第18話 妙に運命じみたものを感じて
「はい……どうぞ」
俺の、おそらくは想定外であろう言葉に、一瞬びっくりした顔をしたもののすぐに表情を戻した。
そして、このセリフである。
確かに『アキテルさまが死ねとおっしゃれば死ぬ覚悟だってあります』と本人が言ったばかりではあるが。
だからといって、これは……。
「あの、な?
お前が言ったんだろう、と言う話ではあるんだが。
そんなにあっさり受け入れたらダメだろう?」
「え?
ですが、死により大いなる精霊の御下へ、身体に縛られた魂の自由なる開放を、とそういうことなのでは?」
「いやいやいやいやいや」
エルフってやつの死生観はどうなっているのだ。
それとも、これはシノアがおかしいのか?
「ですが、それ以外には考えられないのですが……」
いくらでも考えようはあるだろう!?
とはいえ、今のは俺が悪いな。
「……すまん、ちょっと驚かせようと思ってわかりづらく言い過ぎた」
こう、な?
ツッコミ待ちのボケをスルーされるどころかそのまま受け入れられると、こんな微妙な空気になるんだな……。
「その『契約魔法』というのは、『死』ねば自動で破棄されるんだよな?」
「ええ。
ですから、アキテルさまは私に死ねとおっしゃったのでは?」
「ああ、そうだ」
「ならば、どうぞ……」
そう言って目を閉じるシノア。
「だーかーらー!
いいから目を開けろ、話が進まない!」
「……はい、申し訳ありません」
なんというか、この死にたがりはシノアの特性な気がしてきたな……。
「いいか?
これから俺がやろうとしているのは、『死の偽装』だ。
一旦死んだと思わせることで、自動的に解除してしまうわけだ」
「あの、アキテルさま?
大変申し上げにくいのですが、いいですか?」
言葉とは裏腹に、若干可愛そうな子を見るような目で見られている気がするのは気のせいだろうか……。
「アキテルさまは『転移者』ですので、魔法についてご存知ないかもしれないのですが。
人を騙すのとは違って、魔法を相手に偽装なんてのは不可能ですよ?」
まるで子供を諭すかのように言われてしまった……。
「まぁ最後まで聞け。
魔法相手にして、言葉巧みに騙そう、だとか、書類を偽造しよう、だとか思っているわけじゃない。
確かに魔法のない世界から転移して来はしたが、さすがにそれくらいはわかる。
そうじゃなくてだな、スキルを使って偽装するんだよ」
「スキル、ですか……。
あまりそのようなスキルの存在は聞いたことはないのですが……」
「だろうな」
なんてったって、今から作るわけだから。
「詳しくは言えないが。
俺にはそれができるんだ」
念の為。
スキル作成能力については黙っておいた方がいいだろう。
今は俺を信頼してくれているように思えるが、本当の所どうかわからないしな。
「そう、ですか。
アキテルさまがそうおっしゃるなら、本当にできるということなんでしょう」
『?』を頭に浮かべて首をかしげるシノアだが、それ以上は突っ込んで来ない。
死を無条件で受け入れようとしてくらいだから、何をされてもいいと思っているのかもしれないな。
まさか、本当に全幅の信頼を寄せている、なんてことはないよな?
命を救ったとはいえ、会ったばかりの人間だぞ……?
ありえない
なんにせよ、自分にとってマイナスにはならなさそうだし、『詳細は言えない』と言った俺の機嫌を損ねないように、ってところだろう。
まぁ、俺としても別に見返りを求めているわけでもないから、それで構わない。
そもそもシノアを助けた事自体が成り行きによるものだしな。
放っておくのも目覚めが悪い、ってだけだ。
ぐぅぅぅぅぅぅ
では早速、と思った矢先、盛大に腹が鳴ってしまった。
一人分にしてはあまりに大きな音が鳴ったもので、つい吹き出してしまったほどだ。
そういえば、腹が減って野営でもしようと街道に向かっていたのが発端だったな。
色々あって忘れていたが、そりゃ腹の虫も大声で文句を言ってくるわけだ。
「とりあえず、だ。
なんか飯にしようか」
「そ、そうですね」
ほんのりシノアの頬が赤くなっているように見えたが……まだ燃え残っている『ファイヤーボール』の炎のせいだろうか。
そういえば、なぜあの時も炎を放ったのかについて聞きそびれていたな。
飯ついでに聞いてみるとしよう。
◇
ほどなく、馬車に積まれていた食料を発見し、俺達は飯にありつけた。
ゴブリン共の襲撃でだいぶ地面で砂まみれになっているものもあったが、そもそもが保存食(干し肉やら固いパンやら)ばかりだったので、軽く払ってやれば食べるに困らないくらいにはなった。
だいぶ味気ないものではあったが、ひとまず腹を膨らますには十分だろう。
水も、だいぶこぼれてなくなってたとはいえ、二人で飲む分には困らないだけはあった。
加えて、シノアの魔法と壊れた馬車から取った木材で火の確保もできたし、同じく馬車から剥ぎ取った幌と骨組みで簡易のテントも組み立てることができた。
残念ながら寝床の代わりになるようなものはなかったが、これだけのものが揃ったのは運が良かったと言っていいだろう。
「話は変わるんだが。
さっきのファイヤーボールにはなんの意味があるんだ?」
硬い肉にかじりつきながら聞いてみる。
俺への攻撃ではなかったようだし。
「あれはですね、トロルを燃やしたんです」
「トロルを……?
