第11話 先人が苦戦するわけだ
※前回の『刃』及び『カタナ』スキルについての設定を少し変更しました。
『カタナ』の消費SP3へ。
両スキルの、SP消費タイミングを、一振りごと、に。
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さて。
過去色々な『武道』は嗜んできたため、幾度となく『試合』は行ってきたものの、『実戦』は初めてだ。
その上、若干減らしたとはいえ、おおよそ30に対してこちらは1(泣きわめいていた護衛クンは当てにならないだろうし)。
強力な魔物ではないとはいえ、デビュー戦が多対1とは。
なるほど、49人の先人が苦戦するわけだ。
そういえば、我が親友が見ていたアニメだかで、ゴブリンというのは1匹1匹はそこまで強くないものの、その狡猾な性格による動きと常に集団で襲ってくるという習性により、戦い方を間違えるとベテランであっても足元を掬われかねない、と言っていた、らしい。
当時は、『ベテラン冒険者』と言われても実感がわかない、と答えたものだが。
実際こいつらがどれほどのものかはわからないが、気を引き締めてかかろう。
「キシャァアアアアアア!!!!」
などと考えている間にも、ゴブリンどもが迫ってきていた。
多対1で戦う場合に最も気をつけなければいけないことは、囲まれないこと。
人間の目は前しか見えないからな、前方以外を気にしなければいけない戦い方ではどうしても隙を生んでしまう。
その上で、できるだけ1対1となるような立ち回りを意識する。
30対1、ではなく、1対1を30回、にするのだ。
逆にいえば、集団側はできるだけそれが2~3人であれ多対1の状況を作り出すことを意識する……はず。
この世界のゴブリンが、地球のファンタジーに出てくる狡猾さを持っているほどの知能があれば、だが。
「ふんっ!」
先頭を突っ切ってきた一匹の頭に3球目の石がクリーンヒットする。
自身の勢いと合わせて、回転しながら吹っ飛んでいき、後ろから来ていた別の個体と衝突。
さすがに直撃したヤツ以外は即死とはいかなかったようだが、ある程度のダメージは与えられたようだ。
だが、そんな状況はお構いなしに、倒れた仲間を乗り越え踏みつけ次々とこちらへ向かってくるゴブリンども。
4球目、5球目と続けてヘッドショットを決めたものの(我ながらコントロールよすぎて怖くなるレベルだ)、そろそろ投石には向かないほどの距離となってきた。
肩を温める前にな全力投球(石)し続けるのも、あまりよくなさそうだしな。
それに、せっかく『刀の錆にしてやる』なんて名乗りを上げたんだ。
こちらの実戦も経験しておこう。
「キシャァアアアアアア!!!」
投石をかいくぐり、倒れる仲間を踏みつけ1等賞で駆け込んできた個体が、ついに刀の届く範囲まで到達する。
乱ぐい歯が並ぶ口を大きくあけ、よだれを垂らしながら得物である曲刀を振りかぶり飛びかかってくる。
どうやら、狡猾で賢い、というのはただのファンタジーだったようだな。
そんな風に飛び上がったら、避けられないだろう?
「シッ!」
気合と共に息を吐き、ゴブリンの刀の軌道からわずかにずらした位置へ右足を踏み込む。
それに合わせて、上段に振りかぶったアダマンタイト製の刀を振り下ろす。
元々持っていた剣道の経験を元に、刀スキルによる微修正を経て無駄のない軌道を描く刀。
僅かな手応えと共に、両断の元に斬って伏せる。
「はっ!!」
続いて飛びかかってきたゴブリンを、今度は横薙ぎに一閃。
真っ二つになって転がっていく。
うむ、見事な切れ味だ。
SFなどで見かける単分子ブレードほどではないにしろ、極限まで切れ味を追求して作っただけはある。
しかも、これだけ鋭く薄くしたにも関わらず、刃こぼれ一つしないのはすごいな(試しに岩を斬ってみたが問題なかった)。
さすがは世界最高硬度のアダマンタイト製だ。
……お?
さすがに、10匹ほど減らされて足が鈍ったか。
バカみたいに突っ込んで来なくなった。
いや、違うな。
あいつだ、あの一番後ろの一回り大きいやつのせいだ。
おそらくリーダーだろう(ゴブリンリーダーと命名しよう)、ギィギィと不快な声で指示のようなものを出している。
と、なると、先程の突っ込んできてたのは功を焦る新入り、と言ったところか?
あまりにも弱すぎたからな。
少しぐらい歯ごたえがあるといいのだが。
ジリジリと距離を詰めるゴブリン軍団に、刀を正眼に構えたまま囲まれないように距離を取る。
「ギェア!!」
膠着状態を打ち破ったのは、ゴブリンリーダーの合図だった。
2匹が集団から左右に分かれて飛び出す。
比較的小柄のゴブリンがさらに体勢を低くして左下から、もう一匹が曲刀より少し大きな剣を振りかぶり右上から。
上下に挟み込むように攻撃を仕掛けてくる。
ふむ、少しは考えたようだが全然ダメだな。
せっかくの立体的な挟撃だというのに、一直線すぎる。
その上、攻撃のタイミングまでバッチリ同じ。
確かに、逃げ場がないほどに数がいればそれもいいだろうが、2匹しかいないのであれば――
ガイィィン!!
スッと後ろへ下がるだけで、ほれこの通り同士討ちの完成。
もつれ合って倒れる2匹を一刀のもとに切り捨てる。
やれやれ、もう少し楽しませてくれると思っていたんだが。
どう考えても数の有利があるのだから、勢いで押す以外の手はないというのに。
何故かゴブリンリーダーは2匹ずつの攻撃を続けさせている。
これは、誘っているのか?
いくら雑魚だとは言え、その集団の中に突っ込んでいくような愚かな真似はしないぞ?
それとも別に何か狙いが――
ズゥゥゥゥン!!!!
……は、はは。
なるほど、こういうことか。
突如鳴り響いた地響きに振り返ると、そこには巨大な魔物が立っていた。
「ウゴァアアアアアアア!!!!!」
ぶよぶよとした腹に、ぬめったテカリ方をしている気味の悪い肌。
手には金属製の棍棒を持つこいつは、確かトロールとかいったか。
どういう原理で突然湧いたのかはわからないが、ゴブリンどもの不可解な動きは、時間稼ぎだったようだ。
どうやら、思っていたよりも厄介な状況になったことだけは間違いないな。
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