第13話 どういう基準になるんだ?

 スキル『二刀』。

 文字通り、二刀流で戦うためのスキルだ。

 とは言っても、フィクションならともかく、現実に二刀流をする意味はあまりない。


 通常、日本刀や包丁など、刃物というのは刃そのものの切れ味はさることながら、重さによって切れ味をましているという点もある。

 故にある程度の重さが必要となる。

 まぁ、そもそも素材の鉄なり鋼なりがまず重いというのもある。


 で、そんな鉄|(鋼)の塊を、片手で振り回すには相当な筋力が必要となる。

 さらに、斬撃の瞬間は手首に反動がくる。

 両手で持っているのであれば、インパクトの瞬間に絞り込むことで衝撃を逃がすが、片手ではそれも難しい。

 当然、剣筋もブレる。

 かと言って軽くすれば切れ味は落ちる。


 二刀にすることで手数は増えるが、それを差し引いても両手で扱うのに比べてのメリットはないのだ。


 ではなぜ、このスキルを作ったのか。

 理由は2つ。

 アダマンタイト製の武器の軽さと、切れ味だ。


 このアダマンタイトというやつは、ありえないレベルの硬度を持ちながら、非常に軽い。

 そのため、片手で扱う難しさ、というものがない。

 スキルのおかげもあってか、剣筋についても補正がかかる(完全にブレなく振るには熟練度を上げないといけないだろうが)。


 それに刀そのものの切れ味がすさまじい。

 普通は、よく切れる包丁であっても、刃に『触れる』だけで切れることは普通はないが、こいつは別だ。

 作ってすぐにうっかり刃に触れてしまったら、そこがスッと切れて焦ったものだ。

 しかも、その切れ味のおかげ(せい)でインパクト時の反動がなく、手首や腕に負担がかからない。


 片手で扱うデメリットが消えるとなれば、手数が増える、というメリットのみが残る。

 特に、トロールこいつのように、時間をかければ再生していくようなやつには、有効なわけだ。


 一つだけ問題があるとすれば。

 一振りごとに消費されるSPくらいか……。

 こういうスキルこそ常時発動型パッシブスキルにしてほしいものだ。

 ……ああでも、そうなると熟練度が上がらないのか……ままならないな。


 残りSPは……40か……。

 二刀のため一振り2撃だとしても、16回分の攻撃しかできない。


 ……待てよ?


『連撃(振り下ろした反動を利用しての逆薙ぎ、など)は1回とカウント』


 ってのは、どういう基準になるんだ?

 そもそも『一振り』とは?

 振り切って『止まるまで』?

 ……つまり、止めずに動き続ければ、一振りとカウントされる、ってことか?


 試してみるか。


「ウグォアアアァ!!!!」


 思考している間に、最後のゴブリンを吸収し終わり、トロールは最後の回復を完了していた。


「最後の実験だ、存分に付き合ってもらうぞ」


 右手に打刀、左手に脇差|(少し短い刀)を構え、一足で距離を詰める。

 迎え撃つトロールはその右腕を振りかぶるが、鈍すぎる。

 振り下ろされる腕の軌道から外れるようにステップを踏み、トロールの左脇腹をすり抜けざま、回転の動きで右、左と2本の刀を振るう。

 だが、そこで止まっては『一振り』となってしまうため、振るったままの勢いを殺さず、回転の動きを保ったまま下から上へ斬り上げ、さらにその反動を使い振り下ろす。

 まるで舞を舞うかのような動きで、6連撃が決まり、脇腹、太もも、肩、肘と、全ての傷から血が吹き出す。


 消費SPを見ると、『5』と一振り分。

 よし、俺の仮説は間違っていなかったようだ。

 ならば、どこまでも一振りを舞ってやろう。

 ……しかし、幼少期に習った日舞の動きがこんな所で役に立つ日が来るとはな……


 再度二刀を構えつつトロールを見ると、先程の傷の治りが遅い。

 電池ゴブリンはもう使い切っているし、自前の体力も底を尽きかけているのだろう。

 こちらの体力もそろそろ限界が見えているがな。

 もう1匹電池ゴブリンが残ってでもいたら危なかった。


 最初の動きの半分にも満たないトロさで近づいてくるトロールを見ながら、どう動くかを考える。

 狙うなら、先程の傷が治りきっていない、左!


 まずは足!

 左膝のうらを横薙ぎに二刀で切り裂き片膝をつかせる。

 次に腕!

 勢いのまま回転し、逆薙ぎに左腕の肘から先を斬り落とす。


ズドゥゥゥン!!


 支える腕がなくなったことにより、頭から地面に突っ伏すトロール。

 この長い戦いの中、幾度となく狙い、そのたびに届かなかった首が無防備にさらされる。


 振り上げた刀を止めることなく、その巨体を蹴り飛び上がる。

 横回転による勢いと、高さによる落下エネルギーを足した斬撃を首めがけて振り下ろす。

「ちっ、浅い!」

 だが、思ったよりも勢いがつきすぎてしまい、せっかくのチャンスを無駄にしてしまった。


 いや、まだだ。

 円の動きを維持しろ!

 足を止めるな!


 残った右腕で立ち上がろうとする所を斬る。

 肩を斬り裂く。

 誰も観客のいない舞台で、舞い続ける。


 そして。

 動かなくなったトロールの首を一刀両断に切り落とした。

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