あの段階では事切れていたし、わざわざ燃やすまでもなかったように思うのだが……ああ、いや、暗くて見づらかったってことか?」
「いえ、そうではなくてですね。
トロルというのは死体が残っているとその土地を汚染していってしまうんです。
しかも、しばらくするとそこから新たなトロルが発生してしまうので、倒したあとはきっちり燃やし尽くさないといけないんですよ」
「……まじか。
とことんめんどくさいな……」
できることなら、もう二度と会いたくないものだ。
「ええ。
明るくなったら、きっちり灰になったか確認しなければなりません」
「ふむ。
まぁ、どっちにしろ夜のうちは動けないからな。
明日の出発前に確認するとしよう」
「はい」
「さて」
うまいものでもなかったが、ひとまず腹は膨れた。
改めて、奴隷の鎖を解き放とう。
まずは――
スキル
パリィィン!
「い、今の音は?」
「ああ、気にしなくていい」
この音って、俺以外にも聞こえるものなのか。
……なんのための仕様なんだ、これ……。
と、とりあえず、だ。
文字の確保もできたところで、あとはスキルを一つ作るだけだ。
スキル
スキル『一度のみ死んだと偽装する』熟練度0 消費SP1~
:対象の者を死んだと錯覚させるスキル。何に対して偽装するかによって、消費SPが増加するが、騙せないものはない。
ただし、同じ者かつ同じ対象に2度めのスキル使用はできない。
よし、思った通りの内容だ。
文字数をつぎ込んだだけはある。
何を騙すかで消費SPが変わるらしいが、契約魔法を偽装するには……うげ、SP200も使うのか。
ここまで限定して文字数を使っても、これだけの消費SPとは。
よほど強い強制力を持っているということか。
今の俺のMAXSPはギリギリ200を超えた所だ。
先程の戦闘中に増えていなければ使うことすらできなかった、と考えると、妙に運命じみたものを感じて……しまうと、あれか?
それは御免被りたいところだ。
「あの……何か、見えるのですか?」
「ん? スキルのリストだが……もしかして、これは見えないのか?」
「はい、私には何も」
音は聞こえど姿は見えず。
だから、なんなんだこの仕様……。
どうせ何も考えてないんだろうが。
「まぁいい。
なんにせよ、準備はOKだ。
今から俺のスキルで、君の『死を偽装』する。
っと、そういえば、契約魔法って解除されたらわかるものなのか?」
「ええ、わかりますよ。
ほら――」
「ちょっ! 何を!」
いきなり服をまくりあげるものだから、慌てて目をそらす。
「何してるんだ、早くもどせ」
「いえ、その、ここに紋章があるんです。
見てください」
「紋章?
う……」
振り向くと、たしかに腹の辺りになんとも複雑な文様が見える。
入れ墨でないとするなら、魔法による刻印、と言った所か。
……は、いいのだが。
シノアが着ているのは布一枚をかぶっただけのような貫頭衣だ。
腹が見える、ということは、下半身は丸見えということで――
「わ、わかった!
見たから! いいから! 戻せ!」
「はい。
契約魔法が解除されたら、この紋章が消えるので、それでわかります」
「な、なるほど。
……ちょっと待て。
それ、わざわざ見せる必要なかっただろ!?」
「ちょっとなんのことかよくわかりません」
「あのなぁ……」
「おほん。
じゃあ、やるぞ」
「はい」
シノアが目を閉じる。
今からされることに、不安がないわけないだろうに。
信頼、か。
……ふぅ、やれやれ。
スキル『一度のみ死んだと偽装する』発動!
「『シノアの死』を『契約魔法』に対して『偽装』する!!」
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作成済みスキル
『一度のみ死んだと偽装する』:熟練度0 消費SP1~
:対象の者を死んだと錯覚させるスキル。何に対して偽装するかによって、消費SPが増加するが、騙せないものはない。
ただし、同じ者かつ同じ対象に2度めのスキル使用はできない。
※契約魔法を相手に偽装するにはSP200が必要
ゃ ぱば✕ざが✕わらや✕✕✕✕さ✕あ
ゅ ぴびぢじ✕ り ✕ひに✕✕き✕
ょ ✕ぶづずぐ ✕ゆむふぬつ✕く✕
✕ ぺべでぜげ れ めへねてせけえ
ー ぽぼ✕ぞご をろよもほ✕✕✕こお
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