第4話 条件が良すぎるだろう
「お話をさせていただいても?」
「嘘偽りはナシでお願いするよ」
「元々ないですよ、そんなの……」
そう言われてもな。
はっきり言って胡散臭さしかないものをどうしろというのだ。
「とりあえず、座りましょうか」
パチンッ
指を鳴らすと、何もない空間に椅子とテーブルが現れる。
それと同時に、地面からヌッと出てきた人影がお茶らしきものを入れてくれる。
『人影』というのはまさにそのままの意味で、『影』としか表現のしようのないものだった。
全身真っ黒で目の前にいるのに個体としての認識が出来ない。
なんとも不思議な……あ、しかもお茶を淹れた直後に消えた。
「これで、少しは信じてもらえますか?」
「とりあえずただの痴女じゃないことは信じよう」
「ち、痴女じゃないですっ……!!!」
パチンッ!
再び彼女が指を鳴らすと、今までの露出が嘘のように、全身を覆う白を基調とした……うん? うん……その、なんだ。
確かに、露出はなくなった。
全体的に過剰な装飾はなく、質感や細かい刺繍はなかなかに高級そうな雰囲気を感じる。
……んだが、やたらとピッチリとしたチャイナドレスのような衣装はどうなんだ?
うわ!スリット深っ!
腰を通り越して脇の下くらいまでないか?
はだけないように粗い網目状に紐で繋がれてはいるが、肉に食い込む感じが余計にエロさを際立たせている。
体のラインなんてまるわかりだし……あ、これ、上下とも下着着けてないパティーンですか?
なんの引っ掛かりもないラインが、どう考えてもさっきの半裸より遥かに痴女だ……。
「改めまして。
わたくし、め! が! み! のアルーシャと申します。
決して! 全くもって! 痴女じゃありません!!!」
「お、おう」
その格好で言われてもかけらも説得力がないが……。
話が進みそうもないので、これ以上はやめておこう。
「で!
私の方としてはさっき言った通り。
滅びに瀕した世界へ行って魔王を倒して頂きたい、それだけです。
了解いただけるのであればそのための力を一つ差し上げます。
報酬は死なずに済むこと。
魔王を討伐した後は特に何も要求しません。
それでいいですか?」
魔王とやらがどれだけ強いのかわからないし、それによっては命がけではあるんだろうが、言ってすでに1回死んでるようなものだ。
死なないで済む報酬として危険な任務に当たる……妥当と言えば妥当なのかもしれないが……。
うーん、逆に言えば条件が|良すぎる«・・・・»だろう。
「魔王の討伐は1回でいいのか?
『50年ぶり』というからには、以前にも誰かが討伐したはずのものが復活したんだろうし、下手すると未来でまた復活する可能性があるんだよな?
それを毎回倒せ、とかいうんじゃないよな?」
「ありませんっ!
1回だけです。
もちろん、万が一復活した際に手伝ってくれる分にはありがたいですが……」
「手伝わなくてもいい、だな。
あとは……『倒した後はお前が魔王だ』なんてことにならないよな?
終わったら自由にのんびり暮らしていいんだよな?」
「ほんっと疑り深いですね。
女神の名に誓って保証します。
なんだったら契約書でもなんでも書きますよぅ」
「ふむ……折角だから書いてもらうか」
「……えっ!? ほんとに書くんですか?!」
「ん? なんだ?
やっぱりまずいのか?
口約束だけで適当に反故にしようってハラか?」
「ちがいますうぅ!!
いいですよわかりましたよ、書けばいいんでしょう書けば!」
なぜそんな怒るんだ?
自分が書くといったんだろうに、まったく。
5分くらい待ったろうか。
何もない白い広い空間に、ペンを走らせる音だけが響く。
「はいっ、コレで満足でしょ!?」
■◆■
汝、
★甲は、魔王復活により滅亡に瀕した異世界:スクレイチアにおける一度の魔王討伐を行う。
責務を果たすにあたり、甲及び乙は以下の条件に従うものとする。
・乙は、甲の魔王討伐のために、甲に神の力を一つ授ける。討伐の成否に関わらず、乙は甲に力の返却は求めず力の消滅も起こらない。
・甲は、一度の魔王討伐を果たした後であれば、乙の干渉を受けることなく神の名の下に自由を保証する。二度目の魔王討伐義務は発生しない。
・遂行にあたり、いかなる不具合(生死を問わない)を被ったとしても乙は甲に対して一切の責任を負わないものとする。
■◆■
「
救ったあとはお好きにどうぞ、危険な任務だから万が一死んでも自己責任な、って書いてあるな。」
「そりゃそうでしょうよ、そう書いたんですから」
「……わかった、ここまで書いてあるなら仕方ないので信用しないでもない」
「……まだ言うか、この男は……」
意外と口が悪いぞ、この女神。
「ちなみに」
「これ以上何が望みよ!?」
「いや、そんな怒るな、悪かったから……」
涙目で怒鳴られてしまった。
「単純な疑問として、その
「極力希望を聞く事になっているわ。
今の気分としてはダーツかなんかで決めたい所だけど」
ダーツって……たわしを召喚する能力とかになったらやだなぁ……。
せめてパジェ○くらいは引きたいものだ。
「そんな『たわし召喚能力』をゲットしそうなシステムは勘弁してくれ。
じゃあ悪いんだが、その一言も足していいか?」
「もう好きにして」
そういって羽ペンを渡してくる。
「いいのか?
好き勝手に書くかもしれんぞ?」
「この期に及んであんたはそんなことしないでしょ?」
「ご明察」
ふむ、観察眼は確かなようだ。
■◆■
・乙は、甲の魔王討伐のために、甲に神の力を一つ授ける。討伐の成否に関わらず乙は甲に力の返却は求めない。
↓
・乙は、甲の魔王討伐のために、甲に【甲の望む】神の力を一つ授ける。討伐の成否に関わらず乙は甲に力の返却は求めない。
■◆■
書き加えたのは【】の部分。
……うん、いや、うん、あれ?
「これでサインをしたら契約成立、でいいんだな?」
「ま、普通こんなの作らないんだけどね」
「なんだ、やっぱりこんな条件では契約できないか?」
「はぁ……。
これであなたが満足して魔王討伐に向かってくれるならお安い御用よ」
え? 本当にこの内容で契約が成立……??
ここまでやれば絶対何を企んでるかわかると思ったんだが……。
どうなってるんだ? 何か見落としたか?
…………それともまさか、本当に裏がないのか!?
そんなばかな!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます