第4話 草原での出来事
「しっかし本当に、見渡す限り草原だな」
本当に森林なんか見えてくるのだろうか? 心配だ。
「お兄ちゃん、こっちだよ!」
秋華は先人をきってペンダントを顔に翳して進んでいた。
「危ないから先にいくなよ」
「もぅ、心配性だなお兄ちゃん。大丈夫だよ、ここら辺は草原しかないし何か来たらすぐ分かるもん」
はぁ、誰だっけ最初に武器を探した方が良いとか言った奴は……まぁ確かに周りは草原が拡がっているだけだし危険は無いから良いか。と、俺は少し警戒を緩めた。
「それでも、怪我されたら困るからあまり離れるなよ」
「分かったよ、もぅ!」
彼女は不満そうな顔をしつつも近くに寄って歩きだした、言うことを聞いてくれるだけましだな。
「それにしても、どこまで歩けばいいんだろうね?」
「そうだな、いい加減何か見えてきて欲しいものだが」
電車を降りてから既に1時間くらい経過していた。流石に疲れてきたな休むかと思っていると何か向こうに見えてきた。
「お兄ちゃん、何か見えるよ?」
「なんだろうな、とりあえずあそこまで行ってみよう」
俺達は小走りでそこを目指した。
俺はそこについた瞬間その場に広がる光景を目にして衝撃を覚えていた。
一歩後ろには先程歩いてきた草原が拡がっているのだが俺達が立っている場所から一歩先には焼け野原が拡がっていた。
「お兄ちゃん……何これ……?」
俺も聞きたいくらいだ! しかし一体何が起きたらこんな風になるのだ。分からない、落ち着け俺!
俺は彼女に視線を向けた、震えていた。
「とりあえず、ここから離れよう」
俺は彼女の手をぎゅっと握り締め、来た道を一回戻りその場を後にした。
「一体、どうなってるんだここは、おかしいだろ」
南に向かえば森林があるんじゃないのか? そんなものどころかあったのは焼け野原だけだぞ、ふざけんな! しかもあの様子だとここ最近の出来事だろうな、まだ火が残っていた。
「……お兄ちゃん、私、怖いよ……」
彼女は震えながら俺の手をぎゅっと握り腕にしがみついていた、本当に怖いのだろう秋華はまだ10歳だ。
あの光景見るのはきついはずだと思い、頭を撫でた。
「それにしてもこれから先どうすれば……」
俺は考えた、先に進むにしてもあそこを通らなければならない。それにこれから来た道を戻っても振り出しに戻るだけ、どうする? そんな時だった。
「……お兄ちゃん、一応ペンダントで行く方向確認してみたら?」
そうだな、何かの間違いで俺達二人はこの焼け野原に行き着いてしまったのかも知れない。きっとそうだ、なんて楽観視してペンダントを顔の前に翳し絶望した。その光の線は焼け野原の遥か向こうに向かって延びていた。
「どうだった……?」
「焼け野原の向こうを指していた…………」
俺達二人は黙った。
時間としては数分いや数十分だろう……その場に座り込み空を眺めていた。
「お兄ちゃん……先に進もう」
先に口を開いたのは彼女だった。
俺は彼女を見て驚き、さっきまであんなに怖がっていたのにどういう心境の変化だろうと思った。
「だって……こんなところでうじうじしてても仕方ないよ、それにいつ日が暮れるかも分からないんだよ。夜になって動けなくなる方が私怖いよ」
彼女はぱっと立ち上がり俺の目の前に立って震えながら言った、きっと勇気をだして言ったんだろう。
よし! 俺も覚悟を決めた。
「そうだな! 行こう!」
俺達は焼け野原の方に向かって歩きだした。
相変わらずそこは酷かった、地面には草一つ生えていない、周りにはまだ火が燃え上がっている所もある。
クレーターのような穴や民家だったのだろうか、建物のような物は全て元の形を保たずほぼ全壊していた。
俺は彼女の手を握り一歩、また一歩と歩いていた。
「……お兄ちゃん、やっぱり……私まだ怖い」
彼女は目をつぶり腕にしがみついていた、俺だって怖いんだがな。
いや、こう言う時こそ兄としてしっかりしないといけなよな、おんぶしてやろう。そう思い俺は屈んで彼女を背負い進んだ。
