第5話 仲間

 ーーーーーー秋華視点ーーーーーー


 

 私は階段をかけあがり来た方向とは逆方向に走った、このままじゃお兄ちゃんが死んじゃう……そんなのは絶対に嫌だ。

 私は泣きながら無我夢中に走った、誰でもいいからお兄ちゃんを助けてよ。神様、私何にも悪いことしてないよ、なのにどうして? 私達はこんな目に遭ってるの? 嫌だ! 嫌だ!


「……誰でもいい……からぁ……お兄……ちゃんを助けてよ!」


 泣きながら叫んだ。


「……やだよぉ……お兄ちゃん……私を……一人にしないで……」


 私がその場に泣き崩れた時だった。


「あら? どうしたのかしらこんなところに小さな女の子が一人泣いているわ」


 女性の声が聞こえ、私は泣きながら彼女に飛び付いた。


「お願い……お兄ちゃんを……助けて……」


 彼女は事の重大さに気づいたのか私の話を真剣に聞いてくれた。


「そうですか、それはヒューマデビルですね……急がなければ危ないかもしれないわ、あなたお願いできるかしら?」


 彼女は近くにいたもう一人の男に言った。


「任せとけ! それでよ嬢ちゃんどっちから来たんだ?」


 私は来た方向に指を指した、すると男は一目散にその指を指した方に走っていた。


「もう大丈夫よ。ああ見えてあの人強いから」


 彼女は私を抱き締め言った。

 私はそれを拒否することなく受け入れ涙を拭い彼女に身を委ねた、安心した。


 そう思ったとき緊張の糸が切れたのかその場で眠ってしまった。


 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 俺は愕然としていた。

 一体、今の一瞬で何が起きたと言うのか? 俺は死を覚悟したはずだ、この男は俺の事を助けてくれたのか? とりあえず、お礼を言わなければと思い口を開いた。


「助かりました、ありがとうごさいます。えっと……」


 この人名前はなんて言うんだろう? と思ったが俺の言葉を遮り彼は言った。


「俺はセチルって言うんだ。少年のことは嬢ちゃんから話を聞いて飛んで来たんだぜ」


「秋華は無事なんですか! 良かったぁー」


 安堵した、それと同時に体の力が抜けその場に座り込んだ。


「少年、とりあえず傷を見せな」


 俺は言われるがままに肩の傷を見せると彼が何かを口にした。すると肩の傷の痛みが引いたのだ、俺は驚き彼を見た。


「こりゃあ、あくまでも応急処置だ。俺じゃ完璧には直せない」


 彼はそう言ってさらに言葉を続けた。


「よし! それで動けるだろ、嬢ちゃんもきっと心配してることだろう。戻るか!」


 彼は俺を連れ恐らく来た方だろう、そちらに向かって歩き始めた。


 そこには人影が見えた。真ん中に火を焚きそのサイドに女性が一人座っていた。


「おーい、コリン戻ったぞ。少年は無事だー!」


 セチルと名乗った彼は叫びながらそこに近づいて行った。


「あら、良かったわ無事で。でもあなた静かにしてくださいなこの子が起きちゃうわ」


 彼女は指を指した、そこには秋華が寝ていた。


「この子さっきまでお兄ちゃん……お兄ちゃんを助けてってずっと泣きながら私に言ってきてたのよ。

 きっと泣きつかれたのでしょう寝かしてあげときたいの」


「そうか、それは悪かったな……それで少年何であんなところに居たんだ?」


 俺はもう一度秋華を見て安心し、今まで起きたことを一から説明した。

 目が覚め、気づいたらこの世界にいたこと、南の祠に向かおうとして焼け野原に着いたこと、そしてトンネルのような場所で休憩していたら奴等が現れて襲われたこと。


「信じられんな、気づいたらこの世界にいただと? 有り得ないだろそんなの」


「いいえ、あなた古代の魔法に人を違う世界に転移させることのできた魔法もあったという話を聞いたことあるわ。それに、この子が嘘を付いているとは思えないの」


 彼女は彼の方を見て言った。


「それもそうだな少年が嘘をついて特になることなんてないしな、疑ってすまん」


 彼は俺を見て頭を下げた。

 彼等はそれ以上俺達の事について深く聞いてこなかった、きっと彼等なりの気遣いなのだろう……

 俺はしばらく目の前の火を眺めながら考えていた。なぜこの人達はこんなところにいるのだろうか? それにあの焼け野原何なのか? 考えても答えはでない、聞いた方が早いだろと口を開いた。


