?」

「その、ですね……」

 目線を泳がせながらもじもじとしている。


 ううむ、昨日の態度からしてなんとなく想定はしていたが、好きだなんだという話だろうか。

 確かに、俺としても彼女に惹かれていることは否定しない。

 だが、それは戦闘や契約魔法の解除などによる『吊り橋効果』でしかなく、いわばまやかしだ。

 残念ながら『吊り橋効果そんなもの』は、いずれ冷めてしまう。

 好意を向けられる事自体は嬉しいことではあるが、それだけでこの子の人生を振り回してしまうのもな……。


「アキテルさま……私を、もらっていただけませんか?」

「シノア。

 君のその気持は嬉しいが、残念ながら本物じゃない。

 吊り橋効果、と言ってだな――」

「本物かどうかは!

 ……私が、決めることです!」

 なだめようと言った言葉は、だがすごい剣幕で遮られる。

「……そうだ、な。

 すまん」


 我ながら無神経だった。

 とはいえ、ううむ、困った。


「よし。

 じゃあ、しばらく様子をみる、ということでどうだ?」

「様子見ですか?」

「そうだ、言ってもまだ俺たちは会ったばかりだ。

 シノアが本気だ、というのは否定しないが、俺が本物ではないと思うのも否定しないでくれ。

 だから、少し時間を置いて、それでも変わらない、というのであればまた話そう」

 言ってしまえば詭弁だ。

「……アキテルさまは、ずるいです」

「嫌いになってもいいぞ?」

「そういうとこが、です」

「はっ、性分でな」


 なにはともあれ。

 旅の道連れができたようだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――

作成済みスキル

『アラーム』:熟練度2 消費SP20

継続発動型パッシブスキル(*一度発動すると解体するまで消費SP分MAXSPからマイナスされるスキルのこと)。

 周囲(半径5m)を警戒するスキル。

 敵意のあるものが近づいて来ると警報を鳴らしてくれる。

 熟練度が上がると、警戒範囲が広がったり、警報の鳴らし方を変更することができる。



ゃ ぱば✕ざが✕わ✕や✕✕✕✕さ✕✕

ゅ ぴびぢじぎ  り みひにちしきい

ょ ✕ぶづずぐ  るゆ✕ふぬつすくう

✕ ぺべでぜげ  れ めへねてせけえ

✕ ぽぼどぞご をろよもほの✕そこお

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