第2章

第11話 王宮騎士

「お兄ちゃん、いつまで寝てるの? もう朝だよ」


「後5分だけ……」


「もぅいい加減にしてよ、そんな事言うなら朝ごはん無しだからね。それにバイト遅刻するよ」


「……分かった、起きるよ」


 そして俺は布団から出て窓を開けた。

 いい風だ、それに太陽の光が見に染みる……今日も一日頑張ろう。

 それから俺は着替えてリビングへと向かった。


「あ、お兄ちゃんやっと起きた。早く食べちゃってよね、私も学校なんだから」


 テーブルの上には白いご飯、味噌汁に目玉焼きが並んでいた。


「それじゃ私は先に行くから鍵は宜しくね」


 と、彼女はそう言って家を先に出ていった。

 おっと、俺も急がなければ遅刻だ……。

 俺はテーブルの上の料理を急いで頬張り支度を済ませ玄関へと急いだ。


「それじゃ、俺も行くかな」


 と、俺はドアノブへと手を掛け外へと出た。


 するとそこには何故か天井が見えた。

 天井? なんでだ? 

 俺は疑問に思って体をお越し左右を見ると秋華がベッドの上で寝ていた。

 

「………………………………………………………………………………………………………」


 なんだ、夢か……。

 そりゃそうか、俺達は昨日あの後疲れてすぐ寝てしまったのだから。

 しかし、あんな夢を見るなんてやっぱり俺は元の世界に早く戻りたいのだろうか?  

 先が思いやられる。

 

 それから俺は布団から出て秋華を起こすことにした。


「おい、もう朝だぞ。起きろ秋華」


「んー、もう朝……?」


 彼女は少し眠そうな顔をして体を起こした。


「ああ、とりあえず支度するから起きろ」


「……うん……わかった」


 その後俺達は支度をするためリビングへと向かうとドアを叩く音が聞こえた。


「秋嶺様、秋華様起きていらっしゃいますか?」


 俺は玄関へ向かいドアを開けた。


「おはようございます、秋嶺様に秋華様」


「おはようございます」


 すると彼女は一礼して今日の予定を教えてくれた。

 

 まず、これから朝食を取るために食堂に案内してくれるらしい。そして朝食が終わり次第王宮騎士の説明と訓練所の案内をしてくれるそうだ。


「分かりました、それじゃ支度してきますね」

 

 と、俺は急いで支度を済ませた。


 それから俺達は食堂へと案内された。


 するとそこにはそれぞれ朝食を取っている人や席に数人で座り話ながら朝食を取っている人など沢山の人達がいた。

 もし表現するなら大学の食堂が妥当だな。それにテーブル上には剣やら杖が置いてあるのが見える。

 きっとあれだ、俺達の世界で言う所の鞄の代わりに剣やら杖を置いて席取りしているのだろう。


「こういうところは何処に言っても同じだな……」


 俺はそう呟いて席へと座った。


 それから俺達は朝食の説明を受けていた。


「朝食はバイキング形式となっております」


 と、彼女は料理が置いてあるテーブルへと手を伸ばした。


「あちらからお好きなものをお取りください。私は近くにおりますので分からないことがありましたらお聞き下さい」


 と、彼女は一礼して少し離れた所に立ち始めた。

 

 気を使ってくれたのだろうか?