「えっと……セチルさんでしたっけ貴方達二人は何でこんな所にいたんですか? それにあの焼け野原では何があったんですか?」


 俺は素直に聞きたい事を聞いた。


「えっとな、俺達は冒険者なんだ。それでな国からこの前起きた魔族の襲撃によって破壊された都市の調査とそこから沸くであろうヒューマデビルの討伐の依頼を受けてな、ここに妻のコリンと一緒に来ていたんだ」


 つまり彼等は依頼のためここに来て、たまたま俺達を見つけて助けてくれたと言うわけか、俺はさらに詳しくこの世界のことについて聞いた。


 今、この世界は魔物と魔族の動きが活発になってきているらしい、これは時期に魔王が復活するための前置きいわば前兆らしい。それがいつかは分からんが周りで起こっている災害や敵の襲撃などを止めない訳にはいかない。

 それを止めるのが冒険者や討伐隊、国の兵士や騎士達、それに国の軍らしい。


 なぜ、俺達はこんな大変な時期にこの世界に呼ばれたのだろうか? そこはあいつレストに聞かないと分からないかと思い話を続けた。


「それより少年、話もいいが腹減らねぇか? コリンの飯はうまいぞ」


 彼は俺を見て言った。

 確かに腹は減ってきたな、最後に物を食べたのはあの弁当が最後だしな。


「えぇ、お腹は空きました。でもいいんですか? 僕達もご一緒して?」


 俺は少し遠慮した、すると彼等は


「何いってんだ、そこは腹へった何か食べさせろぐらいが丁度いいんだよ」


「そうよ、困った時はお互い様よ。遠慮なんてしなくていいのよ」


 俺はそう言われ秋華を起こしを頂くことにした。

 飯はシチューだった、秋華は目を覚ますと同時に泣きながら俺に飛び付いてきたがしばらくして落ち着いてから飯を頂いていた。

 そのシチューの味は頬が落ちるほど旨かった。


 その後飯も食べ終わり、ゆっくりしていると彼が話しかけてきた。


「それで少年これからどうするつもりだ?」


 うーん、この世界の事については彼等が教えてくれたからだいたいわかったが、やはり祠に向かうのが一番だろうか? 俺達がここに呼ばれた理由が一番聞きたいことだしな。


「祠に向かおうと思います」


 俺は丁度火を挟んで反対側にいる彼にそう言った。


「でもよ、少年。この辺りはまだ何が起こるかわからねえぞ、それに多分その祠よ、ここから歩いて3日はかかるぜ」


 まじかよ、しかも3日だと。

 レストの奴そんなに掛かることも知ってて俺たちに向かえとか言ったのか? 無理ゲーだろ、後で文句の一つでも言ってやろう。


「そうですか……。これから…………」


 と、俺が話そうとすると彼は俺の言葉を遮り近づいてきた。


「そこでよ、提案なんだが……俺達も後は向こうの惨事を見たら帰るだけなんだよ。それに帰り道でその祠の近くも通るんだ、一緒に来ないか」


 こんなに都合が良いことが遭っていいのだろうか? これもあいつの予想通りなのだろうか? いいや、それはないな。そうなら説明しないわけないしな、断る必要もないし一緒に行こう。


「では、そうさせてもらいます。少しの間お世話になります。よろしくお願いします」


 頭を下げた、そうして俺は自己紹介をしてないことを思いだし名乗る事にした。


「そういえば、まだ名前言ってませんでしたね。俺は秋嶺と言います、こっちは妹の秋華です」


 彼女も紹介するとペコリとお辞儀をしていた。


「おう、宜しくな、俺達も改めてするぜ。俺はセチル、こっちは妻のコリンだ」


 それから俺達は片付けを済ませ寝ることにした、どういうわけかコリンさんが何かを唱えたと思ったらシュラフが宙から現れた。

 きっと魔法かなにかだろう……肩の怪我が直ったこともそうだし、さすがに驚かなかった。


 俺は渡されたシュラフに入り寝る準備していた、すると秋華が一緒のシュラフに入ってきた。とても狭い、少し不満を感じたが、今日起きたことを思えばいいかと思いそのまま何も言わずに彼女を受け入れた。

 それに俺もあんな目にあったんだ、すぐに眠れるわけないとシュラフ中で色々考えていたが体は疲れていたのだろう。


 俺はそのまま眠ってしまった。

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