第6話 勇者

 俺はまだ日が昇りきる前に目が覚まし横を向いた、隣には秋華が幸せそうな顔をして寝ていた。

 そうして少しの間彼女の顔を眺めていると目が開いた。


「ふぁ~~。おはよう……お兄ちゃん」


「あぁ、おはよう……」


 朝の挨拶を彼女と済ませ俺はシュラフから出た。


「お、起きたか少年に嬢ちゃん、飯なら待ってくれもう少しで出来るみたいだからな」


「おはようございます。何から何までお任せしてすいません、何か手伝えることはありますか」


 俺は伸びをして、彼の元へ向かった。


「良いってことよ、それにまだ少し一緒に居るんだ、飯の事はコリンに任せとけば良いって」


 うーん、他に何か手伝えることは無いだろうか? 全部任せっきりはまずいしな、俺は辺りを見渡した。


「それなら、みんなの片付けをやってもらおうかしら」


 俺の気持ちを読み取ったのか彼女は微笑みながら俺に視線を向けた。


「分かりました。それくらいしか出来ませんが、やらせてもらいます」


「はーい、私も手伝うよ。洗い物は得意なんだから」

 

 俺と秋華は彼女にそう返事をした。


 今日の朝飯は、魚の串焼きと見たことないスープだった、魚は緑色をしていて食べるのをためらったが旨かったし、スープの方も色は無色透明であったが味噌汁に似た味がした。

 

「やっぱり、コリンの飯はうまいなー。俺はいい嫁さんを貰ったぜ」


 彼は彼女に目を向け言った、彼女は少し顔赤らめ褒めても何も出ませんよと彼に言い肩を叩いていた。俺はその光景を見て思った、彼女は顔も美人だ、それに料理もまだ二回しか食べていないが味は絶品であった。将来、結婚願望がある俺からしたら、彼の事が少し羨ましいと思った。

 

 俺達は食べ終わったお椀を集め、どう洗おうかと迷っていると、彼等に向こうに湖があるからそこで洗ってこいと言われたのでそちらに向かっていた。きっと魚もそこで捕ってきたんだろう……何て思っていると湖に着いた。


「お兄ちゃん、半分洗うよ」


 彼女は俺から半分お椀を奪い水辺で洗い出したためそれに続き俺もお椀を洗うことにした。


「本当にコリンさん達いい人達だね」


 洗っていると彼女が話しかけてきたので俺は湖に映る自分の顔を眺め昨日のことを思い出しながら口を開いた。


「だよな、あの人達がいなかったら俺達もどうなってたか分からんよな」


 本当にあの時は助かった、後少しでも遅れていたら俺は死んでいたかもしれない……そう思い少し不快な気持ちになった。


「そうだよ、私にも感謝してよね。助けを呼んだのは私なんだから」


「あぁ助かった、ありがとう」


 素直にお礼を言うと彼女は胸を張り満足げにしていた、可愛いやつだそう思った。


 お椀を片付け俺達は元の場所に戻り、一息ついていた。


「おぅ、少年。もう少ししたら出発するから準備しとけよな」


 そう言われ、俺は準備しようとしたが特に支度するものもないのでそのまま休んだ。それから少しして、出発することになった。

 

 そこからはあっという間だった、朝から夕方にかけては基本的に歩き、魔物を倒しながら進む。倒した魔物中にはスライムみたいなやつがいて秋華がスライムがいるよって言ったらあれはアメーバよ……どっちでもいいわ。なんて言う会話もあったけどそれはどうでもいい話か。

 夜は魔物共の動きが活発化するらしいので拠点を作り寝泊まりをし、一夜を明かした。

 そんなことを繰り返している間に祠に着き、俺達はその日近くに拠点を構えることにして色々準備をしていた。


「よし、今日はここで寝泊まりするからな。少年、祠はすぐそこだ。用事済ませてこいよ」


「そうね、その間にご飯でも用意して待ってるわ。いってらっしゃい」


 彼等にそう言われ秋華を連れ森林をかき分けながら進み、少しして小さな祠が一つポカンと木に囲まれ建っていた。祠そのものはかなりみすぼらしくコケも生えていて、長年放置されているようだった。