 それにしてもバイキングか……あまり好きじゃないのだが……。

 でもせっかくだし、いろんな料理の味を確かめるとするか。

 何事も挑戦だしな。

 と、俺は料理があるテーブルへと向かおうとすると秋華が俺の服を引っ張ってきた。


「お兄ちゃん、私バイキング行ったこと無いから教えて」


 そう言えばそうだな。うちは貧乏だったし両親はいつも共働きでほとんど家にいなかったため外食なんてめったにしなかった。

 俺は高校、大学の頃に友達と一緒にバイキングとかはよく行ったが、秋華は小学生だし友達とバイキングにいく機会も無いもんな。


「分かった。とりあえず向こうへ行くか」


 俺は彼女を連れて料理が並んでいるテーブルへと向かった。


「うわー、すごい数の料理だね!」


 彼女は興奮してテーブルの上の料理を眺めていた。


「この料理の中から好きなものを取って食べていいんだぞ」


「えっ! 本当!? 私迷っちゃうよ……」


 彼女はそう言いながらもぽんぽんと皿の上に料理を乗せて歩き回り始めた。


 迷うとはいったい……ま、いいか。バイキング何だし好きなものを取って好きなものを食べる、俺も早く取りに行こう。

 と、後ろを振り返った時誰かとぶつかった。


「すいません、大丈夫でしたか?」


 俺はすぐに謝った。

 その人は剣を腰に差し、つり目で長身の男だった。


「………………」


 するとその人は一瞬だけ俺を見て無言でその場を去ってしまった。


 ……はぁ、またやってしまった。

 この世界に来てから二回目の衝突だ。

 しかも無言で去っていくと言うことはきっと怒らせてしまったんだろうな……最悪だ。


「どうしたのお兄ちゃん? 何かあった?」


 すると秋華は一通り食べたい物を取り終えたのか俺のところに戻ってきた。


「いやな、さっき人とぶつかって相手を怒らせてしまったんだよ」


「えー、またぶつかったの? お兄ちゃん。ちゃんと周りは見なきゃだめだよ」


 本当にその通りだ、今回は何も言えない。

 しかし彼は剣を腰に差していたし、ここに居たと言うことは王宮騎士ではないだろうか? それならまた会えるかもしれない。

 その時にきちんと謝ろう。


 それから俺は適当に料理を取って席へと戻った。


「どの料理も美味しいね、お兄ちゃん」


「ああ……そうだな」


 正直どの料理も味は微妙だった。そりゃこれだけの人数がいたら味より量になるから仕方ない……。

 それでも秋華は美味しいと言っている……きっと今までの食生活で貧乏舌になってしまったのであろう。

 なんだか泣けてきた。


「お、いたいた。おーい、少年探したぞ」


 なんて思っているとセチルさんの声が聞こえた。

 探していたと言うことは俺達に何か話すことがあって来たのだろうか?


「聞いたぜ、王宮騎士になったんだってな」


 その事か……でもそれはセチルさん達のおかげであり自分の力ではない。それに自分の気持ちに気づけたのも彼のおかげだ。


「はい、でもそれはセチルさんの言葉があったからですよ」


 すると彼は何か思ったのか呟いた。


「そうか……。でも少年、ああは言ったがあまり気負い過ぎるなよ。困ったら誰かに相談するんだぞ、嬢ちゃんもいるんだからな」


 俺はその時彼の気持ちが少し分かった気がした。

 彼はあの時、俺の気持ちに気付いていたんだと思う。だからこそ俺に助け船を出す意味で言ってくれたんだろう。

 ただ彼は自分がそう言った事で俺達が王宮騎士になってしまった事を聞いて責任を取る意味でも心配してくれているのであろう。


「はい、これからは秋華と二人で話し合ってから決める事にしましたから大丈夫です」


 すると彼は頷いて俺達の席へと腰かけた。


「それでよ、話は変わるんだが……俺達は王から新しい勅命を受けたんだ」

 

 王からの勅命……大方何を言われたのか分かるが、わざわざ言いに来てくれたんだし、しっかり聞こう。


「でな、今回の件にはどうも勇者の事が絡んでるらしいんだよ。だから長い旅になると思ってな、一応言いに来たんだ」


 やはりそうか、勇者絡みの事なら間違いなくあの地図と鍵の事だろう。

 ん? でも待てよ、この話の流れだと俺達のことを勇者だと伝えてないと言うことだよな。一応聞いてみよう。


「セチルさん、勇者絡みと言うことは勇者が現れたと言うことですか?」


「ん? ああ、そうらしいぞ。ただ王は勇者が誰とは教えてくれなかったぜ。ま、俺は勇者が居るって事が分かっただけで十分だけどな」


 そうなのか……となると俺達が勇者と知っている人はレストを除けば王と王女の二人になる。今一王達の意図が読めんがここは話を合わせるとしよう。セチルさんには悪いけど、後で問題になるのは俺はごめんだからな。


「そうですか……。それで旅の当てはあるんですか?」


 と、俺は話を戻した。

 

 すると彼は少し難しい顔をして俺達に話してくれた。

 今俺達がいる王都フィナゾールより北に進んでいくと迷宮都市レミケディアと呼ばれる国があるらしい。その国は昔、地下迷宮が広がっている国として各地の冒険者やら観光客で栄えていたという。

