第10話 決意
俺はその場で呆気にとられていた。
なんとそこは王座の間であったのだ。
……おいおい、報告って王様に直接伝えるの? もっとこう受付みたいのがあってそこの人に報告するものだと思ってたんですけど……しかもこんな身元もよく分かっていない人達を王の所に連れてきていいのか? もし俺達が王の暗殺とか企てていたらこの状況はやばいだろ。
なんて思いながら俺はセチルさんに言われた通りに部屋の隅に立って彼らの話を聞くことにした。
「おお、セチルにコリン戻ったか」
「「はい、ただいま戻りました」」
彼等はいつになく真面目な声で膝を着き王と思われるその男に返事をした。
「それで隣の国の状況はどうだったのだ?」
王の言葉を聞くと彼は話し出した。
向こうでは見渡す限り焼け野原が広がっていて建物一つ残っていなかったこと、他に生き残った人達がいたかどうかの確認ができる状態ではなかったこと、そこで俺達を助けた事を細かく説明していた。
「そうか、街は全て破壊され民はほぼ全滅か……」
彼が説明を全て終えると王は顎に手を当て呟いた。
「はい、私達二人では状況確認だけが限界でした」
コリンがそう言うと王は俺達に視線を向けてきた。
「して、そこにいる者達は隣の国の生き残りかね?」
「はい、彼等は私達が隣の国に向かっている時にヒューマデビルに襲われている所を助け保護しました」
彼女は俺達の事を紹介し話を続けた。
「無礼を承知で申し上げます。この者達は隣の国で家を無くし行く当てもなく困っているそうです。ですからこの国の王宮寮に住まわせていただけないでしょうか」
すると王は一瞬眉を寄せ椅子から立ち上がった。
「いくらお前達の頼みでもそれはならん」
……いきなり断れてるんですけど、出鼻をくじかれるとはまさにこの事を言うんだろうなーーいや今はそんなことはどうでもいい本当に大丈夫なんだろうか、心配だ。
「なぜでしょうか、理由をお聞きしてよろしいですか」
彼女は少し焦ったような声で言った。
「普通に考えればわかるはずであろう。隣の国での惨事の話を聞く限り生存者を確認できる状態では無かったと、それでそこの二人だけ無事とは怪しすぎるではないか」
ま、そりゃそうか、てかそれが普通だよな。俺が逆の立場だったら真っ先に魔王サイドの人間とか考えて疑うもんな。ああやっぱもしもを考えておくべきだったかな、今となっては後の祭りだけどな。
「ですが……」
と、彼女が何かを言おうとした時王の隣に座っていた女性が口を開いた。
「お話中申し訳ありません。彼等は大丈夫でございます」
女王と思われるその女性はゆっくり立ち上がり俺達に近づいてきた。
「お二方のお名前を聞いてもよろしいでしょうか」
彼女は俺の目の前に来ると名前を聞いてきたため俺達は名前を答えた。
「……秋嶺様と秋華様ですね、私はこの国の王女セレティと申します。少しお手を拝借してもよろしいですか?」
やはり王女だったか。妃にしては若すぎると思ったもんな、王女と言うなら納得だ。しかしなぜ手を拝借する必要があるのだろうか、まあいいか。
俺は王女言われた通りに手を出した。
「そうですか……貴方方が……」
彼女は俺達の手を触り終わるとそう呟き王の隣へと戻っていった。
そしてすぐに王に何かを耳打ちすると王は口を開いた。
「お前達こちらに来て跪け」
いきなりなんだ? びっくりするだろ。いや俺達が何か気に障ることをしてしまったのかもしれない……怖いな。と、俺は考えながら跪き次の言葉を待った。
「セチルにコリンよ、そなた達の頼みを受け入れよう」
すると王はさきほどとは打って変わって俺達全員に言った。
おいおい、今度は手のひら返しか? いくらなんでも態度が変わりすぎだろ……あの王女まじで何を言ったんだ?
