第7話 勇者の武器

「お、少年に嬢ちゃん戻ったか」


「二人ともお帰りなさい」


 俺達は彼等にそう言われとりあえず近くに座った。


「で、なんか収穫はあったか?」


 俺はそこで起きた事を自分達が勇者の子孫ということを隠し話した。


「ふーん、そうか。それは勇者伝説というこの世界の話だな、子供の頃はよく聞いたな」


 俺達の世界で言うところのおとぎ話みたいなものか、どこの世界にもこういった話はあるらしい…………これは実話だけどな。

 

「それでよ、これから王都へむかうんだろ?」


「はい、この世界で生活しないとなりませんし、行かないことには何にも始まりませんから……」


「なら、また少しの間一緒だな! 俺達も戻るのは王都だからよ」


「本当ですか? それは頼もしいです、またお世話になります」


 彼は俺の肩を叩き握手を求めてきたので俺もそれに応じ、今後について話し合うことにした。


「それで王都にはここからどれくらいかかるんですか?」


「王都ならもうすぐだぜ、今日ここで休んでも明日の夜には着くはずだぞ」


 思ってたより近いな、とりあえずどうにかなりそうだ。


「ま、それはそうとして着いたら少年達はどうするんだ?」


 あ…………すっかり忘れていた。

 俺達はこの世界に来たばかりだ、お金もなければ土地勘もない、言わば初めてのお使いに行く子供同然だ。


「えっと……考えていませんでした」


 俺は小さな声で彼に言った。


「だと思ったぜ、まぁこうして俺達が会ったのは何かの運命だろう。王都に着いてからは俺達に任せてくれ、悪いようにはしねぇ」


 本当に情けない……この世界に来てからこの人達に頼りすぎだ、それに命まで救ってもらった。この恩は必ずいつか返そう、男に二言はない。


「では、お任せします、何から何まですいません……」


「そんなに気にするな、俺達はもう同じ釜の飯を食った仲間だろ」


 この人達は俺達を仲間だと見ていてくれたのかという安心からだろうか、俺はその「仲間」という言葉が妙に嬉しかった。

 

「はい、そうですね。仲間ですもんね」


 俺がそう言うと彼は俺の頭をわしゃわしゃと子供のように撫でてきた。

 もう子供では無いんだが……まぁいいか。


「じゃあ、とりあえず今日は飯食って寝るか」


 彼はそう言い卓に広がる料理を指し、そこに向かったため俺も後を追った。

 飯はやはり絶品であった。


 俺達は飯を食べ終わり、シュラフを引き寝ようとしていた。すると秋華が俺のシュラフに入ってきたが、ここ三日間そうなので流石に慣れた。


「ねぇ……お兄ちゃん、これから私達どうなるんだろうね?」


 彼女は心配そうに寝転びながら俺の方を向き言った。


「そうだな……王都が一体どういう所なのかまだ分からないけどきっと大丈夫だろう」


「そっか……お兄ちゃんが大丈夫って言うならきっと平気だね」


 ……なんだか無責任なことを言った気がする。あんな目にあったんだどうして大丈夫なんて言えるだろうか、次何かあったら彼女を助けられるかは分からない、それに俺には力がないし戦う術もない、どうしたらいい。