 ただ10年前に突然他国の人を追い出し、国を閉めたそうだ。いわゆる鎖国状態だ。

 それから今まで迷宮都市レミケディアには人が出入りしたという話は聞いたことがないらしい。


「と言うわけでな、どうするか考えてるところなんだよな」


「大変ですね。自分も手伝えればいいんですが……」


「ま、心配しなくてもどうにかなるだろ。やれるだけやってみるさ」


 と、彼は俺達の肩をポンっと叩いた。


「少年達も王宮騎士頑張れよ」


「はい、セチルさんもお気をつけて」


「おうよ、帰ってきたらまた一緒に飯食って話そうぜ」


 と、彼は言って食堂から出ていった。


 俺はその時、次に彼に会う時には立派な王宮騎士になった自分を見せようと心に誓った。


 それからしばらくして俺達は朝食を終え、訓練所へと案内された。


「ここが騎士、魔術師の訓練所になります」


 するとそこには剣を使い訓練している人、魔法を使い訓練している人、さらには騎士同士、魔術師同士などで模擬戦をしている人達までいた。

 正直俺はワクワクしていた。

 俺だって男だ、こういった戦いに少しは憧れていたりする。

 でも今はそのワクワクより自分もこの中で強くなっていく事を想像したらワクワクが止まらなくなったのだ。


「お、新入りか? 随分若いな」


 すると剣を振っていた1人の男が声を掛けてきた。


「ラルテじゃないの、こちら秋嶺様に秋華様です」


「へぇー、秋嶺に秋華ね。よろしくな、俺のことは気軽にラルテって呼んでくれて構わない」


 と、彼は俺達に挨拶してくれたため俺達も挨拶をすることにした。


「はい、昨日から王宮騎士になりました、秋嶺と申します」


「私も昨日から王宮騎士になりました、秋華です」


「おうおう、元気がよくていいねー。それで今日はルネットに案内されてんのか?」


 ルネットとは使用人さんのことだろうか? 

 と言うか名前呼びということは……。

 この二人の関係性が気になるな。

 ちょっと聞いてみよう。


「はい。お二人は知り合いなんですか?」


「ん? ああ、こいつとは幼なじみなんだよ。いわゆる腐れ縁ってやつだな」


 そうか……幼なじみなら納得だ。

 しかし興味本意で余計な事を聞いてしまったな、二人ともすごく嫌な表情をしている。

 きっと腐れ縁と言うくらいだし仲は良くはないのだろう。


「それより秋嶺と秋華、俺がここの案内してやるよ。ルネットより俺の方が詳しいぜ」


 彼はルネットを押し退け俺達の間へとやって来た。


「ちょっと、何すんのよ。私は仕事なの! あんたの勝手に付き合ってる暇はないの」


 すると彼女は激怒してラルテの服を引っ張っていた。


「うるせえやつだな、仕事を代わりにやってやるって言ってんだよ、喜べバカ女」


「はぁ? 別に頼んでないし、それに貴方よりはバカじゃないです!」


 なんだかすごい事になってきた。

 それにルネットさんの態度と口調を見る限り本当に仲が悪いんだろう。

 しかし二人は俺達の案内をするか否かの喧嘩をしているはずなのに何故だろうか、すごく疎外感を感じる。

 それから俺はしばらくの間二人の口論を聞いていた。


「あー、もう俺達じゃ埒があかねえ! 秋嶺達に決めてもらおうじゃねえか」


「ええ、いいでしょう。今会ったばかりの貴方に勝ち目はないと思いますが」


 うん、やっぱりそうなりますよね。できれば巻き込まれたくはなかったが仕方ない。

 正直どっちに頼んでも同じ気がするが、今後の人間関係がどうなるかが掛かっている重要なことだ。

 さて、どうしたものか……


「それなら私がルネットさんに案内してもらって、お兄ちゃんがラルテさんに案内してもらえばよくない?」


 と、秋華はそう言った。

 

 なんて出来た妹なのだろうか、これからは秋華様とお呼びするしかないな。


「秋華様がそう仰るなら私はそれで構いません」


「そうだな、俺もそれに賛成だ」


 そして俺はラルテ、秋華はルネットにそれぞれ案内してもらうことになった。


「それじゃルネットさん秋華をよろしくお願いします」


「はい、秋嶺様。お任せください」


 彼女はそう言って秋華を連れていった。


 はぁ、本当に秋華様様さまさまだな。

 あのまま二人のどちらか選んでいたら大変なことになっていただろう。とりあえず二人を離すことができたから良かった……。


 それから俺とラルテも彼女達とは反対方向へと歩きだした。


「秋嶺、見苦しいところを見せちまってすまねえな」


 するとラルテは申し訳程度に頭を下げ言葉を続けた。

 

