第2章 異世界で最初に出会った奴隷が無条件に忠誠を誓うとか、裏があるとしか思えない

第9話 まるでサムライだな

 さて。

 後悔したところで始まらない。

 今更やっぱなし、なんてできないんだ。

 切り替えよう。


 まずは、スキルの試し打ちだ。

 あの痴女女神が言うことを信じるならば、この辺には弱めの魔物ばかりだというが。

 ざっと周りを見渡しても無駄に広い草原が目に入るだけで、それらしき影はない。

 不意打ちされなくてよさそうではあるものの、試す相手がいないのも困りものだ。

 まぁいい。

 なんにせよ、できることからやっていくか。


 まずは説明書を見ておこう。

 普段、家電を使うときなんかは殆ど見ないんだが、今回ばっかりはそうもいかない。

 『魔王の強さ』を知らされていなかったように、重要なことが隠されている可能性が高い。



「ふぅ……やはりか、あの痴女め……」

 説明書を読み終わったが……予想通り大事なことを説明してやがらなかった。

 特にやばかったのが2つ。


・スキルの効果は文字数と内容によって決まるが『予期しない効果が出ることがある』

・作ったスキルを使用するには『SPスキルポイント』を消費する。

 減った『SPスキルポイント』は時間とともに回復し(現在は1SP/分回復)、その上限は何かしらのスキルを使うごとに僅かに上昇していく。


 つまり、緊急時に慌てて作ったスキルが『予定通りに作動しない』場合があり、しかも、SPとやらが尽きていたり、そもそも使うのに必要なSPに対して俺のSP上限が足りなかったりした場合は使えない、ということだ。


 あほか!!!

 思わず叫んでしまいそうになった……。


 ……確かに『0からのスキル作成』は脳への負荷が強すぎる。

 あの時に体験させられたアレは、思い出すだけで頭痛がしてくるくらいだ。

 だから、文字数とスキル名を元に『神の裁量』によって自動調整される、ということなのだろう。


 理屈はわかる。

 わかるが、これは一番最初に説明してほしかった。

 まぁ、あの駄女神が、使う時に何が困るかなんてことに考えが及ぶとも思えないしな……。


 そうなると、ある程度のことは予測して予め作ってみなければダメってことか……。

 それに『SP』も厄介だ。

 何かしらスキルを使えば上限が上がっていくというし、常時繰り返し発動型のスキルを作って垂れ流していくしかないな……。

 やれやれだ。


 それともう一つ。

 説明書に記載のあったアレを試してみなければ。


「スキルリストオープン!」

 右手を前に出し、口にする。

 すると、目の前に半透明のウィンドウ(のようなもの)が開く。

 そこにはさっき作ったスキルと、これまで作った(実際に作ったのは痴女女神だが)スキルが一覧となって表示されていた。

 スキルの一覧の方は、解体バラしたスキルは若干色が薄くなってはいるので、何がアクティブなのかわかるのはいいな。

 名前の横には熟練度を示す数字と消費SPも書いてあった。

 さらに、スキルの名前に指で触れると、どういう効果かの説明が出てくる……らしい。

 試しに『テレグノーシス』の名前に触れてみる。

 わずかに何かが触れる感触がある。

 ホログラムのようなものかと思ったら、実体があるのか。


スキル『テレグノーシス』 熟練度0.2 基本消費SP10

:遠くの情景を見聞きすることができるスキル。

 使用SP、熟練度によって距離×時間の値が上昇する。


 なるほど、こんな風に見えるのか。

 あの時はあまりの衝撃ですぐに切ってしまったが、そうでなくてもあれだけ遠いと短時間しか見られなかった、ってことか。


 左上のこの数字はおそらく俺のSP上限と現在のSP残量だろう。

 112/119、か……。

 多いのか少ないのかいまいちわからんな。

 そもそも、この119が最初からなのか、少しとはいえスキルを使ったために伸びたのかすらわからない。

 まぁいい。

 それも含めて実験だ。


 っと、その前に。


 スキル破壊ディストラクション:『テレグノーシス』『日本語吹き替え』


パリィン


 軽く何かが割れるような音がする。

 と、同時に、自分の中にあった『何か』がふっと抜けていくような感覚があった。

 なるほど、創造クリエイトのときといい、わかりやすいな。


 では今度こそ、実験開始だ!