 なんて色々頭で考えてるうちに彼女は寝息をたてて眠っていた、呑気な奴だ。お前も一応勇者なんだぞ、そう思いデコピンをした。


「……うぅん……」


 彼女は寝返り逆方向を向いた。

 それにしても俺達が勇者かぁ……まだ実感が湧かないな、別に何かの力に目覚めた訳でもなく特殊な能力を得た訳でもない、今までと何一つ変わらないもんな。

 ただ俺はその時強くなりたいとそう思い眠りについた。


 翌朝、俺は日の出と共に目を覚まし近くの川辺で顔を洗っていた。


「やっぱり朝は顔を洗うのが一番だ」


 なんて叫んで川の上流を眺めた。

 すると視線の先には滝がありその回りには花畑が広がっていた。滝の回りに花畑? 珍しいな近くに行ってみるか。

 そうして俺は川の上流へと向かった。


 そこは一言で言うなれば花の楽園だった。滝を中心として回りが花で覆われているのだ。


「すっごい、きれいなところだな」


 そんな小学生の様な感想を言い進んだ。

 それにしても何でこんなところがあるのだろう? 普通滝の周りと言ったら岩肌に森の中ってイメージなんだけど……俺は疑問に思いつつ滝の真下まで来ていた。

 すげえ水しぶきだ、それに水の音がうるさい……あれ? よく見ると滝の後ろに道がある……行ってみよう。

 俺は滝の裏に続く道へ入り奥へ進んだ。


 狭いし暗い。ん? なら行かなければいいって? でもこう言う所を見つけたら男の冒険心がくすぐられて行きたくなるんだよな。

 俺は少しワクワクしながら先へ急いだ。


「おぉー、こんな綺麗なところがあるのか、日本にもこんなとこはないぞ」

 

 鍾乳洞と表現するのが一番いいだろうか、そこには神秘的な光景が広がっていた。

 それにしてもすげえ綺麗だ、これ絶対世界遺産には匹敵するだろう。なんて考え進んでいると、石碑が見えてきた。

 えっと……なになに?


「ここ伝説の勇者安らかに眠る、彼等栄光と賞賛を称え我ら感謝の意を込め祈りを捧げる。また魔王復活しせし時この武器勇者によって封印解かれる」


 ……てことはここは勇者達の墓と言うことか、それに武器かっこいいな。俺はその石碑の向こう側にある武器に目を向けた。

 

 そこには剣、杖、短剣が二本が壁に刺さっていた。

 かっこいい、確か勇者によって封印解かれるだっけか? 俺は勇者らしいからその封印を解けるかも知れない、そう思い壁の剣に手を掛けた。


 ……………………何も起こらない。

 まだ魔王が復活してないから駄目なのだろうか? それとも俺が勇者じゃないから駄目だろうか……。


「おーい、少年いるかー?」


 なんて考えているとセチルさんの声が聞こえた。

 あ……そう言えば何にも言わずに来ていたんだった、時間も結構経ってるし申し訳ないことをした。

 

「はい、います。すいません何も言わずに来てしまって」


「無事ならいいんだ。……それにしてもやっぱりここにいたか、相変わらずここは変わらんな」


 彼は懐かしそうにここのことを語ってくれた。

 ここは勇者の武器があるという事で昔は観光地として賑わっていたらしい、その時彼もここに連れてこられてお前もいつか勇者のように立派になるんだぞなんて親御さんに言われたなどと話してくれた。でもここ最近は魔物や魔族達のせいでこの辺りも危険になったため誰も近寄らなくなったと言う。


「でもよ、まだここに武器があるということは勇者は現れてないということだよな」


 その言葉に俺はドキッとした。

 その勇者かも知れない人達が貴方達の近くにいますよ……。


「ま、いないならいないで俺が魔王なんてぶっ飛ばしてこの世界を救ってやるぜ」


 なんて彼は言った。

 俺はそれを聞いてたとえ自分が勇者でなくてもこの人の力になりたいと思った。


「俺に力があったら貴方を手伝えたかも知れないですね……」


 すると彼は俺に振り返り目を合わせ真面目な顔をして言った。


「戦うのはできる奴がやればいい、それでも戦いたいと思うなら努力すればいい。そしたら誰だって強くなれるさ」


 彼は壁の武器に向き直り眺めていた。

 きっと何か思うところが合ったんだろう、俺達はしばらく武器を眺めてから彼女達の所に戻ることにした。


「あ、お兄ちゃん何処に行ってたの? 起きたらいないんだもん心配したよ」


 俺達が戻ると秋華が近づいてきた。


「いや、川で顔洗っていたら滝を見つけてな、そこに行ったら迷子になった」


 と、何となく嘘をついて返事をした。


「ふーん、お兄ちゃんもまだまだ子供だね迷子になるなんて」


 なんか馬鹿にされた気分だ。

 まぁ仕方ないか嘘をついたのは俺だし。


 そうして俺達は朝飯を頂き王都へと向かった。

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