「本当にこんなところにあいつはいるのか?」

 

 すごく疑問に思った、祠は人が入るには小さすぎるし、人が踏み入れた痕跡もなければ人影も見当たらない。 

 これははめられたか? やはり奴を信じるべきでは無かったのか? 俺は色々頭で考えながらその場に立ち尽くしていた。


「……ねぇ、お兄ちゃん。ペンダントを翳してみたらどうかな?」


 しばらくして口を開いたのは彼女だった。俺は彼女にそう言われ、ペンダントを祠に翳してみた、するとペンダントは光を放ち祠に吸い込まれ俺と彼女の首から外れた。


「お待ちしておりました。秋嶺様、秋華様」


 そいつはペンダントが吸い込まれると同時に俺達の前に現れた。


「改めて自己紹介を、私エインセルのレストと申します。さて何からお話ししましょうか?」


 俺達の目の前に現れたそいつは明らかに人間では無かったのだ、小さな妖精だった。


 俺は少し驚いたが平常心を保ち、そいつに話を聞くことにした。


「俺達をここに呼んだのはお前で合ってるか?」


「はい、この世界に魔法で貴方達を転移させ、夢の中で話をしたのも私です」


 良し、あの時いってた事と同じだな、名前も同じだし嘘もついてないだろう……俺は言葉を続けた。


「この世界についてはここまで連れて来てくれた人達から聞いた、だいたいどういった状況なのかも把握している。でも、何故俺達をここに転移させたんだ?」

 

「そうですか……では話す手間が省けました、貴方達をここに呼んだのは今の現状に大いに関わっているからでございます」


 今度は彼女が言葉を続けた。


「こんな話があります、今から1000年ほど前、この世界は魔王ベルザキアによって支配されていました。その勢力は膨大で人間は追い詰められていました、そんな中ぎりぎり持ちこたえられていたのは5人の勇者様が人間達をまとめ、力を合わせていたからです。しかし、あるとき勇者様の一人が敵の襲撃によって亡くなり戦況がさらに悪くなりました。そこで四人の勇者はベルザキアを封印する事を決意します」 


 と、彼女はそこで話を一旦切った。

 だが、ここまでの話を聞く限り俺らが関係する意味がわからないな。


「いいですか? その後彼等は4人でベルザキアを封印するためベルザキアの元へ赴き、3人の勇者の犠牲によって封印は成功します。そして残った一人の勇者は残りの残党を他の仲間と一緒に倒し、平和を取り戻します。彼は平和になった世界の中で考えます、所詮は封印いつか必ず解けてしまう……何か手はないかと色々模索します」


 そうして、また彼女は話を切った。

 

「そこで彼は土地を転々とし、何かできることはないかと旅に出、その旅先で彼は結婚し、子を授かりました。そうして時が経ち、結局何の情報も見つからず諦めているときでした、封印のことについて書かれた文献が見つかりました。字はほとんど掠れて読めなかったが、森と祠の字だけは読み取れたため、この世界の全ての大陸の祠を探し回り彼はそこに書かれた祠を見つけました」

 

 普通に聞いている感じ、本とかにして出したら売れるんじゃないだろうか? なんて思いつつ俺は先が気になり普通に物語として楽しんでいた。すると、そこから彼女の声音が変わった。


「その祠で彼は妖精に出会い、彼は封印についての話を聞きました、このままだとあと10年で封印が解けてしまう事を聞きどうすればいいか彼は問いました。その妖精は封印を強化する方法を教えてくれましたが、その方法に彼は絶望しました。それは、一番新しい勇者の力を持った人をこの世界から存在を消すこと、それに当てはまるのは彼の娘でした。

 彼は悩みました、その妖精は娘を差し出せば1000年はこの世界は安泰になると約束してくれました。つまり1000年の人類の安全か娘1人を天秤に掛けられました」

 

 それは究極の選択だな……俺ならどっちを選ぶだろうか、うーん……だめだ、決められない。 てかこれ実話なのか? 


