神話

 この物語の始めに置かれた伝承は、迦陵頻伽カラヴィンカと羽衣伝説を適宜配合し、子孫と幸をもたらすタイプのアレとして国の統治を根幹付けるシステムに使われた始祖伝説としての異類婚姻譚です。

 本編を書いてる途中でどうしても神話を入れないと話が落ち着かなくなり、途中に置くのがまずい感じだったので元々あった冒頭に代えて頭に置こうと考え、その頃ちょうど発生しつつあった落ち雛レアと、大体こんなかなーと思っていた物語の終結とを考え合わせつつ、ほぼ一発書きしたやつです。


 書きながら急に羽衣伝説が混ざってきたのをよく覚えています。天人が飛べなくなり帰れなくて地上に留まるというのにあれほどちょうどいい話があるでしょうか、いやない。鳥も羽根の切り方によっては飛べなくなります(動物園のフラミンゴとかそういう管理をしていたはずだ。たまに飛んで逃げたのがニュースになる)。粗野な人間はそのくらいのことするんじゃねーの? ひどいよね、天の恐れを知らぬバカ。蛮勇。自己中心的。水晶キランティフィスのバカは宝石国アリヤ発祥時代からの伝統の、そして人間本来のバカです。


 ともかく伝承です。

 当初は、前半の終わりに現れる余りものレアが拾い集めていた絵物語の話として語られる予定でした。

 この伝承を描いた絵をレアは大事にしていたのですが、彼女は字が読めない設定でした。読めない物語を、それでも母親の形見だからと大切に大切にしてきたけれどついにビリビリに千切られてしまい、もうこの物語がどんなだったか知ることは永遠にできない。打ちひしがれたレアがそう言うので、イールが物語を話してやるんです。千切れた絵を元通りにはしてやれないけどこの神話ならよく知ってる、と言って。

 求めていたたった一つの物語をくれた人としてイールは、レアにとっての恩人になる。

 そういうことを考えていたんですけどまず字数の都合で長々とその、神話を物語るシーンがやれないわけです。他にもこなさなきゃならない要素があるし。じゃあダメじゃん。でも神話の内容自体はこの物語にとっては必要だから、一話使って(会話体じゃなく)書くしかないか?

 でも中盤でその神話書き始めてみたら思いのほかダルくてぇー。

 だってその後に悪夢イール落ち雛レアの昔の話も書く予定だったしー。時代の違う昔の話を二つも挟むとなんかこう、何処にいるか分かんなくなりそうな心もとないダレた感じがひどくて。

 とにかくなんかテンポが悪いんですよ。テンポが悪いってことが書き始めるなり分かってしまったんですよ。まじで五文字くらい書いたところで「いやダメだわ」ってなってしまって。

 でもこの伝承パート書かないわけにいかねーんだよこの話で!

 なので割と気に入ってたそれまでの冒頭(毒杯のシーン)をぶっ飛ばして置き換えました。毒杯はどうせ後で出てくるんですし、この字数の厳しいなかでまるで同じパートを反復するのも無駄だろうなと思ったし。何せ私のことだから十中八九字数足りなくなるし。実際危ないとこだった。


 おかげで、冒頭一話と最終十話の両方で「自分の片翼を見つけた」とイールに言わせることによって物語の両端処理もできました。何となくこう、発したところに戻る感触って話の終わりにちょうどいいです。全く同じところに戻ってるのではなく螺旋を描くように昇っているのでしょうけど。そしてまた、戻ったというのではなく、冒頭の言葉が予言として働く形になるのが好きなので。今回、予言を含む祝福の言葉をもたらす物語でもありましたし。


 しかし怖いもんがありましたね。神話ってその社会にとって割と決定的な存在じゃないですか、有効なうちは。ここで大きく下手打つと物語全体が嘘くさくチープになってしまうんじゃないか、と心配はしました。

 しましたが、一発書きでした。バカでごめんね(特に反省していない)。

 なんかこう、調査に思考を重ねて書くって感じでもなくて勢いだった。勢い。ってことでよろしくう! 的な勢いで書き飛ばした側面は否定できない。「翼ある姫に名指しされると王になる」、もうこれだけで押し切ろうと思いました。だってごちゃごちゃディテールつけてもさあ、2万字しか書けないしさあ。大体この企画、短距離走なんだからじっとりやってられないんですよ。はいスタート! って言われたらその時脳内にあるものをガッと掴んで撒き散らすしか道がないんで。だから一切何の調査もしないで急に書きました、全て。

 私は普段、割とダラダラ書いてはエタっちゃう方なんで、こうして近めの締め切りを見せられて急にケツを蹴り飛ばされる経験、貴重です。

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