「ま、今度なんか奢るからそれで許してくれ。今は訓練所の案内が先だしな」


 と、彼は言って訓練所を案内してくれた。


 ここ訓練所は基本的には自分一人で訓練している人が多いらしい。

 訓練の内容は人それぞれだが、一人で訓練している人達はだいたい剣の技、魔法を極めるために研鑽しているらしい。

 その他にも剣の腕は上げるために模擬戦形式で戦って研鑽を積んでいる人達、パーティーを組んで自分達で作ったゲーム形式を使って訓練している人達もいるとラルテは教えてくれた。


「こんなものだな。俺は基本的には一人で訓練より模擬戦ばっかだけどな」


「そうですか、でも俺今まで剣を使って戦った事ないので一人ではどうにもなりません」


 すると彼は驚いた顔をしていた。


「剣使ったことないのに王宮騎士になったのか? そりゃとんでもなくアホだな」


 彼はそう言って剣を抜き俺の方を向いた。


「ほら、持ってみろ」


 俺はその剣を受け取り構えた。

 正直ラルテの剣はセチルさんに買ってもらった剣より遥かに重く俺には使いづらいだろうと思った。


「いいか、剣は騎士の命だ。まず自分に合った剣を探すところから始めるべきだ。俺はその重さが丁度いいが秋嶺の顔を見るとそれは合わないらしいな」


 そして俺は彼に剣を返した。


「はい、確かに俺には重くて扱いづらいと思いました」


「だよな。なったばかりでこの剣はきついはずだ。始めは初心者用の剣で訓練する事を進めるよ」


「分かりました。ラルテがそう言うならそうします」


 するとラルテが手招きしてきた。


「秋嶺、真剣を使った戦いを観たいか?」


 彼は俺の顔を見てそう言った。


 それは俺からしたら願っても無いことだ。

 俺は実戦を観たことはないし、こんな機会滅多にない。

 それに俺はこれから王宮騎士になるんだしここはお言葉に甘えて観戦させてもらうことにしよう。


「はい、ぜひお願いします!」


「おう、ならそこに座って見とけよ」

 

 すると彼は近くにいた騎士に声を掛けに行った。


「おい、グラビル。ちょっと模擬戦に付き合え」


「急だね……ま、いいですよ。僕も今暇してましたし相手になりましょう」


「ありがとよ。でも今回は木刀じゃなくて真剣勝負な」


 彼はそう言って剣を抜きグラビルと呼ばれる男に向かって構えた。


「面白いですね、真剣勝負。死んでもしりませんよ」


 そしてグラビルと呼ばれるその男も剣を構え距離を取って間合いを取り始めた。

 そして、二人がある程度間合いを取ると俺以外にも観客が集まってきた。


「お、なんだなんだ? 真剣勝負か?」


「ラルテとグラビルじゃん。面白れえ、俺はラルテに賭けるぜ」


「俺はグラビルかな」


「いや、ラルテだろ」


 と、集まってきた観客達は賭けを始めだした。

 こういうところも何処に行っても同じか。それにしてもいくら真剣勝負だからってこんなに人が集まるものなのか? 

 周りを見る限り訓練所で訓練していた奴らほぼ全員が二人を中心にして集まっているのだが……。


「すまねえ、誰か合図してくれないか?」


 するとラルテが周りの観衆に声を掛けた。


「いいぜ、引き受けよう」


 と、俺の近くで観ていた男が名乗り出た。


「それじゃいくぜ。これより大騎士ラルテと大騎士グラビルの真剣勝負を始める」


 ん? 今何て言った? 大騎士ラルテ? 

 確か大騎士って団長、副団長除いたら一番上の階級じゃなかったけ? 道理で周りの人が全員集まってくるわけだよ。

 ……ちょっと待てよ、それじゃ俺は上司に対して気軽に話していたと言うことになるな。この戦いが終わったら敬語に変えて話そう。


「レディー、ゴー!」

 

 そしてその合図によって二人の真剣勝負が始まった。

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兄妹勇者の回想録 水管みく @suikan0409

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