「そして、そんな彼を見兼ねた彼女は自ら決意し、彼女は妖精の力によってこの世界から存在を消され、世界は1000年の安全が約束されます。そうして彼女はこの世界からはいなくなります」

 

 ん……どういうことだ? つまりこの世界以外の世界に行ったと言うことだろうか? 良くわからんぞ。


「彼女は消えたあと、夢の中で妖精に勇者の血を絶やさず向こうの世界で生きなさい。と、言われ見たことも無いところで目が覚めます、そこは倭国と言われる場所でした」


 倭国ってことは日本か、俺達が住んでいた国だな。しかも1000年前くらいだと平安時代ぐらいだろうか? 彼女がどうなったかは気になるところだな。しかし、話は普通に面白かったけどどこが俺達に関係しているのだろうか?


「で、その話と俺達がどう関わってんだ?」

 

「分かりませんか? 貴方達はその彼女の子孫ということですよ」


 は? どういうことだろうか、俺達が子孫? いやいや、仮に子孫だとしてもこの世界に呼ばれたことの説明にはなっていない。


「子孫だったとして、俺達は何で呼ばれたんだ?」


「それは……もうすぐその1000年の時が経とうとしています。なので、魔王ベルザキアが復活した時のための力が必要なのです。貴方達勇者の血を引く者達の力が」


「俺達にその力があるとでも言うのか?」


「いえ、今のままではありません」


 なんだこれ、超展開過ぎるだろ…………

 俺達が勇者?

 だから呼ばれた?

 あり得ねえ……これからどうすんだよ。


「貴方達にはこれから力を付けてもらいます。そのためにはこの世界についてもっと知って貰うことが一番いいかと…」


「ちょっと待て、俺達に拒否権はないのか? それに俺達からしたらこんな世界どうなるかなんてどうでもいいから、早く元の世界に返して欲しい」


「そうですね、魔王を倒すのが勇者の使命ですから断るという選択はありませんね。魔王ベルザキアを倒して頂いたら元の世界に返してもいいですが…………」

 

 魔王いるところに勇者ありとは良くいったものだ。つまり、俺達には魔王ベルザキアを倒す以外の選択肢はないということか……諦めようそう思った。

 

「で? 俺達はこれからどうしたらいいんだ?」


 ため息混じりに俺は言った。


「まずは、ここから先の王都を目指すのはどうでしょうか? そこでは色々学べますし過ごすには丁度いいかと」


「後、魔王ベルザキアはいつ復活するんだ?」


「少なくともあと1年は復活しないと思われます。そこからさきはわかりません」


「……そうか。ならまず、王都を目指すとする。じゃあな」


 そう言いその場を去ろうとしたが、彼女はまだ話すことがあるらしく俺達を止めた。


「お待ちください、秋嶺様。これをお持ちください」

 

 彼女はペンダントを2つ渡してきた。


「これは常に持っていてください。それと、十分に力を付けたらそれを持ってまたここを訪れてください」


 と言って彼女は光の粒子となって俺達の目の前から消えた。


 俺は秋華へと視線を移し彼女にも今の状況をしっかりと説明し、彼等の所に戻ることにした。


  



  ーーーーーー秋華視点ーーーーーー

 

 彼女は祠からいきなり出現し、私達の前に現れた。お兄ちゃんと何かを話していたが、私には難しく今一よく分かっていなかった。一通り話を終えたのか、彼は私に振り返り分かりやすく私に説明してくれた。私達が勇者の子孫で、魔王を倒さなければならないこと。その魔王を倒さないと帰れないこと。これから近くの王都へ向かうこと。私は、驚いたが彼がそういうならきっと本当のことだろうと理解した。

 この時私は自分達が今どういった状況に置かれているかを完璧には分かっていなかった。彼に付いていけば大丈夫だろうと思い、彼の後を追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る