人外

 好きです。人外が好きです。吸血鬼とか本当に好きです。隙あらばやりたいと思っています。好きだからです。



 今回の元ネタはりょうびんです。

 仏教でいわれる想像上の存在で、半人半鳥。人間の頭に鳥の身体、長い尾を持つ姿で、殻のうちから鳴き出し非常に美しい声をしているとされます。日本の仏教美術では上半身まで人間で描かれることも。


 私が迦陵頻伽という名を知ったのはCLAMPの漫画『聖伝 -RG VEDA-』を読んだ時でした。天空の城で鳥を統べる迦楼羅かるらおうの妹、病弱の歌姫、悲運の迦陵頻伽。

 また、中国の敦煌とんこう莫高窟ばっこうくつの仏教壁画などにも姿が見え、西洋の翼ある超常存在(例えば天使)とはまた違う、東洋圏の翼人として印象深く感じたものです。羽衣の天女に翼が生えて飛んでるみたいな感じ。てんってやつですよね。綺麗。好きです。


 何かの拍子にその迦陵頻伽をサンスクリットで कलविङ्क / Kalaviṅkaカラヴィンカと書くというのを読みまして、綺麗な名前だな、名前だけでもいつか使いたいな、と思っていました。

 やってやったぜ。

 ただ、今回は世界観ががっちりアジアンというわけじゃないので多分敦煌ヴィジュアルではないんですけれども。あまりこう、服飾等文化の方向性をちゃんと定めずに今回は書きましたので。


 そのカラヴィンカ、初めはカタカナのまま書く予定でしたが、カタカナ名詞が色々登場して増えていくとなかなか覚えにくいのと(私が覚えにくいんです)、名前の意味を視覚的に拾える形にした方が今回はうまく行きそうだと思って、固有名詞は全体的に漢字を当ててルビで読ませようと思い、「天唱鳥カラヴィンカ」と字を当てることにしました。

 この時、「天」と「鳥」はすぐ決まったのですが、間に入れる字に迷って、「うたう 漢字 違い」とかでググった記憶があります。歌・唄・謡・謳・詠・吟どれもピンとこなくて、まあ入れるなら「歌」「唄」かなぁと思いましたが、書きたいカラヴィンカは歌をうたうだけではなくてその声にのせて発する言葉が祝福、予言となる性質のものです。なんかちがうくないすか? と辞書上を彷徨さまよった結果、「呪文の詠唱」などにも使われる「唱」で落ち着きました。となえる、と読み下せるのもちょうどいいと思ったので。


 また、種族のカテゴリ表記を仙女とするか神族とするかも迷いました。

 特別な力で予言を贈り物にする仙女というとほら、『眠り姫』の冒頭で誕生祝いに良い予言を贈る仙女たちがいるので伝わりやすさはありそうじゃないですか? 東洋をみても、仙人の女を仙女と言いますし用語としてそんなに無理ではないんですよね。

 でも今回は悪夢イールもカラヴィンカということに(書き進めてかなり終盤で)決まったので、女性に限定される「仙女」表記はなしになり、「神族」表記になりました。ほとんど使いませんでしたが。

 あとから考えると、「天人」でもよかったのかなあ。でも「人」の字が入って人間ぽくなるのは神話とはちょっと手触りが合わないから「神族」でよかったのか。



 悪夢イールですが、赤い髪で人を喰う、これはもう肌が黒くないだけのせつてんみたいなものです。

 そういえば迦陵頻伽の出てきた『聖伝 -RG VEDA-』には夜叉王の腹違いの弟として羅刹も出てきます。容姿は全然違い(髪も墨ツヤベタだったよね)、鎖鎌かなんかの使い手でまずまず強かったはず。広目天こうもくてんの野郎にアレされましたけれどもエモくていい奴でした。まあこの辺は私がCLAMPに育てられたオタクなので仕方がないですね!


 イールの人外要素は大きく四つです。


・引き裂いても死なないあほみたいな再生能力がある。気持ち悪い

・従って老いず死なない

・髪の毛めっちゃ伸びる。気持ち悪い

・地獄のように腹が減る。つらい


 引き裂いても死なないですが引き裂かれるのは痛いです。たぶんかなりものすごく。

 髪の毛めちゃくちゃ伸びるのもまあちょっとしたことでばれると思います。

 どんなに食べてもお腹が空くのもきっととても苦しいことでしょう。

 たったひとり長命であることも、周りの人間がすべて自分と違う速度の時間を生きて老いて死んでいく激流のなかにいるようで辛いこともあるでしょう。

 というように、イールの人外要素はずっとイールを苦しめてきました。死なないことを利用して危険な賞金稼ぎができるとしても、やはり楽しく幸福な人生ではなかったはずです。

 自分は幸福ではないが、他人には幸福を与えるということが有り得るか?

 その要素は、余りものレアに担ってもらいました。自分は痛んでいるのに、たまにほんの少し受け取ったものとはまるで釣り合わないくらいたくさん与えてしまう。生まれつき壊れていてもカラヴィンカの本能があるからですし、決壊しそうなほど「誰か私を見てくれるひと」を求めていたからです。

 もちろんその本能のようなものはイールにもあり、多少なりとレアを助けるまじないを施そうと自然に考えています。

 祝福と予言の声を持つカラヴィンカは、ナチュラルに与えよう与えようとする性質の神族である、というイメージで書きました。


(ただしそれは天上で暮らしていた神族時代のイメージであり、現在は彼らカラヴィンカであっても、誰にでも祝福を手渡すわけではないあたりはに似ています。それは意志のせいでもあるし、彼らが神族としては明らかに畸形だからでもあります。レアは与える声を欠き、ひっきりなしに頭に流し込まれる悪意になけなしの祝福も食い荒らされて涸れ、イールに至っては殺し屋で、与えるどころか奪う方が多い。力の循環が悪い人たち。二人出会うまでは。)

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