そこから先も進んでも、進んでも同じ光景が広がっていた。本当に何があったのだろうか? これもあいつ、レストが教えてくれるだろうか? なんて考えつつ数十分ほど歩いた。
「あそこ見て、お兄ちゃん」
俺は、そちらに視線を向け疑問を覚えた、あれはなんだろうか? 洞窟か? と、思い近付いた。
「これは? 洞窟? いやトンネルか?」
いやどっちでもないな、確かに道は先に続いているし真っ直ぐいけば向こう側に出られる、ここまでは普通のトンネルだろう。
ただ、左右にも人が入れそうな穴が何個も空いていて俺が知っているトンネルとは少し違っていた。
「とりあえず、入ってみるか」
俺はトンネルに似たそこに足を踏み入れた。
「暗いね……それになんか匂わない?」
「確かにちょっと臭いな」
中は何かが腐ったような匂いがしていた、俺は左右の穴を覗き下に階段が延びているのを確認した。
「秋華、俺は一回下まで降りて見るけどお前はどうする?」
「一緒にいくよ、それに……置いてかれるほうが嫌だよ」
まぁ、それもそうかと思い階段を下り始めた。
段数としては五十段くらい下りただろうか? その先にはドアがあった、鍵穴はあるが既にドアは半分空いていたので俺はドアを引いて中を覗いた。
「こりゃあ、酷い……。匂いの原因はこれか」
中では、得たいの知れないものが腐っていた。
多分見た感じ食べ物であろう、何故かって? それは箱の中に沢山同じものが詰まっているし、虫もたかっていたからだ。
ならここはきっと倉庫かなんかだったのだろう、これは非常食? いや腐る物は非常食には出来ないしな、後有り得るとしたら出荷するために一時的に保管してたとかだなたぶん。
俺はドアを閉め反対側に向かった。
「こっちの部屋には見た感じ何にもないな」
そこは普通に生活出来そうな部屋だった、休むには丁度いいかも知れない、部屋を見渡し安全を確認するため中に入った。
「どうだ? 匂いはちょっとあれだが疲れたしここで休むのは?」
「うーん……そうだね何か色々あって私も疲れたし休みたい」
彼女は壁に腰かけ座った。
しかしこの部屋は暗い、それに今はまだ少し光が差し込んでいるため多少暗くても対応ができるけど、夜になったら何にも見えないよなこれ。どうしたものか?
俺はダメ元で電気のスイッチとかないのかと探し、部屋の壁を手当たり次第触った。
しばらくして何か手に当たったそれはいきなり「ヴォン!」と音を鳴らし、部屋に明かりが灯った。
「うわ! 眩しいよ」
よし、ビンゴ。
俺の見解だとここは倉庫だと思っていたので電気くらいあるだろうという予測はあっていたか、無かったらどうしようかと考えたところだ。
俺は手が当たった壁に目線を向けた、そこには明らかに俺が知っているスイッチやボタンでは無いものがあり丸い球体のような形をして大きさは手で掴めるくらい、しかも壁にはまっていた。
「押しても、引いても何にも反応しないし、どうやって付けたり消したりするんだこれ?」
まぁいいか、このよく分からない世界に来てから色々現実ではあり得ないことも起きてるしな。これぐらいで驚いていたらこれから先持たないと思い、彼女の隣に座った。
はぁ、何か色々あって凄く疲れた気がする、こちらに来てからずっと歩いていたしな、なんだか眠くなってきた……ここなら仮眠ぐらい平気だろうと思い、俺は眠りについた。
…………俺はこの時眠った事を後悔することになる、この後あんなことが起こるなんて……。
俺は思い知る、ここには安全な所などないのだと。
「……ちゃん、起きて……」
俺は体を揺すられ目が覚めた。
軽く寝るつもりだったが、どうやら結構長い時間寝ていたらしい、外は暗闇に包まれていた。
「お兄ちゃん……おしっこ……」
俺はおしっこじゃないぞ……ふざけるのはやめよう。
こんな状況だ、トイレなんて部屋の隅でしてしまえと指を指した。
「嫌、部屋の中だよ……それに今日はもう暗いし、ここに寝泊まりするんだから絶対嫌!」