「但し、一つ条件を出させてもらう。お前達二人にはこの国のために働く事を条件に王宮寮に住むことを許そう。異論や質問はあるか?」
王は俺達二人へと視線向けそう言った。
……俺としてはいきなり態度が変わった事や王女が何を言ったとか聞きたいことはあるが、ここで仮に何かを言ってこの話が無くなるのだけは避けたい。王の話を聞く限りだと住む場所を与える代わりにここで働けということだ。今の俺達にしたら一石二鳥な話であるしな。
「いえ、何もありません」
「そうか、ならば王宮寮へ住むことを許そう」
王は椅子へと腰掛けた。
「これでこの話は終わりだ、それと報告ご苦労だったなセチルにコリンよ」
そうして俺達は王座の間を後にした。
それから俺達は使用人の案内によって客間へと来ていた。
「いやー、やっぱ王の前は緊張するぜ。やっぱりコリンはすげえな、よくあんなにすらすらと言葉がでてくるもんだぜ」
「もぅ、あなたったら私だって緊張してたんですよ。一回断られたときなんかどうしたらいいか焦りましたわよ」
彼等はいつも話し方に戻り会話をしていた。
「それで少年達すまねえな、住むのに条件をつけられるとは考えてなかったぜ」
「ええ、私が至らないばかりにごめんなさいね」
……なんか申し訳ないな。ここまでして貰って謝れるのはなんだか気が引ける。
「いえいえ、住む場所を貰えただけでも良かったですよ」
しかし国のために働く事はいいんだが秋華を働かせるのはかわいそうだ。彼女はまだ10歳だ、日本だったらバイトもできない歳だし、それに危ない仕事はやらせたくないな。どういった仕事があるかはセチルさん達に聞いてみるか。
「あの……さっき王が言っていた国のために働く事ってどういったものがあるのですか?」
俺は彼等に仕事について質問をした。
するとこの国(王宮)での仕事のことを教えてくれた。
まず、国のために働くと言うことは王に忠誠を誓う事が条件だそうだ。その後は大まかに4つの選択肢があると教えてくれた。
1、討伐隊(冒険者)
今は討伐隊のほうが正しいらしい、その理由としては魔族や魔物が活性化しだして呑気に冒険なんてしてる場合では無くなったからだそうだ。仕事としては国の命令やセチルさん達のように王直々に何かを受けるそうだ。しかもこれは国の認可いわば国家資格が必要だそうだ。人数はこの世界では少人数らしい。
2、王宮騎士
これは国の軍だな、国を守るために働き何かあったら直ぐに行動をする。稀だが遠征などをして訓練などを行う事もあるそうだ。またこれには階級があり騎士団長、副団長、大騎士、中騎士、少騎士、騎士見習いと上から順に続いていくそうだ。その階級を決めるのが年に1回開かれる騎士達同士のトーナメント形式の勝敗によって決まるらしい。
3、王宮魔術師
これも王宮騎士とほぼ同じだ。ただこれは魔法の適正がないとなれないそうだ。
4、使用人(メイド)
これは言うまでもないと思うが王宮内での雑務などを行う仕事だそうだ。要は王宮内の人達のお世話係と言うことだな。
「ま、ざっとこんなもんだ。他にも細かい所まで言えばあるんだが、大まかにはこの4つだな」
「そうですか。ありがとうございます」
「おうよ。でもよ、少年達は王宮騎士か王宮魔術師にされると思うぞ。今は戦力が少しでも欲しい時期だからな」
そうなのか……まあ俺はそれでいいとしても秋華には騎士やら魔術師は危険すぎる。どうすればいいんだろう。
「……自分はそれでもいいんですが、秋華だけは使用人とかにしてくれないですかね?」
