第2話 メドゥーサちゃんは花見がしたい。

春休み最終日。

俺はシェアナを連れて近くの公園に来ていた。


「わぁぁ……!」


シェアナが辺り一面に咲き誇る桜に感嘆の声をあげた。


俺はその後を追いかけ、手にはお弁当とブルーシートを持っている。


急な予定だったが、シェアナが5時に起こしてくれたおかげもあって昼前には準備が終わった。


「ソータ! こっちこっち!」


手招きしてシェアナが俺を呼ぶ。平日ということもあって花見をしている人はそれほど多くはなかった。


シェアナが選んだ桜の木の木陰で俺はブルーシートを敷き、お弁当を広げる。


「うわぁぁ」


シェアナが目を輝かせ、よだれを垂らす。


俺はつまみ食いをしようとするシェアナの手を軽く小突く。


「ほら、挨拶」


シェアナは口を尖らせながらも、素直に手を合わせる。


「いただきます」


「イタダキマス」


その言葉を発して直ぐにシェアナは弁当をかき込んだ。


ちなみに、弁当の中身は野菜炒めとアジの塩焼きとソーセージ、ほうれん草の胡麻和えにシェアナが好きな甘めの卵焼きと言った冷蔵庫のあり合わせだ。


それでもーーーー。


「んん〜!」


ほっぺたを抑えながら本当に美味しそうに食べてくれるシェアナに頰が緩む。


「もっと落ち着いて食え。ほら、ほうじ茶」


水筒に入れた冷たいほうじ茶をシェアナに渡す。

上を見上げると、枝の間から木漏れ日が差し込み、とても気持ちが良かった。


「ソータ、気持ちいいね!」


俺の袖を引っ張ってそんなことを言うもんだから、俺はついつい幸せな気分になってしまう。


「ほら、米粒ついてんぞ」


そう言って口元についていた米粒を俺はひょい、と拾って自分の口に放り込む。


そして、気づく。


目の前のシェアナの顔がユデダコのように真っ赤になっていた。


「あ…………」


その様子を見た俺も同じように真っ赤になる。


「あ、ありがと……」


「お、おう……」


俺たちの温度を下げるように、春風が吹いた。




***




「よっ!」


「はっ!」


「それっ!」


「てやっ!」


途中気まずくもなった食事の後、俺たちは二人でバドミントンに興じていた。


最初はルールも分からなかったシェアナもどんどん上達していき、胸元に凄まじいスマッシュをしてくるようになって返すのもやっとだ。


「とりゃあっ!」


「ぐっ……!」


シェアナのスマッシュが決まり、雌雄が決する。

10ポイントマッチで10対3。まるで立つ瀬がない。


その後も、キャッチボール、鬼ごっこ、バスケなどいろいろ遊んだ。

そして、気がつくといつのまにか日は西に傾いていた。


「もうこんな時間か。シェアナ! そろそろ帰るか」


「そうね……」


少し名残惜しそうにしながら、シェアナはそう言った。

そんなシェアナの頭をポンポン、と撫でて俺はつぶやいた。


「また、来年来ような」


俺のその言葉にシェアナはたちまち笑顔になり、


「うんっ!」


今日一番の笑顔を浮かべた。

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