わがままな奴だな、でも確かにこれから寝る所に汚物やら排泄物があるのは嫌だなーー彼女を連れ階段を上り外に出た。
「……お兄ちゃんになら見られても良いよ……」
彼女は顔を赤らめながら言ってきた。
誰が楽しくて妹の放尿シーンなんか見るか! と思い適当に返事をして反対側で俺もついでに用を足した。
「はぁ~、スッキリした。我慢してたからいっぱい出たぁ~」
などと要らない報告をされ気にせず戻ろうとしたが、何か声のようなものが聞こえた。
俺は辺りを見渡した…………何もいない、何だ気のせいかと思い視線を彼女にあわせ戻ろうとした時だった。
彼女の遥か向こうにそいつらはいた、ここからでは大きさは分からないが数は、1……2……3……4…………ざっと10体ぐらいだろう。
そいつらは片手に剣を持ちこちらに向かってきていた、俺は急いで彼女の手を引き部屋まで戻った。
くそ、なんなんだ、あいつら? 俺達を襲いに来たのか? いや、襲うなら俺達が寝ている時に来れば良いしな隙ならいつでもあったはずだ。
おそらく襲撃ではないはず……俺は彼女を近くに寄せ耳打ちした。
「……やり過ごそう、大丈夫だ。声を出さなければ気づかれない」
彼女は無言で頷きじっとしていた、それを見て俺もやつらが来ないように願って身を潜めた。
……結構長い時間がたった気がする、外はどうなったのだろうか? 音は聞こえない静かだ。
そろそろ大丈夫だろうと思い俺は警戒しつつ扉を開けた、何も居なかった、ふぅ~良かったと一息つこうとした時だった。
カツン、カツンとその音は階段の上から聞こえてきた、まだいたのだ……抜かった。
もっと待つべきだったどうする? 何て考えているうちにそいつはこちらを見て階段を下りてきた、俺は扉を閉め彼女を呼んだ。
「すまん、やつらに見つかった。俺から絶対離れるな」
彼女は急いで俺の一歩後ろに近づいてきた。
「え! 見つかったの? どうするの、お兄ちゃん」
「分かんないけど、とりあえずここを抜け出すことを優先しよう。話はそれからだ」
俺達は今入り口が一つしかない部屋に追い詰められている、絶体絶命だ。
扉も頑丈にできていたが壊されるのも時間の問題だろう……俺はポケットに手を突っ込みナイフを構え、奴らを待った。
ドーン! とドアが壊れ奴が中に入ってきた、さっきは暗いし遠くでよく見えなかったが近くで見ると人の形をした化け物であった。そんな奴が剣を持っているのである。
どうする? こんなナイフで戦えるのか? いや、やるしかない、そう思ったが俺は一歩、また一歩と部屋の隅に追い込まれていた、肩が壁に当たった。
それと同時に奴は剣を振りかざしてきた、俺はそれをナイフで受け流そうとしたがナイフなので流しきれず肩に怪我を負った。
俺は血が出る肩を押さえて
「……秋華逃げろ、今しかない」
と、言って彼女を階段の方に押し出し逃がした。彼女は俺を見て何か言いたげな顔をしていたが、すぐに走り去ってしまった。
それでいい、あいつだけは助かってほしいものだと思い俺は目の前の奴に視線を戻した。
「こっちだ、化け物」
持っていたナイフを投げ、奴を誘導し俺も階段をかけあがった、畜生……柄でもねえことしてしまったぜ。何て思い後ろを見た、奴は追ってきていた。
走るスピードは奴もそんなに速くないな……これなら逃げ切れるかもしれない、俺は肩を押さえながら死に物狂いに走った。
しかし、俺には限界が近づいていた。
っ! やばい意識が朦朧としてきた……肩から血が思った以上に流れていたらしい、血が足りないのだ。
くそ、ここまでかと思い俺は秋華のことを思いだしていた、無事に逃げられただろうか? そうであってほしいと足を止め死を覚悟した時だった……
「やっと見つけたぜ、このくそヒューマデビルめ!」
見知らぬ男の声が聞こえた。
「十匹目、任務完了っと。無事か? 少年」
そこには男が剣を抜いて立っていた。
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