 まずは気になっていたものから始めよう。


 スキルクリエイト:『死』


 もし、俺の当初の想定通りであれば、一文字でありながらそれなりに強力なスキルになる可能性があった。

 というか、下手すればこれによって魔王を殺して、サクッと終わらせられるんじゃないか? なんて淡い期待がなかったとも言えない。

 ……だが、実際にどういった効果になるかは『神の裁量』次第だ、とわかってしまったからな。

 儚い夢と散るだろう。


 スキルリストを開いて、説明を見る。


スキル『死』 熟練度:0 基本消費SP:100000000

:対象の相手に死を与えることができる。

 ただし、場所、時間、方法の指定はできない(指定するためには、より多くのSPが必要となる)。


「…………あほか!!!!!」

 いや、違う、アホは俺だ……。

 ある意味予想通りではあるのだが、あまりにも内容がバカバカしすぎてつい叫んでしまった。

 これ、回りくどく書いてあるが、結局は『いつかどこかで死ぬ』ってだけだよな……そりゃ、誰しもいつかどこかで死ぬだろ……。

 それだけなのに消費SP1億とか……。

 チートスキルのくせにズルができないとは、なかなか皮肉が効いている。


 となると、『無敵』や『不死』なんかもダメだろうな。

 まぁそこまでの期待はしていなかったので、問題はないが。


 よし、次だ次。


 スキルクリエイト: 『全ての攻撃によるダメージをカット』


スキル『全ての攻撃によるダメージをカット』 熟練度0 基本消費SP1000

:敵味方問わず、全ての攻撃によるダメージが一定の割合で減少する

 消費SP量が多くなるほど、カット率が上がる。

 デフォルトは10%


 おお、少しは現実味が出てきたな。

 とはいえ1000は結構な数値だ。

 文字数を増やしはしたが、汎用性が高すぎたり強力すぎたりすると消費SPは増えてしまうようだな。

 とはいえ、『カット』の部分を『全カット』にしてみたら消費SPが10000と一桁上がったし(つまり、10%ごとに1000必要ということか)、これでも少ない方なのだろう。


 ならば、これはどうだ?

 作ったスキルを手早く解体バラして、文字を確保。

 再び、文字数を多く使い、内容をさらに限定させたスキルを作成。


 スキルクリエイト:『魔王からのダメージが一度だけゼロになる』


スキル『魔王からのダメージが一度だけゼロになる』 熟練度0 基本消費SP500

:魔王と呼ばれる存在より受けるダメージが一度だけ0になる。

 使用後、10分を経過の後、再度使用可能(消費SP量による短縮は起こらない)。


 おお!

 ここまで限定すれば、500でいけるのか。

 熟練度さえ上げれば、消費SPも減っていくっていうし……って、このスキルを熟練度が上がるほどに使い込むのは無理だな。

 10分に1回魔王から攻撃を受けつつ逃げ回るとか、一体どんな罰ゲームだ……。


 消費SPという概念が出てきてどうしようかと思ったが、なんとなくルールが見えてきたな。


 ならば。

 次の実験使うため、魔法の鞄マジックバッグより『菊一文字則宗を』取り出す。

 痴女女神が使っていた、アレだ。


 魔法の鞄マジックバッグに追加したレアリティ収集機能により|勝手に・・・入っていたのだ。

 『女神の贈り物』は一つだけ、と限定されていたが、これは贈られたわけではないからそれに抵触しない。

 ルールの抜け穴というやつだ。

 追加機能を何にするかの話し合いの中で、問題ないだろうことは確認していたし、すでにこちらへ持ってこれている時点で大丈夫だろう。


 それにしても、本当に見事な拵えだ。

 どっかの博物館で騒ぎになっていなければいいが……。

 転移した身としては知ったことではないが。


 さて、刀を眺めていても始まらない。

 『刃』『カタナ』の違い、そして『日本刀』や『菊一文字則宗』といった派生スキルも作って試してみよう。

 百聞は一見にしかず、と言うが、その一見ですら一度の体験には敵わないのだ。

 ついでに、熟練度の上がり具合なんかも見てみたい。



「ふぅ、こんなもんか」

 あれから、2時間くらいか。

 ひたすら周囲の草を刈りながら菊一文字則宗を使ってスキルの試し斬りを繰り返した。


 結果は想定以上。

 ここまで違うものか、とびっくりするほどだった。

 元の世界で剣道を習っていたとはいえ、真剣を扱うのは初めてだ。

 『刃』では重さに振り回されていたのに、『カタナ』にした途端安定した。

 一番驚いたのは『菊一文字則宗』だ。

 世界に一振りしかない武器の名称をスキルに使用したこと、文字数もそれなりにあること、のダブルの効果でまるで達人になったかのような気分だった。

 揺れる草を縦に半分に斬れた時には変な笑いしか出なかったよ。


 また、『カタナ』スキルを作る際、文字かぶりがないから、と『刃』スキルを残したままにしていたことで面白い発見もあった。

 消費文字数が増えてしまうから、2つ作る意味はない、と思ったのだがそうでもなさそうだ。

 熟練度に影響するのだ。

 上位スキル(『カタナ』)があることで、下位スキル(『刃』)の熟練度が上がりやすかったのだ。

 考えてみれば当たり前のことだ。

 『カタナ』への理解度が高い状態で『刃』を振るっているのだから。

 これをうまく使えば、文字数の少ない下位スキルの熟練度を効率よくあげることができるわけだ。


 よし、大体の方針が決まりそうだな。

 ひとまずは、『刃』と『カタナ』のスキルを作って、『刃』スキルの熟練度を上げていくのでいいだろう。

 ある程度上がれば、他の武器に持ち替えるなり、カタナスキルを解体するなりしたらいい。


 っと、そうだ。

 その前に一つやらなければいけないことがある。


 スキルクリエイト:『アダマンタイトを武具に加工する』


 菊一文字則宗と同様に魔法の鞄マジックバッグ勝手に・・・入っていた斬られた柱アダマンタイトを取り出す。

 弱い魔物しかいないとは言え、何が出てくるかわからないからな。

 ダイヤモンドより硬いというアダマンタイトの防具はあって損はない。

 武器が菊一文字則宗しかないのも、いざという時に心許ないし。

 というか、国宝をブンブン振り回すのは気が引ける……。


 消費SPは……1回あたり100か。

 実験の結果MAXSPは120に上がったので、ある程度の時間があれば一通り作れるだろう。


 ひとまず、篭手、胸と腹を覆う上鎧、腰回りを守る腰当、脛を守る具足があればいいか。

 あまりごてごてせず、ポイントをしっかり守り、かつ動きを妨げない、ことを意識しつつ……。

 武器は、打刀かな。

 予備も含め三振りあれば十分だろう。

 さらに、少し短めの脇差や短刀などいくつかバリエーションも作っておいたほうがいいな。

 ファンタジー世界だし、両刃の剣でも作ろうかと思ったのだが、剣道をやっていた(やらされていた)こともあり刀にする。

 これなら、菊一文字則宗を使うときにも『カタナ』スキル一つでカバーできるしな。

 しかし、日本の甲冑がイメージなせいで、これ完成した姿はまるでサムライだな。


 その他にも、追加でいくつか作り足し、アダマンタイトを使い切ってしまおう。

 いかんせん使用文字数が多すぎて、すぐに解体せざるを得ないからだ。

 本当は少し残しておいて、今後何かあった際に加工できればよかったんだがな。

 仕方がない。

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