俺がそう言うと秋華が俺の服を掴んできた。
「私お兄ちゃんと離れるのは嫌、一緒がいい」
俺はその言葉を聞いて彼女の目を見た。
「でもな秋華、王宮騎士は戦いをするんだ。秋華を危ない目に合わせたくないんだ」
俺がそう言うと彼女はさらに嫌がりしがみついてきた。
俺は彼女を見て迷った。
騎士になって戦いに参加させるのは秋華は女の子だし年だってまだ10歳だから出来ればやらせたくはない。ただこの異世界に来て秋華を一人で使用人にしていいのか? 人間関係だってあるだろうし右も左もわからない所で一人、そっちのほうが秋華のためになっていないのではないか? どうするのが正しいんだ……
「なら、少年が嬢ちゃんを守ればいいんじゃねえか?」
彼は俺と秋華を見て言った。
俺だってそれが出来たら悩みはしない。セチルさんは強いからそう言えるだけの力に術を持っている、だが俺にはない。
「俺には出来ませんよ、守るだけの力がないですから」
俺は俯きながら拳を握りしめた。
正直悔しかった、俺に力がないからこういった肝心な時にも決断が出来ない。それにあの時だって俺に力があったら秋華も救い、この人達にも頼らずここまで来れたかもしれない。俺は無力だ。
「少年よ、これだけは言っておくぞ」
すると彼は俯いている俺の肩に手を乗せてきた。
「誰だって初めは弱い、それでも努力したやつが強くなる。これは戦いに限った話ではないがこれだけは言えるぞ少年。無力の自分が嫌だったら努力しろ、そして自分の大切な者を守れ」
俺はそう言われて自分の気持ちが分からなくなった。
俺はどうしたいんだ?
元の世界に帰りたいのか?
強くなりたいのか?
勇者になりたいのか?
魔王を倒したいのか?
秋華を守りたいのか?
分からない 分からない
「俺は……!」
と、何かを言おうとした時客室のドアが開いた。
「お話中のところ失礼致します、秋嶺様に秋華様、セレティ様がお呼びです。ご同行の程お願い申し上げます」
使用人と思われる女は頭を下げ俺達に言った。
俺はモヤモヤした気持ちのままだったが1回落ち着き、使用人の後に付いて行く事にした。
その後しばらくして明らかに他の部屋とは違った豪華な部屋の前へと俺達は来ていた。
「失礼します、セレティお嬢様。お二方を連れて参りました」
使用人がノックをすると中から声が聞こえてきた。
「あら? 随分とお早いですね。少しお待ちくださいませ」
それからしばらくして扉が開いた。
「お待たせいたしました、どうぞお入りください」
セレティは使用人に労いの言葉かけ俺達を部屋へと招き入れた。
「とりあえずこちら席へお座りください」
俺達は彼女に言われた通りに椅子を引きそれぞれ椅子へと座った。
「さて、まずは何からお話しましょうか? あ、敬語は使わなくていいですよ」
彼女は手を叩いて俺達にそう言ったため俺は口を開いた。
「何で俺達を呼んだんだ?」
「そうですね……あなた方が勇者だからと言ったらどうします?」
俺は驚き椅子から立ち上がった。
「なんで、それを知っている?」
「それはですね……」
すると彼女は俺達に説明してくれた。
彼女の本名はセレティ・エンサ・ゾールというらしい。この国の王、ドルテ・エンサ・ゾールと王妃、セリア・エンサ・ゾールとの間に生まれ、王女として育てられたが彼女は生まれつき特殊の能力を持っていたそうだ。
