第8話 確かに俺は聞かなかった

「う……うぅん……」

 くそ、あの痴女女神め……絶対他にも方法あったぞ、あれ。


 起き上がり周りを見渡すと、どうやらここはやたら広い草原のど真ん中のようだ。

 俺のいた日本ではここまで広い草原なんて見たこともない。

 北海道にでも行けばあるのかもしれんが、あいにく俺は関東から出たことがない。

 

 少し目を凝らすと道らしきものがあるが、背の高い木があるわけでもなくまさに吹きっさらしといった感じだ。

 遠くに山が見えるのは……なんだか馴染みのある風景だ。

 

「ん?」

 『山』の奥に、なにやら不思議な影が。

 どんだけ遠くなのかはわからんが、少なくともある程度の大きさがないと山の向こう側にあるものが見えるわけがない。

 常識で考えれば、もっと大きな山ってところか。

 今……動いたか?

 なわけないか、空気の揺らぎかなんかだろう。

 ……いや、動いてるな。

 なんだ? 一体何があるんだ?


カッ!!!


「うお!?」

 急な閃光に目が眩む。

 正体を探ろうとじっと見ていたので、思いっきり不意打ちをくらってしまった。


 しばらく視界が真っ白だったが、徐々に戻ってくる。

 引き続き注意しながら見ていると、さっきほどの閃光は珍しいにしてもたまに光っているのが確認できた。

 うーん、しかし遠すぎてさっぱりだな。


ッッッッッッッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!


「んのぁわ!」

 なんだなんだ、今度は爆音だと!?

 どこから来た!?


 いや……ちょっと待て。

 もしかして、さっきの『閃光』と今の『爆音』は同じモノか……??

 だとすると……。

 音が来たのが体感だが光ってから十分後くらい、とすると、音速が340km/hだから……200kmくらい離れているってことか!?

 そんだけ離れても見える大きさ……!?

 待て待て、富士山レベルじゃねーか!!


 ああくそ、何がどうなってるのか見えないのはもどかしいな。

 って、そうだよ。

 スキルを作ってみればいいんだ。

 すぐに解体バラすとして、とりあえず遠くまで見通せるもの……『せりが(千里眼)』は『ん』が被るな。

 『えんし(遠視)』はいけるが――だめか、これでは200km先までは見れない。

 意外と難しいな。

 うーむ。


 あ、英語だとどうだ?

 千里眼は英語で……telegnosisテレグノーシスだから……カタカナならいけるか。

 多少発音が違ってもいいだろ。

 アルファベットが使えればもう少し便利だったんだが、贅沢も言ってられん。

 よし!


 言葉遊びワードパズル発動

 スキル創造クリエイトテレグノーシス千里眼


カチッ


 小さな音とともに、自分の中で『何か』が生まれたような、バラバラだった2つのピースがはまったような、そんな不思議な感覚が生まれる。

 これで、スキルができた、って感覚なのか。


 テレグノーシス発動、目標は……山の向こう!



「$%&‘」POLKIUJ%$#”)(!」

「=(IOPLKJNM<MNFRT&’(」

「%&UJM<O(‘YGFV<>?)OLJH!!!!」



 おお、見える。

 しかも、音声付きか。

 中々気の利いたスキルじゃないか。

 何を言っているのか全くわからないが……。


 しかし、今見た光景は、なんなんだ。

 地獄というのも生ぬるい、そんな光景。

 1体の巨大な生き物(と言っていいのか怪しいが)による、蹂躙。

 巨大な武器を構えた戦士による近接攻撃や、弓や魔法などの遠距離攻撃、あきらかに攻城兵器であろうドでかい大砲や破城槌のようなものまで、ありとあらゆる攻撃がなされ、そのほとんどがその生物に傷一つ負わせることができていない。

 稀に、かすり傷程度のダメージを与えることができているようだが、あっという間に回復しているようだった。


 と、なると、やはり会話内容が知りたいな。

 くそ、駄女神め。

 言葉くらい通じるようにしておいてくれよ。

 コミュニケーションが取れなければ何もできないではないか。

 何かしらスキルを考えないといけないな。


 だが、今はまずアレだ。

 どうするかな、できるだけ状況が伝わるようにしたいから……『翻訳』では弱いな……ふむ。


 言葉遊びワードパズル発動。

 スキル創造クリエイト:日本語吹き替え


『文字数が多く、状況が限定的であるほどスキル効果は高い』


 と言っていたからな。

 これならいいだろう。

 ……棒読み声優の吹き替え、ってことはない、よな?



「くそっ、第3部隊がやられた。

 無事な魔導師はいるか!? こっち回復を頼む!」

「バカ言え!!

 さっきの複合巨大魔法で魔導師は全員魔力切れだ!」

「なっ!

