呪いと祝い

 呪いと祝いが表裏一体、という話が好きなので。


 これは言ってみれば包丁とかお薬と同じことで、使う人間に殺意があって行動が伴えば包丁は凶器になりますが、お料理意欲だけがあってお料理に使ってる分には便利ですばらしい道具なわけです。

 また、お薬に関しても、いかなるモノも(たとえば水であっても)多過ぎれば毒になる、毒として知られるものでも少な過ぎればまあ何とかなるものもある。ちょうどいい分量域で使ったときだけ利益の勝つ「薬」になるのですよね。


 悪夢イールは自分がまったく呪われた存在だと考えているのですが、そんな中でも自分の髪をお守りのように加工して使うなど、毒のはずの呪いをほどよい処方で利用することはやっています。実際のところ呪いも祝いもそういう性質がある、と分かって現に利用しているのに、生い立ちの記憶が強すぎて、自分は呪われているというところから認識が脱出できていないんですね。あの銀星石広間エストーミカで姉の声を聴くまでは。

 漫画『無限の住人』(沙村広明/アフタヌーンKC)の序盤で主人公の凛がかたきの男に、刀ひとすじの流派に育ちその流派を潰された仇を討とうとしているのに刀ではなく暗器を使うおまえは、それを選んだ時点でもう半ば以上こちら側の人間なのだ、と言われるシーンがあるのですが、割とそれに近いことを考えて今回の構成を書いたところがあります。

 イールは自分でも意識せずに自分の祝福を人に与えていて、実態はもはや祝う側のに、自分だけはそれを認識できていない。自覚が持てない。記憶に呪われています。

 また、死ねないことを呪いと捉えていますが、結局それも生き延びる力の飛び抜けた強さという祝福でした。


 祝福の過剰、祝福の(一見あたかも呪詛の結果であるかのような)表現型、ということを今回は書きました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る