それは人の善悪が分かる能力と人の記憶を読み取ることのできる能力だったそうだ。彼女曰く相手を見ただけで善悪を判別出来るらしい、ただ記憶を読み取るには相手の体に触れることが条件らしい。
それで俺達の手を触れた事で記憶を読み取り勇者と分かったのだという。
「と、言うことです。お分かりいただけたでしょうか?」
「あぁ……大体わかった」
本当はそんな能力だなんやらと言われてもピンと来なかったが、この世界には魔法もあるからそういった事もあるんだろうと受け入れた。
「で、話っていうのはそれだけか?」
俺がそう聞くと彼女は首を横に振り口を開いた。
「いいえ、あなた方を呼んだのには他に理由があります」
すると彼女は宝箱のような箱の形をした物を俺達の前へと持ってきた。
「この箱は勇者様が現れた時に渡すようにと代々言われてきた物です」
「中には何が入っているんだ?」
「私にはわかりかねます。それは勇者様にしか開けられないらしいので」
彼女は宝箱を持ち両手で開けようとしたが開かなかった。
「この通りです。私には開けられませんのでどうか試して見てください」
彼女はその宝箱を俺達の前へと置いた。
正直に言う、俺はこの宝箱を開けたくはない。なんでかって? 開けたところでろくなことにならない気がするし、これ以上面倒事を増やしたくないと言うのもある。でも、この状況開けるしか選択肢が残ってないように見える。どうするかな。
「あ、開いたよお兄ちゃん」
俺がどうこう考えている間にテーブルの上にあった宝箱は秋華の手の上で開いていた。
……おい、何勝手に開けてんだ。てかこの宝箱が開いたということはもう秋華は勇者って事が確たる証拠になってしまったではないか。
「見て見て、中にね鍵と……地図みたいな物があるよ」
彼女は勝手に中身まで漁っていた。
もう俺は知らん、どうにでもなれ。
「秋華様、私にも見せてくださいませ」
「うん、いいよ。ほらお兄ちゃんも見てみなよ」
秋華は宝箱を机に置き俺達に見せてきた。
「これは、地図なのか? 掠れていてよく見えないな」
「ええ、そうですね。ただ下の方に文字みたいのが見えます」
俺はその地図と思われる物の下を見た。
「確かに何か書いてあるな。でも読めないぞ」
でもなんかどっかで見たことあるような気がする…………あ、思い出した。ヒエログリフだ。もっと噛み砕いた言い方にすると象形文字だ。それに似たような文字が掠れてはいるがずらっと並んでいた。
「これは確か……約1000年前にこの国で使われていた文字だったはず。ここらへんにその本が……」
セレティは立ち上がり近くにあった本棚に目を向け指を差しながら本を探し始めた。
「あ! ありましたわ。これです」
彼女は本を1つ手に取るとテーブルに広げた。
「読み方は……このページですね」
「俺にも見せろ」
「あっ! ずるい私もー」
そうして3人でその本を見て書かれている文字を解読することにした。
それから本と向き合うこと30分、俺達は文字を解読することができた。
「読めるところだとざっとこんなもんだな」
「そうですね。でも大体何が書いてあるか分かりましたわ」
「私は全然分からなかったよ。何て書いてあったの?」
俺は書かれていた文字を読み上げた。
「ここに…………封印…………魔王に対抗…………力を…………残す。場所は…………の地下、そこにこの鍵を…………入り…………地図の…………進め」
「うーん? よく分かんないね」
秋華は首を傾げて地図を眺めていた。
