第6話 ドライアドは山崎颯太の逆鱗に触れたらしい。

「まじかよ……」


俺、山崎颯太は今、困惑していた。


「先日ご紹介に預かりました、改めまして、ドライアドのセフィです。よろしくお願いしますね」


そう言ってセフィさんが微笑むと、クラス中の男子だけでなく女子も立ち上がって歓声を送った。


まさか、噂の留学生がうちのクラスに来るとは。


隣の祐介を見ると鼻の下を伸ばしてフンスフンス、と鼻息を荒げてる。見なかったことにしよう。


とは言え、こちらから積極的に関わるつもりもないので大丈夫だろう。俺はシェアナ一筋だし、シェアナの為なら喜んで世界とでも戦う所存だ。


「それじゃあ、セフィさんの席は……」


担任がそう言って席を決めようとした時だった。


「あそこがいいです」


そう言って一つの席を指差す。


そう、祐介の席を。


「ゑっ?」


祐介が突拍子のない声をあげた。

あわよくば隣の席でも期待していたのだろう。浅はかなやつだ。


かく言う俺もかなり困惑していた。

セフィさんの方を見て目が合うと、セフィさんは意味深な笑みを浮かべる。


「そ、それじゃあ吉村、あっちの席に移動してやってくれ」


担任がそう言う。

なんでも、どの学校にもかかわらず、留学生は色々と優遇されているらしい。


「う、うぃ〜っす……」


祐介の席は窓から二番目の一番後ろの席で、異動先は廊下側の一番前。

目に見えて落ち込んでいるのがわかった。後でジュースでも奢ってやろう。


さて、問題はーーーー。


「よろしくお願いしますね?」


そう言って満面の笑みで俺の隣の席に腰掛けるセフィさんに俺は苦笑いを浮かべた。




***




そんなこんなで一週間が経った。


「え〜、では次の問題を……セフィさん」


「はい」


そう元気よく返事をして黒板にスラスラと数式の回答を書くセフィさんの一挙手一投足に気品のようなものが感じ取られた。


「素晴らしいぃ!」


数学の山下の爺ちゃんが入歯が噴き出す勢いでまくし立てる。


「これも山下先生の教えの賜物ですわ」


そんなセフィさんの言葉に山下は涙を滲ませ、鼻水を啜っていた。


おかしい。


この一週間、いつアプローチをかけてくるのかと俺は感を研ぎ澄ましていたのだが、一向に接触してくる気配がない。

なんなら、最後に話したのは最初の自己紹介の時だけだ。


なんだか、自分がただの自意識過剰野郎な気がしてきた。


「はぁ……」


そうため息をつく。

そして、教壇から席へと戻るセフィと目が合う。


すると、彼女はすれ違う瞬間、俺の机に一枚のメモを落とした。


来た……接触(アプローチ)!


恐る恐るそのメモを開く。



『今日、放課後、二号館405教室』



メモに書かれていたのはそれだけだった。


隣を見ると、セフィさんは不敵な笑みを浮かべるだけだった。




***




悶々としながらも放課後を迎えた。

俺は祐介と由伸に用事があると伝え、掃除終了後すぐに二号館405教室へと向かった。


「ここか……」


目の前の教室の扉には405と表記されている。

校舎には既に西陽が差し込んでおり、放課後独特の雰囲気を醸し出していた。


ごくり、と喉を鳴らしながら俺はゆっくりと教室の戸を開けた。


そこには、窓の外、部活動を見つめるドライアドのセフィさんがいた。


「レディを待たせるなんて感心しませんね」


目は外に向けたまま、セフィさんはそう呟いた。


「掃除当番だったもんで」


「あなた、正直者ですね。高評価です」


ようやく俺の方は振り向き、また不敵な笑みを浮かべた。


「で、何の用? 俺早く帰りたいんですけど」


そう切り出した俺に返されたセフィさんの言葉は俺に衝撃を与えた。


「メドゥーサの魔眼」


「っ!?」


予想外の言葉に、思わず身体中の筋肉が強張った。


「異世界(むこう)では不老不死の秘薬の材料とされていたの」


「…………それがどうかしたのかよ」


恐る恐る聞き返す。

その返答は俺を憤慨させるのに十分だった。


「取ってきてくれないかしら? あなたのところのシェアナちゃんを殺して」


「ふざけろ」


俺は初めて、明確な敵意を彼女に向けた。

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