 回復要員すら残してなかったってのか!」

「そんな余裕がどこにある!!!

 周り見てみろ、1撃でもくらったら即死だぞ!?

 回復に回す戦力があったら、少しでも『ヤツ』を削った方がよっぽどいい!!」

「お、おおおおのれええええええ!!!!

 魔王め、ゆるさんぞおおおお!!!!!!!!!!」



 おお、すげぇ……。

 ものすごく金のかかった映画を見ているかのようだ。

 現実だが……。


 ……というか、最後に聞こえた声。

 俺の聞き間違えでなければ、あの巨大生物のことを『魔王』って呼んでなかったか?

 どういうことだ、『魔王』って、あの痴女女神が言っていた、あの『魔王』か!?

 『アレ』を、俺が倒すのか!?


 冗談じゃない!!!

 何だアレは!!

 ちょっとチートスキルを持った程度の人間がどうこうできる類のものじゃないだろう!?


 懐から女神専用ケータイを取り出し電話をかける。

 文句の一つも言ってやらねば気が済まない!


「は~い、こちらアリューシャ……あん、ちょっと、待って、今電話だから……もうあとで、ね?」

「おいこら痴女女神、昼間からサカってんじゃねーよ!」

「お、アキテルじゃない、無事着いた?

 なに? 着いてそうそう電話なんて、そんなに寂しかった? ん?」

「『ん?』じゃねーよ!!

 なんなんだよあれ! 

 『魔王』ったってな、あんな巨大なの、よっぽど雷と戦えと言われるほうがマシなレベルだぞ!?

 人間がどうにかできるような代物じゃねーだろ!!!!」

「巨大……??

 おかしいわね、魔王はそんなに大きくなかったはずだけど……。

 写メ送ってくれる?」

「は? サメ??

 何言ってんだお前、今はサメかんけーねーだろ」

「あー……今写メって言わないのかー。

 まぁいいわ、あんたが見たものを勝手に見させてもらうから」

 途端、手に持ったケータイが熱くなる。

 耳からなにかが中に入ってくる感覚がどうにも気持ち悪い。

「なるほど、これか……。

 あのね、これ……魔王の部下よ」

「……は?」

「確か、四天王の1人だったはず。

 名前はなんて言ったかな……忘れちゃったけど」


「いやいやいやいやいやいやいやいや。

 まてまてまてまてまてまてまてまて。

 あれで!? 魔王の部下!?

 てことは、魔王はアレ以上か!?」

「詳しくはわからないけど、四天王がまとめてかかっても倒せないとかなんとか言ってたかなぁ」

「……おい、今すぐ俺を元の世界に戻せ!

 こんなん契約違反だろ! やってられっか!!!」

「もう、アキテルったら何いってんの?

 契約書に『魔王の強さ』なんて項目ないじゃない?

 あなたが書き直した契約書、よく見てみなさい?」


 ……ハメられた!!!

 ああそうだ、確かに俺は聞かなかった。

 何らかの理由で神の介入ができないために人間を強化して送り込む、つまり、強化した人間であればなんとか倒せるはずの魔王である、と勝手に思い込んでいたのだ。

 なんてことだ!!

 あれだけ警戒していたというのに、『言っていないこと』の中にこんな隠し玉があるとは!!!

「ああでも、あんたが今いる場所は大丈夫よ?

 それなりに魔物も出るけど、その辺の村人でも十分に対処できるレベルのものばっかりよ。

 スキルの実験がてら討伐してみたらいいわ」

「……本当だろうな?」

「もちろん。

 忘れたの? 失敗したら私は掃除係、あなたは死ぬ。

 お互い危ない賭けはしたくないじゃない?

「確かに、そうだな……。

 疑って悪かったな」

「いいのよ。

 一部、凶悪でレベルの高いヤツがいるから、普通にしてたら出会うことはないと思うけど念の為気をつけて。

 そんなわけで、大変だと思うけどヨロシクね!」

「おう、ありがとな」


プッ


 ……じゃ、ねええええええええ!!

 この辺が比較的安全、ってのは本当としても、魔王がとんでもなくヤバイってのは変わりないじゃねーか。

 っても、契約の時点で気づかなかった俺の負けか……ああくそ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

作成済スキル

『テレグノーシス』:遠くの情景を見聞きすることができるスキル

『日本語吹き替え』:知らない言語での会話も、プロの声優が吹き替えした映画のように臨場感を持って理解することができるスキル


ゃ ぱばだざが✕✕らやまはなたさ✕あ

ゅ ぴびぢじぎ  り みひ✕ち✕✕い

ょ ぷぶづず✕  るゆむ✕ぬつ✕くう

っ ぺべでぜげ  ✕ めへね✕せけ✕

✕ ぽぼどぞ✕ をろよも✕✕とそこお

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