「要はこれはどっかの地下の鍵でそこに魔王に対抗できる何かが封印されてますよって事だよ。で、これはそこの地下の地図って事だ」
俺がそう言うと彼女は納得したように頷いていた。
「しかし、これでは肝心のところが分かりませんね」
「ああ、どこの地下か分からないしな」
「ええ? じゃあ意味無いじゃん」
「いえ、どこかの鍵って事が分かった事だけでも十分ですわ」
セレティはそう言うと椅子から立ち上がった。
「この鍵が使える地下を討伐隊の人達に探してもらうのはどうですか? 私がお父様にお願いしてみましょう」
そうして彼女は早速部屋から出ていこうとしていた。
「おい、ちょっと待て」
「はい? なんでしょうか」
彼女は部屋の扉へと手を掛け後ろを振り返った。
「仮に見つかったとしても俺達は行かないぞ」
「何故でしょう?」
彼女はそう言って俺達の前へと戻ってきた。
「俺達は元の世界に帰りたいんだ。この世界のことなんて実際どうでもいいからだ」
「そうですか。でも、魔王倒さなければこの世界から帰れないのも事実ですよね?」
俺は図星を突かれて何も言えなくなった。
「秋嶺様方の記憶を見させて頂きましたが平和な国でしたね。ニッポンでしたっけ?」
彼女はそんな俺を見て話しを続けた。
「確かに向こうの世界からいきなりこの世界に来て勇者やら魔法やら言われて意味が分からない、何故自分達が、理不尽だ。と、思うこともあるかもしれません。でも私が生まれながら王女であるように貴女は勇者なのです、これは変えられない運命です」
セレティはそう言って肩に手を乗せてきた。
「だからと言って勇者としてこの世界を救ってくださいとは私は言いません。ただ貴方はこの世界に来て何も感じませんでしたか?」
俺は自分の胸に手を当てて今までの事を思い出す事にした。
焼け野原を見た時の事、ヒューマデビルに襲われた時の事、セチルさん達と少しの間だったが旅をした事、王都フィナゾールについた時の事。
「貴方はもう分かっている筈です。自分が何に迷っているか、自分が何をしたいかも」
俺が何をしたいか? そんなのは元の世界に戻ることに決まっている。それなのになんだこのモヤモヤした気持ちは…………。
そう思った時セチルさんの言葉を思い出した。
「無力の自分が嫌だったら努力しろ、そして自分の大切な者を守れ」
そうか……俺は……。
その言葉を聞いた時には既に答えは出ていたんだ、自分が何をしたいか、なにに迷っているかの答えが。
それなのに俺は知らん顔をして、考えたくないと逃げていただけなんだ。
そう俺は…………弱い自分、無力な自分が許せなかったんだ。
いつも、自分のことを棚に上げて秋華を理由にしておけば誰かが助けてくれる、無力なのに何も努力しようともしない、だからいざって時も何も出来ない。
この世界に来る前もそうだ、大学だってやりたいことも探さないで適当に選んで、単位が足りなくなったら即やめる。これは自分のせいじゃない難しいテストを出す向こうが悪い、都合が悪くなれば全て人のせい、努力もしようとしてないくせに。
セチルさんも言ってたじゃないか努力した奴が強くなるって、まさしくその通りだ。努力もしないで何が強くなりたいだ、セチルさん達の力になりたいだ……そんなあまっちょろい事を言っていた自分を殴りたい。
だが今俺は幸いにも王宮騎士として強くなるための選択肢が与えられている。今からでもこの弱い俺を鍛え直せるだろうか? いや違う自分で努力して強くなるんだ!
「ああ! 分かったぜ」
やってやる!
弱いからなんだ? だったら強くなるための努力すればいい、秋華が心配なら自分で守ればいい。
魔王がなんだ? だったら強くなって倒せばいい、俺は勇者なんだから。
強くなって元の世界に帰ろう。
俺は決意した。
「それでは私はお父様にお願いに行って参ります。秋嶺様方はいかがなさいますか?」
俺はそう聞かれて今の気持ちのまま王に謁見して一刻もはやく王宮騎士になりたい、その一心で言葉を発した。
「俺達も連れていけ、そして王に会わせろ」
すると彼女は頷き扉を開け王座の間へと歩き出した。
ーーーーーーーー秋華視点ーーーーーーーー
私はお兄ちゃんと離れたくはなかった。
だからお兄ちゃんに使用人になるように言われた時嫌がった、それが私の為だと知っていても。その結果私はお兄ちゃんを困らせてしまった、すごく後悔した。
私はいつだってそうだ、お兄ちゃんにワガママを言っては迷惑ばかりかけている。
私だって本当はお兄ちゃんの力になりたい、私はこれからどうするのがいいのだろう? と、思っている時だった、お兄ちゃんの表情が変わりまるで何か決意をした顔をしていた。私はそれを見てお兄ちゃんの邪魔をしてはいけない、もうワガママを言うのを控えよう、そしてこれからは自分で考えて行動しようと私も決意した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お父様、失礼します、折り入って頼みたい事があり参りました。それと秋嶺様方がお会いになりたいと申しております」
彼女は王座の間へと着くとノックをした。
「セレティか。入れ、話を聞こう」
俺達は王の言葉に従い中へと入った。
「まず、セレティの話から聞こう」
すると彼女は跪いた。
……おいおい仮にも王女様だぞ、どこの世界に跪く王女様がいるんだ……親しき仲にも礼儀ありということか? しかしドレスで跪くとは色々問題があるのではないだろうか? 気になるところだ。
「では、まずこの鍵をご覧ください。これは勇者様に渡すように言われていた箱から出てきたものです」
「おお、では誠であったか彼等が勇者であるというのわ」
「はい、それとこの地図も箱の中に入っていました。私達が解読したところによるとこれは何処かの地下の地図だと見当がつきました」
「ふむ、それでその鍵は地図に示されている地下の鍵と言うことか」
「その通りございます。それでこの鍵で開く地下を探していただけないかとお願いに参りました」
彼女がそう言うと王は近くにいた使用人を呼んだ。
「セチルとコリンを呼んで貰おうか」
使用人は王の言葉にかしこまりましたと一言いいその場を去っていった。
「セレティよ、要望を受け入れよう」
「はい、ありがとうございます」
彼女は立ち上がり俺達の後ろへと回った。
「それで、お前達は何の用だ?」
「はい、一刻も早く王宮騎士になるため馳せ参じました」
俺は跪き、王の目を見て言った。
「そうか、ならば俺に忠誠を誓う心はあるか?」
王は腕を組んで威厳のある態度で言った。
「はい、誓います」
俺は迷わず一言そう言った。
「娘の方も誓えるか?」
「私も誓います!」
彼女は大きな声で言い王の目を見ていた。
すると王は立ち上がり剣を床に刺し俺達に目を向けてきた。
「ならば、その要求を受け入れよう」
「は! 陛下の仰せのままに」
俺がそう言うと王は頷いて使用人の方を向き、後は任せたと一言言い玉座へと戻っていた。
「それでは秋嶺様に秋華様こちらへどうぞ」
俺達は使用人の言葉に従い王座の間を後にした。
「では、私はこれで失礼します」
しばらく廊下を歩いているとセレティがそう言って部屋へと戻っていた。
何て言うかすごい人だったな、思い立ったらすぐ行動する人って感じだ、俺とは違うタイプの人だな。でもこれからはこの国を守るために王宮騎士になるんだ、態度を改めないといけないな。で、それはそうとして俺達はどこに向かっているのだろう
「あのー、俺達は今どこに向かっているんですか?」
俺は疑問に思ったことを聞いた。
「はい、王宮寮へとご案内させていただいています」
彼女はそう言うと外へと続くドアを開け言葉を続けた。
「ここがこの国フィナゾールの王宮寮になります」
するとそこには高層ビルの様にでかい建物が並んでいた。
おいおい、いくらなんでもでかすぎだろ。一体この王宮に何人の騎士と魔術師がいるんだ? 国の軍と言うくらいだからかなりの人数いるとは予想はしていたがこれは予想を遥かに上回るぞ。てか、このでかさの軍の副団長をしてるコリンさんの妹のエフィナって実はすごいんじゃね? あの時まじで斬られなくてよかった、一歩間違えてたら斬られていただろうな。
「私達ここに住むんだよね……」
彼女はでかい建物を見て腰が抜けたのか腑抜けた声で言った。
それからしばらく歩いて俺達は部屋へと案内された。
「ここが、これから秋嶺様と秋華様の住む部屋となります」
そこは寮とは思えないほど綺麗な部屋であった、何て言うかマンションの一室をさらに豪華にしたような感じだ。
「見て見て! キッチンにお風呂にトイレに個室まであるよ」
彼女は元気良く部屋へと入っていった。
「それでは、明日の朝またお伺いしますので今日はゆっくりおやすみください」
使用人は一言そう言うとその場を去っていった。
「はぁ、やっとゆっくりできるな」
俺は近くの椅子へと腰かけた。
本当に今日は色々なことがあった。
王に謁見したり、王女様の部屋に呼ばれて箱を開けたり、王宮騎士になったりなど沢山だ。ただここまで来たのは俺だけの意志だ……今はいい機会かも知れない、一度しっかり話をしよう。
「秋華ちょっとこっちに来てくれ」
「ん? なにお兄ちゃん」
俺が彼女を呼ぶと彼女は隣の椅子へと座った。
「ごめんな、秋華」
俺はとりあえず一言謝った。
「え? え? どうしてお兄ちゃんが謝るの?」
彼女は慌てたようにそう言った。
「それはな、俺は秋華の気持ち、意見を聞かずにここまで来てしまったからだ」
「なんだー、そう言う事かぁ」
俺がそう言うと彼女は落ち着き言った。
「それなら私も謝らないとダメだよ、ごめんねお兄ちゃん」
……俺も秋華に謝れる理由が分からないのだが、一体何に謝まっているのだろうか。
「だって私お兄ちゃんにいつもワガママばっか言ってお兄ちゃんを困らせてばかりだもん」
そうか……彼女は迷惑を掛けていたと思っていたのか、俺は別に妹だし年もまだ10だから仕方ない事だと思っていたがな。
「そんなのは良いんだよ、秋華は俺の妹だからな」
俺は秋華の頭を撫でた。
すると彼女は嬉しかったのか、にへらと笑って顔を赤らめていた。
「お兄ちゃんにそう言って貰えるのは嬉しいよ。でも私はお兄ちゃんを助けたい、力になりたいって思ったからここまで着いてきたんだよ、だからお兄ちゃんが謝る必要はないよ」
彼女はそう言うとさらに言葉を続けた。
「私はお兄ちゃんを信じているし、本当に嫌な事は私嫌がるもん。だから使用人は嫌がったんだよ」
彼女は俺の顔をじっと見つめていた。
俺はそれを聞いて思った。
正直俺は秋華を守りたい、危ないことはやらせたくはないと思ってきた。だが、彼女はまだ10歳なのに自分で考えしっかりと自分の意見を持っていた。それなのに俺は秋華の気持ち、意見を聞いてやらずにここまで来てしまった。どうしてもっと早く気づいてやれなかったのだろう。
「俺は兄失格だな……」
「どうして?」
どうしてだって? それは俺が自分だけ突っ走って秋華の気持ちを考えてやれなかったからに決まっているだろ。
「俺は秋華に何も聞かなかったんだぞ……不満くらいあるだろ」
俺は俯き言った。
すると彼女は椅子から立ち上がり俺の手を掴んできた。
「それでもお兄ちゃんは私が嫌がることはさせないように考えてくれたじゃん。私はそれだけで十分、不満なんてないよ」
「でもな……」
俺が口を開くと彼女は俺の言葉遮り言葉を続けた。
「でも、お兄ちゃんはそれだけじゃ私の気持ちを考えていなかったと思ってたんだよね? なら、これからは何かあったらしっかり二人で話合っていけばいいよ」
そうか……そうだよな。
俺は彼女に言われて気づいた。
今までの事を後悔するならこれから先同じ過ちを起こさなければいい、これからは何か合ったら一人で考えず二人で考えればいんだ。俺達は一人じゃなく兄妹なのだから
「分かったよ秋華、これからはしっかり二人で話してから決めよう」
「うん、私も何かあったらすぐ言うね」
と、お互いに納得できる答えが出たところで俺達は休むことにした。
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